インタビュー

テクノロジーから取り残される人をなくしたい。エンジニアから見た、AI時代を生きるための処方箋

テクノロジーから取り残される人をなくしたい。エンジニアから見た、AI時代を生きるための処方箋
PROFILE
株式会社SoundForest 代表取締役
音森 一輝

前職から独立まで

コロナ禍が独立の転機に。

私は岡山県出身です。大学から東京に出てきて、情報系の大学院を修了したあと、独立系のSIerに入社しました。そこでシステムエンジニアとして、7〜8年ほど会社員生活を送っていました。

転機になったのは、コロナ禍です。在宅勤務やリモートワークが主流になったことで、時間的な余裕がかなり生まれたんですよね。そこから副業として、いろいろなお客様や案件に携わるようになりました。会社員では見えなかった世界を知ることができましたし、収入面でも変化がありました。

副業の内容は、本業とほとんど同じ、会社の業務効率化やDX支援でした。今でいうところの、「AIをどう会社にフィットさせるか」というコンサルティングに近いこともやっていました。

起業家精神はなかった

正直なところ、ガツガツした起業家精神やハングリー精神があったわけではありません。ただ、それなりに積み上げてきたキャリアがあるなら、それを埋もれさせずに、もっと世の中のために活かしたほうがいいと思うようになりました。

会社員を辞めることは、勇気がいることだと思います。ただ振り返ると、会社員のままだったら外の世界が見えず、辞める決断もできなかった気がしています。会社にいると「外では通用しないよ」というマインドコントロールをどこかで受けてしまうものだと思うんです。実際にフリーランスとしていろいろな会社様と関わるなかで、自分でもやっていけるという自信がつきました。そこから、起業という選択に至りました。

OTOMOシリーズという3本柱

目的を見失わないために

システム開発は、あくまで手段でしかありません。お客様のビジネスを良くする、目的を達成するための手段です。ただ、その目的が見失われがちだと感じています。

弊社では「OTOMOシリーズ」という名前で、桃太郎のお供である犬・猿・キジになぞらえた3本の柱でサービスを展開しています。

AI導入とリスキリング

1つ目は、今話題のAI導入支援です。お客様のビジネスにとって本当にAIを導入すべきかどうかも含めて整理したうえで、フィットするならどう使うかをご提案する、コンサルティングに近い形です。

2つ目は、ITのリスキリングです。社員の方にITやビジネススキルを新しく定着させ、生産性を上げていく取り組みですね。学んでいただき、AIも駆使しながら自社内でサービスを運用していける力を養っていただく、教育に近いサービスです。

最後が、DX支援としてのシステム開発です。方針を立てて自社で内製化できるならよいのですが、リソースを割く余裕がない場合には、外注として弊社が開発を引き受けます。

弊社の強みは、伴走支援です。魚を与えるのではなく、魚の取り方を学んでいただきたい。だからこそ、この順番でご支援をしています。桃太郎は、お客様を例えたものです。まるっと外注というのは、どうしても手が回らない場合の最後の選択肢という位置づけですね。

自社サービス「まもっぴ」

OTOMOシリーズとは別に、自社サービスも展開しています。「まもっぴ」という、ICタグとスマートフォンのNFC機能を組み合わせた迷子・忘れ物解決システムです。事前に物にICタグをつけておき、なくしてしまったときに、拾ってくださった方がスマートフォンでかざすと、持ち主とやりとりできる仕組みです。

私たちは、「まもっぴ」を社会のインフラにしていきたいと考えています。既存のGPSサービスは位置情報が分かってしまうためストーカー被害につながる懸念がありますし、価格も2,000円から3,000円程度と高めです。弊社では200円から300円程度で、気軽に物へ取りつけられる製品を目指しています。

議論しながら進めるスタイル

AI導入やDX支援の会社は増えていますが、弊社ならではの特徴は、教育という側面を大事にしているところだと思います。お客様の言いなりになって言われたものを作るのではなく、上流にさかのぼって、批判的な視点も持ちながら一緒に考えることを意識しています。お客様とじっくり議論をしながら進めることが多いですね。

あえて社員を雇わない理由

弊社は従業員を雇わず、副業役員として関わってくださる方が集まり、取締役会を形成しています。今は5人の役員で運営しています。

従業員を雇わない理由は、弊社はまだ発展途上の段階で、従業員を雇ってどんどんスケールしていくという段階にはないと考えているためです。ビジネスの種のようなものを発芽させ、いずれは事業売却につなげられればと考えています。

起業の壁は「変わらないもの」

事業そのものでつまずくことは、幸いあまりありませんでした。ただ、法人を立ち上げる際の行政手続きや、国の法律、銀行の手続きなど「変わらないもの」を相手にするときは苦戦しました。特許や商標も、なかなか通りにくく時間がかかりました。

こうした手続きは最初、分からないことばかりです。結局は自分でその場に足を運んだり、紙の書類で対応したりするしかなく、そこは大変でしたね。ただ最近は、法人立ち上げ支援を行う会社様も増えていて、だいぶ良くなってきたと感じています。分かりづらいからこそ、そうした職業が成り立っているのかもしれません。

テクノロジーから取り残される人をなくしたい

AIの波に、みんなで乗る

会社を立ち上げようと思った根っこには、驚異的なスピードで進化するAIに取り残される人が増えるのではないか、という懸念がありました。すでにAIを使いこなして稼いでいる人をさらに稼がせたいわけではなく、テクノロジーから取り残される人をなくしたいという思いが強くあります。

資本主義のもとで格差が広がっていることを痛感しているからこそ、まずは日本、そのなかでも経済的に厳しい層の底上げを目指していきたいと考えています。みんなで技術を学んで、、みんなで波に乗っていける世の中にしていきたいですね。困っている方を助ける社会インフラのような存在を目指し、小さな種から芽を出すようなサービスを高頻度で展開していければと思っています。

認知度という課題

このビジョンを達成するうえでの課題は、認知度やブランド力だと感じています。社会的に役立つけれど、お金になりづらいというサービスも多く、そこは資本主義の難しさでもあります。国や自治体に導入していただくことも視野に入れつつ、本当に困っている方々の声を聞いていく仕組みも必要だと考えています。

学生時代に得た、選択肢と仲間

岡山の少年合唱団から早稲田へ

出身大学は早稲田大学基幹理工学部です。サークルは早稲田大学合唱団で、学生指揮者を務めていました。合唱は小学3年生のころ始めて、地元・岡山県の少年合唱団に所属していました。ちなみにその合唱団の名前は「桃太郎少年合唱団」といいます。奇しくも、「OTOMO」のサービスコンセプトにも通じていますね(笑)大学生になってからも、女声に混ざってアルト(男性にとっては高音域)のパートで歌っていました。

アルバイトは、高田馬場にある個別指導塾で中高生に数学や理科を教えていました。大学時代には教員免許(中学・高校、数学)を取得し、教育実習にも参加しています。先生から一般企業への転職はしづらいこともあるので、選択肢を広げる意味で、まずは民間企業に就職して、後からいつでも先生になれる道を選びました。

現在の取締役会のメンバーは、大学時代のサークルの友人や、趣味を通じてつながった方々です。学生時代に打ち込めるものや、そのための場を見つけることは、とても大事だと感じています。社会人になると能力の差はそれほど大きくないので、それよりもいろいろなバックグラウンドを経験した人とチームを組めるかどうかが大切だと思います。勉強は社会人になってからでも追いつけますが、一生付き合えるような、支え合える友人との出会いを大事にしてほしいですね。

やりたいことより、やりたくないことを考える

学生のみなさんから多い相談は、「やりたいことが見つからない」というものだと思います。私からのアドバイスとしては、逆にやりたくないことを考えてみるとよいのではないかと思います。

私自身、できるだけ人生を楽に楽しく過ごしたいという気持ちが根底にあります。能力やスキルを身に着ければ、嫌なことを避けられますし、上司に正論を主張することもできます。いつでも進める別の選択肢を作っておく、という感覚を持っておくとよいと思います。

編集後記

今回は株式会社SoundForestの代表取締役、音森一輝様にお話を伺いました。エンジニアとしてのキャリアを土台にしながら、教育や地域社会への思いを事業の軸に据えている姿が印象的でした。AIが急速に広がるなかで「取り残される人をなくしたい」という言葉には、テクノロジーと真剣に向き合ってきたからこその重みを感じます。やりたいことではなく、やりたくないことから考えるというアドバイスは、進路に悩む多くの学生にとって、新しい視点になるのではないでしょうか。