華やかな世界への憧れから始まったキャリア
レストランの「おもてなし」に魅了された学生時代
私は愛知県の出身で、大学進学を機に東京へ出てきました。正直、当時は勉強よりもサークル活動に明け暮れる毎日でした(笑)。そんな中で、華やかなレストラン文化に憧れてアルバイトを始めたのが、この業界に足を踏み入れたきっかけです。
目の前でお客さまに喜んでもらえる提案をして、その反応がダイレクトに返ってくる。その「手応え」がすごく楽しくて、自分には飲食が向いているなと直感しました。
「作り手の顔」が見える仕事がしたかった
新卒では一度アパレル企業に入社したんです。でも、そこでは作り手の思いが見えづらかったり、売上目標のために心からお勧めできないものを売らなきゃいけなかったりと、どこか違和感があって。
一方で飲食店は、作り手がすぐそこにいて、お客さまのニーズに合わせてその場でアレンジもできる。やっぱり自分は、この「温度感」がある場所で働きたいと思い、以前のアルバイト先だった今の会社に戻る決断をしました。
支配人としての挫折と「肩書き」を捨てた瞬間
130人の部下を前に孤立した31歳の冬
31歳のとき、お台場や西麻布のバーを経て、赤坂にある「ロウリーズ・ザ・プライムリブ」の支配人を任されました。400席規模で年商8億円、スタッフは130人以上。かなりのプレッシャーでしたね。
当時は「支配人なんだから、自分が一番しっかりしなきゃ」と力んでしまって。肩書きを盾に指示ばかり出していたら、スタッフからもお客さまからも信頼を失い、完全に孤立してしまったんです。
「弱さ」を見せることでチームが変わった
そんなとき、アメリカの本社の副社長から「一人で抱え込まず、悩みをチームに共有しなさい」とアドバイスをもらいました。思い切って自分の至らなさをさらけ出し、「一緒に解決してほしい」と伝えたんです。
そこから少しずつ共感してくれる仲間が増えていきました。最終的にはチームが一枚岩になって、年商を10億円まで伸ばすことができた。この経験が、今の「フラットな組織づくり」の原体験になっています。
役職ではなく「名前」で呼び合うフラットな組織
全社員の顔と名前が一致する距離感
今、弊社には約440人の社員がいますが、私はほぼ全員の顔と名前がわかります。役職で呼ぶことは禁止していて、私のことも「河野さん」や「hiroさん」と呼んでもらっています。
年に一度は全社員と1対1で面談をしますし、役員を交えた食事会も定期的におこなっています。面談では「ここだけの話」として、上司には言えない本音を聞き出す。社員が楽しく働けているか、顔色を見てコンディションを確認するのが私の大切な仕事だと思っています。
採用で重視するのは「人を喜ばせることが好きか」
採用基準も少し独特かもしれません。学歴や、いわゆる「星付きレストラン」での経験よりも、「仲間思いか」「人を喜ばせることにガッツがあるか」を重視します。
1店舗に80人ものスタッフがいるので、チームプレイができないと成り立たないんです。だからこそ、スキル以上にマインドの部分でビジョンに共感してくれる人を求めています。
飲食業は「付加価値創造産業」である
コーラ1杯の価格差にある「時間の豊かさ」
私は、飲食業を単に食事を提供する「外食産業」だとは思っていません。「付加価値創造産業」だと定義しています。
たとえば、自動販売機なら150円のコーラが、レストランでは800円することもありますよね。その差額は、単なる場所代ではありません。その食卓で繰り広げられる商談の成功、恋人との進展、家族の絆が深まる時間。その「豊かな体験」に対する対価なんです。
AI時代だからこそ「人の感情」に刺さる体験を
これからの時代、料理を運んだり味を再現したりするのはロボットがやるようになるでしょう。でも、人の感情に寄り添い、記憶に残るようなおもてなしは人間にしかできません。
効率を重視するファストフードと、人とのつながりを重視するレストラン。飲食業界はこの二極化が進むはずです。弊社は後者の先陣を切って、業界の社会的地位をもっと高めていきたいと考えています。
業界トップクラスの給与水準を目指す理由
「1店舗あたりの売上」にこだわる戦略
私たちは、店舗数で日本一を目指しているわけではありません。こだわっているのは「1店舗あたりの売上高」です。
店舗が大きければ、その分しっかりとした収益が出て、社員に高い給料を支払うことができます。現在、給与テーブルの大幅な見直しも計画中です。飲食業界を「かっこよくて、しっかり稼げる憧れの職業」に変えていきたい。それが私の挑戦です。
学生たちへ。今は全力で「遊び」倒してほしい
学生の皆さんには、とにかく今しかできない体験をたくさんしてほしいですね。日本だけでなく海外を見たり、多様な価値観に触れたりして、自分の可能性を広げてください。
うちの新入社員にも「入社までの半年間は全力で遊んでこい」と言っています。遊びを通じて得た感性や経験は、必ず将来、人を喜ばせる力に変わりますから。
編集後記
今回、河野社長のお話を伺って一番衝撃を受けたのは、飲食業を「付加価値創造産業」と捉える視点でした。今まで、レストランの価格設定は材料費や場所代がメインだと思っていましたが、そこで生まれる「人間関係の化学反応」に価値があるという考え方に、ビジネスの奥深さを感じました。
また、31歳での挫折から「弱さを見せるリーダーシップ」に転換されたエピソードは、チームビルディングを学ぶ学生にとっても大きなヒントになると思います。私も将来、組織の中で壁にぶつかったときは、この「肩書きを捨てる勇気」を思い出したいです。