学生時代はサッカーから「社会を学ぶ」へ
高校まではサッカー一筋だった
私は高校生まで、ずっとサッカーをはじめとするスポーツに打ち込んできました。大学生になってからは、自分でプレーするというよりも教える側に回り、コーチ業をさせていただくようになりました。それにくわえて、社会経験を積むためにアルバイトも数多く経験しました。大学生活は、スポーツに打ち込むというよりも、幅広く社会を学ぼうというかたちに切り替えて、楽しく4年間を過ごしました。
家業を継ぐ前に「サービス業」を選んだ
高校までスポーツをすると決めていたぶん、その先に何ができるのかを考えたとき、社会的な経験もしておきたいという思いがありました。大学を卒業したら家業を継ぐことは決まっていたので、それとは違う「サービス業」の経験を積みたいと思い、アルバイトを選びました。
家業を継ぐまでの回り道
あえて4年間、他社で修業した
私自身は父がこの仕事をしているので、いわば二代目というかたちで携わらせていただきました。ですが、いきなり家業を継ぐことには抵抗もあったので、4年ほど同業のスポーツ関係の仕事を経験しました。同じ業種でも違った視点から見ることができ、そこから今の会社に入社し、現在に至ります。
「教育」と「ビジネス」、二つの顔を持つ難しさ
子どもを楽しませることが、まず難しい
弊社がおこなっているのは、幼稚園・保育園・小学校の子どもに運動やスポーツを教える仕事です。一番の大変さは、子ども自身に興味を持ってもらい、楽しんでもらうという部分が、何よりも得意でなければ成り立たない仕事だという点にあります。
「教育」と「利潤」のバランスを取る
次に大変なのが、教育業をビジネスとして成り立たせることです。今でこそ教育業で成功している企業もありますが、弊社が始めたころは、教育業=ビジネスというよりも、ボランティアに近い性格が強い分野でした。理想的な指導を追求することと、人件費が高騰するなかで利潤を追求することのバランスを取るのが、この仕事の難しさだと感じています。
小学校や中学校の先生であれば公務員ですので、利潤よりもよい教育を届けることに専念できます。逆に、スイミングスクールのような習い事専門の場では、スクールビジネスとして割り切ることができます。ですが私たちの仕事は、午前中は学校や園から依頼されて体育の授業のようなかたちで教育業として関わり、午後になると保護者の方から料金をいただくスクールビジネスに変わります。この二つの顔を、スタッフ一人ひとりが両立させることがとても難しいところです。
会社自体は50数年、私が入社してからも20数年が経ちましたが、これから新しい時代に向けてどうしていくか、今はまさに過渡期だと感じています。
スマートフォンの時代だからこそ、「体ひとつ」の遊びを
気軽に体を動かせる環境をつくりたい
これからを考えると、まず子どもたちを取り巻く環境の変化があります。スマートフォンの普及やタワーマンションの増加、東京一極集中などによって、気軽に運動したり遊んだりする環境が少なくなってきました。習い事をしないと体を動かす機会がない、という状況が増えているからこそ、誰もが楽しく運動を経験できる場を提供したいと思っています。
当たり前だったことが、今の世の中では当たり前でなくなっている。だからこそ、あらためて当たり前にしてあげたい。0歳から12歳くらいまでの時期に、体の土台、心の土台をつくるお手伝いをしたいと考えています。
近未来的な運動体験にも挑戦している
もうひとつ、新しい取り組みとして考えているのが、近未来的なツールを使った運動です。すでにAR運動というかたちで挑戦を始めていて、対面の指導者と子どもたちが一緒に体を動かすだけでなく、プロジェクターで壁や床に映像を映し出し、その映像とともに体を動かすといったことにもチャレンジしています。昔ながらの運動や遊びを大切にしながら、こうした新しい環境も広げていきたいと思っています。
部活動の受け皿には、あえて参入しない
放課後の部活動が地域のスポーツクラブなどに委託されるケースが増えていますが、私たちは小学生までを対象としているため、中学・高校の部活動移行には今のところ関わっていません。
理由は、専門的な指導ができる先生が少ないなかで受け入れても、子どもたちが本当に楽しめるかどうか疑問が残るからです。世の中的には、そうした受け皿が増えることで子どもたちの居場所が増えるのはよいことだと思いますし、後押ししたい気持ちはあります。ですが、責任を持って専門的に見られる体制が整っていない状態で、当社が大々的に参入するのは今のところ考えていません。
子どもが本当に楽しめる環境とは
道具より「好きな先生」「好きな仲間」
道具がなくても、先生のことが好き、その場所が好き、仲間が好きという環境さえ揃えば、子どもは永遠に楽しく遊びます。逆に先生がつまらないと感じてしまうと、結局スマートフォンに流れていってしまいます。
大切なのは、先生たちが1時間でも2時間でも子どもと向き合える場所をつくる工夫をすることです。そのうえで子どもたちが自主的に、主体的に取り組めるようになる。土台がしっかりしていることで、大学に入って起業したり、仲間をつくったりする力にもつながっていくと考えています。
先生たちの「自己肯定感」を高める連携を
早い段階から子どもに興味を持ってもらうため、小学生や高校生にもこうした仕事に目を向けてもらいたいと考えています。高校生が子どもと関わることで、子どもたちが生き生きする姿も見てきました。あわせて、高齢者の力を借りて昔ながらの遊びを取り入れることも、子どもの楽しさにつながっています。
もっと言えば、スポーツ指導者と幼稚園・保育園の先生、小学校の先生がそれぞれ連携し、情報を持ち合って助け合っていく。1人にしない体制をつくることで、先生自身が「自分のやっていることは間違っていない」と自己肯定感を高められると考えています。自己肯定感が低いままだと「もう辞めよう」となってしまいますので、まずは今の連携先から少しずつ広げていきたいです。
子どもの成長を通して、自分の成長を感じてほしい
学生の方には、1日でも3日でも1週間でも一緒に現場に入ることで、子どもがものすごいスピードで成長する姿を見てほしいと思います。その成長を感じることで、自分自身の成長も実感できるはずです。うまくいかないこともありますが、うまくいったときの喜びはとても大きく、生きている実感のような価値観が高まっていきます。子どもを通して自分が成長できることを感じてもらう。これが、学生の方に一番伝えたいことです。
たくさん失敗して、たくさん挑戦してほしい
子どもたちにも伝えていることですが、たくさん失敗してください。失敗することで学びがあり、それを自分のなかで肯定していくことで、物事はつながっていきます。失敗を恐れてしまうと、前に進むこともできません。たくさん失敗して、たくさん挑戦する。それが積み重なることで、一歩ずつ前に進んでいけると思っています。
編集後記
今回のインタビューでとくに印象に残ったのは、「教育」と「ビジネス」という、一見相反するふたつの軸のバランスを取り続けてきたというお話です。50年以上続く事業の裏には、理想と現実の間で試行錯誤を重ねてきた歴史があるのだと感じました。子どもの成長を通じて自分自身も成長できる、という言葉は、就職活動をしている私たち学生にとってもヒントになるのではないでしょうか。貴重なお話をありがとうございました。