漁師の父と、母の記憶から始まった
コロナで魚の値段が暴落
私の父は漁師をしているんです。コロナ禍で、市場が回らなくなった時期があったじゃないですか。でも、漁師って魚を獲らないと生活できないんですよね。魚を獲っても、行き先はスーパーくらいしか稼働していなくて、結果として魚の値段がとても安くなってしまいました。父の仕事がそんな状況に置かれているのを、すぐ近くで見ていたんです。
母の「腹いっぱい」を受け継ぐ
同じタイミングで、母が癌で亡くなりました。母は、私の友達が家に来ると、ご飯を腹いっぱい食べさせてくれるような人だったんです。だから、私はそういうものを届ける場所を作ろうと思いました。当時はコロナでイートインが難しかったので、テイクアウトのお弁当です。外食って、たとえば毎日焼肉だと飽きるじゃないですか。そこで、弊社が父の魚を買い取って使う。これが飲食事業のスタートでした。
異業種の掛け合わせで廃棄ゼロに
現場仕事と飲食をつなぐ
飲食って、廃棄がすごく出るんです。もったいないなと思って、弊社もオープン当初から「廃棄は出さないようにしよう」と言っていたんですけど、どうしても出てしまっていました。私はもともと、ずっと現場で働いていたんです。そこで、その現場の仕事を事業に取り入れました。まったく畑違いの事業なんですけど、掛け合わせることで食品ロスを完全にカットできる仕組みになったんです。
小さな肉はスタッフのご飯に
たとえば唐揚げを作るときって、どうしても小さい肉が出るじゃないですか。大きい肉はお客さんに優先して出して、小さい肉は現場に出るメンバーの昼ご飯に回しています。現場は現場でお金を生み出しますし、大きな仕事をしていくには人が必要です。「弊社は昼ご飯も夜ご飯も出すよ」と伝えたら、若い子たちが集まってきてくれました。今では20名ほどになって、現場もどんどん回せています。
オープン2ヶ月から廃棄ゼロ
オープンして2ヶ月くらいから、もうすぐ5年目を迎える今まで、ずっと廃棄はゼロです。それどころか、市場に流通しない食材まで使っているんです。一番人気の「姫島ブリ漬け丼」に使っている天然のブリは、脂がないので、今まで全部廃棄されていました。天然のものは、刺身にするとやっぱりおいしくないんです。それを弊社で「りゅうきゅう」にして出していて、今はブリが足りない状態です。
3時間前まで生きていた魚
使っているのは獲れたての魚なので、3時間前くらいまで生きていた魚なんです。市場で新鮮さを謳っていても、ずっと漁師町で育ってきた私からすると、古い魚だなと感じることがあるんです。だから、使っている魚の味は、一般的なものとまったく違うと思います。捨てられるブリも、弊社が買い取っている分は確実に減っています。廃棄ゼロは当たり前にこなしながら、市場に流通しない食材も、どんどん仕入れていっているところです。
手探りで走り続けた立ち上げ期
集客も仕込みも試行錯誤
飲食で苦労したことで言うと、まずは集客ですね。右も左もわからない状態で、いきなりお弁当屋を始めたので。仕込みのオペレーションにも慣れていないのですごく時間がかかってしまい、帰りも遅くなっていました。帰るのが夜中の1時になる日もありましたね。味はどういうものがいいか、容器の見え方はどうかといった部分も、すごく試行錯誤しました。
2人から始めた現場事業
現場も「さあ今から始めよう」というときは実績ゼロでした。今は20人いますけど、スタートは2人です。朝は5時や6時に集合して、2人で行けるところまで毎日毎日行って。仲間が1人増えては、また1人減る、という繰り返しでした。「私たちは何をしているんだろう」と思うときもあったくらいです。本当にとてもしんどかったですが、そうやって、小さな現場から大きな現場まで、少しずつ受けられるようになっていきました。
生産者と食卓をつなぐ仕組みを全国へ
農家と漁師をマッチング
これからは、いろいろな農家さんと漁師さんをマッチングさせていきたいと考えています。世の中の廃棄はもちろん、流通しないものすらないくらいにしたい。資源は無限じゃないので、そこをどんどんなくしていこうというのが、弊社が最後に取り組む事業です。3年以内くらいには、徐々に形にしていく予定です。通信事業はまだこれからで、今は現場の事業も含めて地固めをしている段階ですね。
自社店舗と現場が受け皿に
今、飲食は自社で2店舗持っています。最初は絶対にバランスが崩れると思うんですよ。たとえば農家さんが多ければ、野菜が余ってしまう。でも、自社で3店舗持っていれば、少なくとも3店舗分はさばけますよね。さらに弊社には現場に20名ほどのメンバーがいるので、そのご飯にも回せます。そうやってどんどん回していけるのが強みなんです。今弊社がやっていることを、全国に展開していくイメージですね。
曲がったきゅうりもおいしい
私はもともと農業もしていたんですけど、少しでも曲がったきゅうりって、ありえないくらい値段が安いんですよ。ほとんどタダみたいなものです。味はまったく関係なく、おいしいんですけどね。それを育てるまでには、肥料や人件費がかかっています。一次産業の担い手がいなくなったら、絶対に苦しくなると思うんです。でも今は、きついし、労働時間は長いし、お金にならないし、休みもないというイメージで、なかなか若い子が入ってこない。そこが変わっていったら、大きいんじゃないかなと思っています。
学生へのメッセージ
最後は人に助けられる
結局、最後は人なんですよね。私も苦しいときがありましたけど、困ったときは、やっぱり誰かが助けてくれるんです。人間なので、ずっと助けてもらうだけというわけでもないですが、若いうちは、助けてもらうことの方が多いと思います。でも、年齢を重ねていくにつれて、今度は自分が誰かを助ける立ち位置に回っていけたらいいんじゃないかな、と思いますね。
編集後記
漁師であるお父さまの魚、お母さまの記憶、そしてご自身の現場経験。一見ばらばらに見える要素を掛け合わせ、オープン直後から廃棄ゼロを続けている大海さんのお話に、ビジネスの本質を見た気がします。とくに印象的だったのは、お弁当づくりで出た小さな肉を現場メンバーの食事に回し、それが若い仲間を集める力にもなっているという仕組みです。ひとつの課題を別の課題と組み合わせることで、新しい価値が生まれるのだと学びました。私も学生起業に取り組むなかで、目の前の課題を単体で見てしまいがちでした。これからは異なる領域をつなぐ視点を大切にしたいと思います。