インタビュー

「オンライン診療は非効率だった」小児科医が特許を取ってまで変えたかったもの

「オンライン診療は非効率だった」小児科医が特許を取ってまで変えたかったもの
PROFILE
株式会社オンラインドクター.com 代表取締役会長CEO
鈴木 幹啓

株式会社オンラインドクター.comで代表取締役会長CEOを務めている鈴木幹啓です。オンライン診療のマッチングシステム「イシャチョク®」を運営しながら、今も現役の小児科医として診療を続けています。医療とITをかけ合わせることで、患者さんと医師の双方が困っていることを解決したいと思い、この事業をおこなっています。

コロナ禍で見えた医療の課題

病院から患者が消えた

創業のきっかけは、2020年から本格的に広がった新型コロナウイルス感染症でした。当時は、「熱が出たあと4日間経つまでは家にいてください」、「不要不急の外出はやめてください」など、かなり厳しい制限がありましたが、私は小児科医でもあるため、実際の影響を現場で強く感じていました。

例えば、アトピー性皮膚炎や気管支喘息などの慢性疾患の患者さんは、病院に来るとコロナに罹るかもしれないという不安から、月1回だった受診を3ヵ月に1回にしてくださいと頻度を減らす状況になりました。その結果、私たちは医療機関としての経営が成り立たなくなりますし、患者さんの変化に気づくのも3ヵ月後になってしまい、双方にとって良くない状態でした。

オンライン診療の使いにくさ

その頃、初診からのオンライン診療は、「かかりつけ患者に限る」という条件付きの時限措置として解禁になりました。そこで有料・無料を問わず、さまざまなオンライン診療システムを試してみましたが、すごく使い勝手が悪く、かえって疲弊してしまいました。

例えば、予約していた患者さんが10分経っても入室してこないと不安になりますし、こちらも前の患者さんの診療が長引いた場合、時間的にひやひやしてしまいます。対面診療と比べて問診や診断、処方までを画面越しでおこなう分、スキルが求められるはずなのですが、診療報酬点数は対面より低いのです。本音を明かせば、大変な割に見合わないという思いがありました。

患者と医師をマッチングさせる発想

2020年10月、私は現状のオンライン診療の非効率さを何とかしたいと決意しました。当時は「初診でもかかりつけでなくてよい」や「距離制限も撤廃する」などの規制緩和に関する情報も流れ始めていて、タイミングとしても良い後押しになりました。

患者さんが受診したいと思い、プラットフォームに入ってきたタイミングで、手の空いている医師にメールが飛び、その医師が引き受けられる状況の時だけ引き受けるという構図であれば、患者さんは手の空いている医師からオンライン診療を受けられ、医師も対面診療の隙間時間を活用できます。このアイデアで特許を申請し、システムを開発したのが「イシャチョク®」の始まりです。

医師集めと資金調達に苦労した

事業を始めてから一番苦労したのは、医師を集めることでした。オンライン診療は手の空いている医師でなければ引き受けられないため、まずは賛同してくれる医師にどうやってアナウンスするかからのスタートでした。創業したてのため、マーケティング費用も限られている中、いかに医師を獲得していくかは大きな課題でした。

資金面でも最初は自己資金でまかなっていました。自分の貯金を会社に貸し付けて、それを株式に交換する形です。ただし、この方法には限界がありますし、何をすれば資金調達できるのかというノウハウもありませんでした。

最初は株式型クラウドファンディングで株主を集めて資金調達をしたのですが、今度は「反社チェックができているのか」や「クラウドファンディングをやっている会社には投資しづらい」などの声が出てきました。そこで少数株主から株式を買い取り、大口の出資者からは改めて資金調達をするというフェーズを経験し、ここでも苦労しました。

M3グループとともに、世界を目指す

今はありがたいことに、さまざまな企業様と取引させていただき、医療業界で最大手のエムスリーグループからの出資も受け、主要株主にもなっていただいています。連結子会社ではなく、あくまで株主としての繋がりですが、この関係性の中で、私たちはエムスリーグループに対抗できるくらい会社を大きくしていきたいと考えています。

AIを活用したプロダクトの開発や海外の技術を持つ企業とのタッグも視野に入れたり、世界的なオンライン診療の需要さえも見込んだりする中で、国際特許も申請しました。ちなみに、東南アジアについては、特許が認められる見込みの段階まで進んでいます。

広告費をかけずに患者さんを増やす仕組み

弊社はテレビCMやSNS広告を打っていません。理由は単純で、マーケティングにかけるお金と得られる効果、いわゆるCPA(顧客獲得単価)が見合わないからです。

そこで採っているのが、すでに顧客を抱えている企業様に私たちのシステムをOEM(相手先ブランド製造 )で提供する戦略です。わかりやすく例えるなら、プライベートブランドのカップ麺が実は大手メーカーの工場で作られているように、私たちが元売りとなって、ヘルスケア分野に参入したい企業様に「イシャチョク®」の仕組みを卸しています。サービス自体は相手方の名前で展開されるため、大本が「イシャチョク®」であることは表に出てこない場合もあります。しかし、これができるのは、他企業と組める特許を持っているからこそです。

たとえば修学旅行中に体調を崩した学生をオンライン診療でサポートする提携や海外旅行中の患者さん向けに相談ベースで対応する仕組みもあります。そのため、企業と業務提携すればするほど、患者さんが自然に増えていく構造になっています。

企業に直接、福利厚生として導入いただくケースも増えています。従業員の健康に配慮している会社であれば、採用面でのブランディングにもなりますし、通院のために半休や休みを取る従業員が減れば、企業としても人材の損失を防げます。

関係者すべての利益を目指して

オンライン診療は通常、システムを提供するベンダー(売り元)か各クリニックが、患者さんから通信料やシステム利用料を受け取る仕組みになっています。私たちの場合は、患者さんを集めてくるのは自分たちのため、医療機関側はシステム利用料を取らない契約になっています。その分、システム利用料は私たちの会社に入ってくる形です。

福利厚生として企業に導入いただく場合は、従業員がどれだけ使ってもいただく金額はサブスクリプションで決めているため、従業員のシステム利用料は実質無料になります。企業としても、従業員の健康を守りながらコストを見通しやすいというメリットがあります。

学生へのメッセージ

医療ITという分野は、eコマースやAI開発などと同じくIT企業の一種でありますが、医師免許を持っていなくても医療の知識が得られるという特徴があります。この知識は、将来どんな分野に進んでも生きてくると思っています。

健康相談やヘルスケア、美容など、医療が関わる分野はとても幅広いです。「医療ITで働いたことがある」という経験は、例えば、製薬会社で新規IT事業を立ち上げるなど場面で、より専門性の高い人材として重宝されるはずです。ぜひ、この分野に飛び込んでみてほしいと思っています。

 

編集後記

今回は鈴木様に、コロナ禍から生まれたオンライン診療の課題やそれを解決するための特許取得に至るまでのお話をうかがいました。非効率だと感じたことをそのままにせず、特許という形にまで落とし込んでいく行動力が印象的でした。医療とITをかけ合わせるという発想も、これからのキャリアを考えるうえで参考になりました。貴重なお時間をありがとうございます。