未分類

「使われない AI」を、業務の真ん中で動かす ― 齋藤 弘樹が見据えるナレッジの未来

PROFILE
株式会社Livune 代表取締役
齋藤 弘樹

NTT西日本から始まった気づき

大学時代は研究より飲み会

本当のことを話していいんですよね。大学の頃は工学部だったんですけど、研究を疎かにしながら毎晩飲みに行ったり麻雀したり、そんな感じでした。大学院でもそのノリは変わらなくて、いま振り返ると、いかにも大学生らしい日々でしたね。

大阪大学の大学院まで進み、就職活動を始めたのは25歳のとき。当時の軸は本当にシンプルで、楽でホワイトで、そこそこ名前が知られていて、ブランド力もあり、給料もある程度もらえる安定した企業。その条件に合っていると感じて、NTT西日本を選びました。理由はそこだけです。

NTTで芽生えた違和感

NTT西日本自体は噂どおりホワイトで、しんどいことがあったわけではないんです。でも働いているうちに、自分じゃなくてもできる仕事ばかりしているなという感覚になってきて。もっと自分にしかできないことをやりたい、という思いがどんどん芽生えてきました。自分って意外とそういうところがあったんだなと、入社してから初めて気づいたんですよね。

社内ではDX推進部がいろいろなITツールを現場に入れていくんですけど、現場の人たちからは「いろいろ使うように言われるけど、現場では使えないよね」という声をよく聞いていました。それを見たときに、自分がやるべきところはここじゃないかなと。社内で使われていないツールをちゃんと使えるようにしていかないといけないな、という思いが重なっていきました。

起業までの2年間という修行

キーエンスで開発スキルを身につける

NTTにいたままだと、大きな企業ということもあって時間がかかる。それなら一度自分で会社をつくって、やりたいことをやってみたい。ただ、当時はNTTで営業をしていたので、開発スキルをNTTの中で身につけるのは結構難しかったんです。そういう部署がほとんどないので、これは一度転職を挟んで修行をしてからやった方がいいなと考えました。

ちょうど第二新卒の時期で、開発の枠を探していたらキーエンスが第二新卒の枠を出していて。開発ならスキルが身につくぞと思って受けに行ったら、未経験だったんですけど思いが伝わって採用してもらえました。あとから聞いたら、キーエンス自体も開発の部署で第二新卒を採るのはその年が初めてだったらしくて、ご縁が重なった感じですね。

2年で区切りをつけて独立

もともと「2、3年で吸収できることを全部吸収できたら出よう」と思っていたんです。最初にアサインされたのが新商品開発のプロジェクトで、新しいセンサーを世にリリースしたタイミングで、自分の中で一つ区切りがついたと感じました。それがちょうど2年ぐらいだったので、タイミング的にここかなというところで辞めました。計画性はない方だと思っていたんですけど、意外と計画どおりに進んだなと感じています。

ナレッジ事業で勝負を決めた理由

自分が現場で見た課題に立ち返る

会社を立ち上げたのは2026年4月なので、まだ立ち上げたばかりの会社です。事業の中心に置いているのはAIナレッジ基盤の領域なんですけど、これはもう、自分が通ってきた道での課題そのものなんですよね。

NTTもキーエンスも、どちらもナレッジ関係のところがあまり活用できずに課題になっていました。まさに自分が現場で体験した課題を解決したい。それで弊社の主軸をここに置いています。

コールセンター向けチャットボットから始める

第一弾としては、ホームページに入れるチャットボットを考えています。ターゲットを絞っていて、コールセンターを運営している企業さんですね。ホームページを見ても解決できず、最終的にコールセンターへ問い合わせが入る場面は多いと思います。「故障しました」みたいな問い合わせで、Q&Aを見て解決しようとしても、結局どこに答えがあるかわからず、みんな電話してしまう。

NTT時代の同期がコールセンターの部署で働いていたりするので、直接いまの課題を聞いているんですけど、まだまだ全然浸透していないし、何からやっていいかわからない状態らしくて。ならば、コールセンター向けにチャットボットで解決できるものをホームページに埋め込んで、問い合わせ数を減らして人件費削減につなげる。そこに弊社が力添えできるんじゃないかなと思っています。

いまは無料モニターという形で、構築無料・3ヶ月のランニングも無料で、その3ヶ月で問い合わせ数の削減に取り組むので、データを取らせてくださいというやり方を始めています。4ヶ月目以降に効果を体感してもらえたら、継続でランニングコストをいただくという流れです。

コールセンターに特化する理由

チャットボット自体はありふれていて、いろんなところが手を出しているんですけど、コールセンターに特化しているところはあまりなくて。業界を絞ったら、レッドオーシャンに見える市場の中にも、まだ競争が激しくない領域があると感じました。そして自分のやりたいこととマッチしていた。だからコールセンターに狙いを定めました。費用対効果が出るのは大手であればあるほど大きいので、ぜひ大手企業にも導入いただきたいと考えています。

Claude Codeと歩む一人会社

AIを「経営の壁打ち相手」にする

基本は一人で経営している状態で、Claude CodeというAIツールを活用しながら、一人でも業務を回せる仕組みをつくっています。もともと開発でかなり使い込んでいたんですけど、 経営でも使えるだろうとなって。日々のメールのやり取りなどをもとに、いま何がどう進んでいるかを理解・分析してくれて、私が「いまこういうことをやりたいと思っているんだよね」と軽く言うと壁打ち相手になってくれる。これがめちゃくちゃ便利なんですよね。

専門分野ごとに4体を使い分ける

いまは専門分野ごとに、担当AIを4体ほど用意しています。開発を主に担当するAI、プレスリリースの文章を考えるAI、会社全体の経営方針について相談するAI、そしてそれらをまとめるトップとして私が直接相談するAIです。最初から何体もつくったわけではなくて、1体で十分だなと思い始めて、内容が大きくなってきたなと思ったら専門分野を切り出していった結果、自然と4体になっていきました。よく働いてくれていますし、愛着もすごく湧きますね。

採用と出口の話

仲間と一緒に働くことももちろん考えているんですけど、少なくとも直近1年ではないかなと思っています。将来的には会社の売却も視野に入れています。そうなったときに一緒に働いてくれる仲間というのが会社の価値になってきますからね。

価値が先、お金は後からついてくる

AI業界の「胡散臭さ」を打ち破りたい

仕事で一番大事にしているのは、価値が先で、そこにお金がついてくるという考え方です。価値提供こそが会社の存在意義というか、ここが一番。というのも、AI業界って結構、AIを使えば、情報に詳しくない人からお金を取れてしまう、というような空気も一部にあると感じています。それを打破していきたいという思いが強いです。

作業はAIに任せ、人は考える

もう一つ同じくらい大事にしているのが、作業はAIに任せて、人は考えることや判断を下すことに注力する社会にしていく、ということ。巷ではAIに仕事が奪われるんじゃないかという話になったりしますけど、人それぞれの個性やアイデンティティ、考え方や発想力。そうした部分こそが人の価値になる社会にしていきたいと考えています。

これまでの大企業では、みんなが一定水準でできるテンプレ化した人に価値があるという風潮があったと思うんですけど、誰でもできるところはAIに任せるシステムをつくって、人は本当に重要な「考える」ところやアイデアを生み出すところに集中していけるような社会にしていきたい。この2つが、目指しているところですね。

大企業の顧問になるという夢 

夢を語るとすれば、自分の出身であるNTTのような大企業に対して、ちゃんとあるべき姿にしていくお手伝いをずっとしていきたい。役員に対等にものを言うような顧問のポジションをやっていって、会社の方向性みたいなところに関わっていく。「人は考えることにこそ価値がある」という考え方を広げていって、そういう社会をスタンダードにしていきたい。大企業の顧問として、経営者に対しても率直に提言できる存在になりたい、というのが、ちょっとした夢ですね。

学生のみなさんへ

自分が結構後悔しているところでもあるんですけど、就活という機会を前向きに捉えて、自己分析だったり、自分が本当に何がやりたいんだろうということを考えるきっかけにしてほしいなと思います。

最初に思っていた「楽して稼げたらいいや」というのは、多分長続きしないんですよね。燃料にならないというか、なんとなく時間だけが過ぎていく人生になってしまう。そうではなくて、自分の夢ややりたいことを見つけて、そこに向かって何かをしている時間。これが、人生で思い返したときに一番輝いている時間だと思うので、ぜひ大学生のうちに、自分の夢ややりたいことを見つけてほしいと思います。価値提供をしていくことが、人生を豊かにする一番の方法だと感じています。

編集後記

齋藤さんが「自分にしかできないことをやりたい」と語られた瞬間、私自身がいま学生起業をしているなかで感じている焦燥感と重なって、思わず前のめりになってしまいました。大企業を辞めて修行先を選び、その期間も見据えて独立される計画性。そして「価値が先、お金は後」というブレない哲学。AIをただのツールとしてではなく、人が考えることに集中できる社会の入り口として捉えていらっしゃる姿勢に、未来への期待を感じました。大企業の顧問になるという夢、いつか実現された日に取材させていただきたいです。