父のひと言が、人生の舵を切った
車好き少年と建築の出会い
もともと、車が好きだったんです。高校まではずっと「自動車関係の仕事に就きたい」と思っていて、機械系の学部に進もうと考えていました。
そこに父親からアドバイスをもらって。「小さい頃から数学も美術も得意だったよな。それを活かすなら、衣食住の『住』じゃないか」って言われたんです。客観的に見てもらえてるな、という感覚があり、急に舵を切りました。大阪工業大学の建築学科に進んだのはそういう背景があります。
就活で出会った「希望通りの仕事」
大学では遊びも勉強もしながら、イベントサークルを友人と立ち上げたりしていました。男子校出身で大学も理工系だったので、いろんな大学の人と交流したくて(笑)。
就職活動の時に、私はお客さんと一緒に間取りを考えるような「営業設計」の仕事がしたかったんです。ただ、建築学科の出身だと当時は「工事部から」と言われることが多くて。その頃の私は建設現場はきついイメージがあり、それは違うなと思っていました。
その中で「営業設計の部署を立ち上げたばかりで、ピッタリではないか」と言ってくれた会社に出会い、ここしかないと思い、懸命にアピールして内定をもらったんです。それが某ハウスメーカーでした。ところが、内示のタイミングで「やっぱり工事部にお願いするわ」と。
「工事部行き」への正直な反応
その時は正直、ショックでした。でも入社式のタイミングで希望通りの部署の配属になっていました。そこからは本当に楽しくて、仕事にワクワクしながら取り組んでいました。
マイナスからのスタート
奥さんとの出会いと、継ぐという選択
仕事にも慣れてきた頃、今の妻と出会い義父が建設会社を経営していたんですが、跡継ぎがいなかったんです。
それは知っていたうえで結婚したんですが、正直「後を継ぐなんて大役は重荷だな」という気持ちもありました。でも、某ハウスメーカーのように会社の規模が大きいと「こうすればもっといいのに」という、自分の声はなかなか届かない。少しづつ気持ちが離れていくきっかけとなりました。
結婚から 4年後くらいに、妻の父の会社がしんどいという話が少しずつ聞こえてきて、タイミングが合致した感じで「あとを継がせてほしい」と言いました。
軽トラ 1 台、従業員ゼロからの再出発
喜んでもらえた一方で、実際はそこからが大変でした。売上は厳しく、当時いた従業員の方々とはお別れすることになって、一人社長として友人に安く譲ってもらった中古の軽トラ 1 台からスタートしたんです。
仲間と、信頼と、働き方
退職者が 1 人しかいない理由
私がバトンを受け取ってから、会社で辞めた人間は、過去に 1 人だけなんです。しかも 1 人は一度辞めて戻ってきてくれました。
私はこれまで、お客さんのため、職人さんのため、業者さんのためという視点を大切にしてきた結果、気づいたら仲間が増えていたというか。あと、人を採用する時は直感を大事にしています。お金のためとか自分の利益のためとかじゃなくて、「一緒に働きたい」と感じるかどうか。長く人と向き合ってきた中で、会った瞬間にわかるような感覚があるんですよね。
新社屋の半分が福利厚生
福利厚生にはかなり力を入れています。
新社屋の 1 階はカフェスペースになっていて、月曜と水曜は一般に開放しています。それ以外の日は従業員が友人と使ったり、バーベキューをしたり。3 階には宿泊できるスペースもあり、飲んで車で来ていたら泊まって帰れるし、コロナ禍のように家族に感染者が出た時の避難場所にもなる。ちょっとした夫婦喧嘩の逃げ場にも使えます(笑)。建物の半分が福利厚生みたいな感じです。
「やる時はやる、遊ぶ時は遊ぶ」
オンとオフの切り替えをしっかりやって、みんなで稼いでみんなで分配する、というのをずっとやってきました。飲みに行ったり、旅行に行ったり、イベントも多いです。そういうのを一緒に楽しめる仲間が大歓迎ですね。
建設業の「3K」を変えたい
現場監督という仕事の本質
建設業と聞くと、いまだに「きつい・汚い・危険」という 3K のイメージを持つ人が多いと思います。私自身、就活の頃はそう思っていたので(笑)。
ただ、弊社がやっているのは現場で穴を掘るような仕事ではなくて、元請けとして現場全体を管理する現場監督の仕事です。職人さんや業者さんをまとめて、一つの建物を完成させていく。リーダーシップを発揮して、みんなを引っ張っていく仕事なんです。
AI で建設業の仕事ができるかというと、細かいところは正直無理だと思っています。シンプルな構造物なら可能性はあるかもしれないけれど。ただ、人と人とのコミュニケーションで心が育っていく部分は、AIには代替できない。現場監督という仕事は、人としてやりがいを感じられる業態だと自負しています。
国産材と、CLT と、山を守ること
もう一つ、力を入れているのが CLT(クロス・ラミネイテッド・ティンバー)という工法を使った建物です。日本の国産材を使った大型木造建築で、弊社の新社屋もこの工法で建てました。
日本の国土の大半は山で、その半分ほどが人工林なんです。人工林は手を入れて間伐(まびき)しないと、足元に光が届かなくなって低木が育たない。虫も来なくなって、川の栄養分も減って生態系が崩れていく。また、土砂災害が増えてしまうがために砂防ダムを建設したことで海岸線が後退して、それを防ごうとテトラポッドや防波堤を作るとまた別の問題が起きる。
だから、日本の山を守ることが、住める環境をつくることに直結しているんです。CLT工法を中心に国産材をどんどん使う大型木造建築を広めることで、森の循環サイクルに貢献できたらいいなと思っています。
会社の未来と、学生へのメッセージ
目標は「50人企業」
今後の展望は 、今 19 人の組織をゆくゆくは 50 人規模にしていきたい。今は 20 代から 60 代まで各世代が揃っているんですが、20代から30 代の若年層をもっと増やしていきたいんです。
就職に迷う学生へ
働くうえで、お金・やりがい・人間関係という三大要素があると思っています。どうしてもお金の方向に走りがちだけれど、私は最終的に「人間関係」が一番だと思っているんです。
いくらお金が良くても、人間関係が悪ければ長続きしない。いくらやりがいがあっても、同じことが言える。だから優先するなら、人間関係のいい職場を選んでほしい。
あと、合わないと思ったら転職していい。私の時代は何度も転職することを良く思わない風潮があったけれど、今は変わってきていますよね。自分が一番いいと思えるところが見つかるまで、繰り返していいと思います。最終的に自分が「ここだ」と思える場所に出会えることの方が大事なので。
編集後記
建設業に対して漠然と「きつそう」というイメージを持っていた自分が恥ずかしくなりました。現場の「頭」として、リーダーシップを発揮しながら一つの建物を完成させていく仕事。さらに、CLT工法を通じて山や生態系の保全にまで目を向けている姿勢も含めて、こんなにスケールの大きな仕事なのかと驚かされました。
また、「人間関係を最優先に職場を選んでほしい」という言葉は、就職活動を控える私たちにとって、シンプルだからこそ深く響くメッセージでした。働く環境や条件だけではなく、「誰と働くか」を大切にすることの重要性を改めて考えさせられる取材でした。