会計士を目指して過ごした大学時代
ダブルスクールの日々
学生時代に熱中していたことと聞かれると、正直これといったものはないんですよね。サークルは少しやっていましたが、公認会計士試験の受験と大学の両立でダブルスクールをしていて忙しかった、という感じです。大学にはそこまで通えていなくて、単位を取るためだけに、出席のいらない授業を選んで、テストだけで乗り切っていました。
監査法人での7年、そして独立
5年で決めきれず2年の猶予
サラリーマンを5年やってから今後を考えようと決めていたので、監査法人に結局7年勤めました。5年働いたところで、辞めたいのか、転職したいのか、部署異動したいのかがすぐには決まらなかったんです。1年のうち半年くらいは忙しかったので、実質は1年分くらいの感覚だろうと思い、2年間、自分に猶予を与えました。その2年で、部署異動なのか、転職なのか、独立なのか、いろいろ考えてみました。
自分の名前で食べていきたかった
最後に残ったのは、自分の名前で食べていきたいという気持ちでした。大手の監査法人に勤めていると、どうしても「渡邊に頼っている」という状態にはなり得ません。その先10年働いても、そうはならないくらい立派な組織でしたし、自分の名前で勝負したい気持ちが消えなくて、独立を決めました。
なぜ中小企業に向き合うのか
生きた会計に触れたかった
独立してから、中小企業の会計を専門にしています。監査法人にいると、大きな会社しか知らないんですよね。売上何百億円と言われても、実感としてどういう感覚なのかよくわかりません。何をどれだけ売ったら何百億円になるのかも知らない。町のラーメン屋さんが何をしているのか、クリーニング屋さんが何をしているのか、もっと生きた会計に触れてみたいという思いが一番大きかったです。
泥臭さを知りたかった
自分でお金を借りてみる、人を採用してみる大変さ、仕事を取る喜び。そういう泥臭さを経験している人の話を、まず聞いてみたかったんです。だから中小企業のお客様の声に向き合うようになりました。仕事にやりがいを感じているかと聞かれると、正直「一勝一敗」くらいの感覚です。やりがいを感じる時もあれば、なぜこんなにも話が伝わらないんだと思う時もあります。
伝わらないもどかしさとの向き合い方
見えているようで見えていない
小学校までは、近所というだけの理由でいろいろな友達がいますよね。頭のいい人もいれば、運動ができる人もいる。それが本来の社会の縮図のはずなんです。ところが中学校から私立に進み、高校、大学と進学すると、似たような学力の人たちとずっと一緒にいることになり、それ以外の人たちのことがだんだんわからなくなっていきます。
こうして、自分が見ている世界のバランスが、気づけば偏っていく。でも社会は実は、自分と学力に差がある人たちのほうが数として大きいんです。その感覚がないまま年を取るのは嫌だったので、いろいろな人と話したいと思っていました。こちらが指示のつもりで伝えても伝わらない、メールを送っても返ってこない、文章が長くて読んでもらえない。そういうことを知りたかったんです。
シンプルに伝える工夫
伝わらない時にどうしているかというと、シンプルに言うようにしています。いいとか悪いとか、理由はいらないので、それはダメです、というように伝える。伝わらないというのは大きなストレスになりますが、それも含めて社会だと思って理解したいと考えています。
数字が見えない経営のこわさ
遅れて出る数字はもう手遅れ
弊社が向き合っているのは、中小企業の会計事務所業務です。現状、税理士の平均年齢は60歳を超えていて、私が独立した32歳の頃は、業界のなかでは大人と赤ちゃんのような年齢差でした。Wordが使えます、インターネットで作業していますというだけで、すごいと驚かれるくらい、年齢層が上なんです。
でも会社の売上や利益が早くわからないと、来月どうするべきかこちらも判断できません。今月赤字だったから来月はもっと頑張ろう、経費を使うのをやめよう。そう言いたくても、その数字が2か月、3か月遅れて出てくることが多いんです。数字が出てこないと、どちらに進めばいいかもわからなくなってしまう。会社のみなさんがかわいそうだなと思います。
1店舗はいけても10店舗は別物
もともとラーメン屋さんで働いていた人は、原価や売値をなんとなく知っているので、どんぶり勘定でもやっていけます。ただ、それは1店舗だからいけるだけで、10店舗に拡大すると、また違う経費がかかってきたりして、わからなくなってしまう。教わったことがないので、仕方がないんですよね。誰に相談していいかもわからず、何もできずに困っている経営者はたくさんいると思います。会計事務所のベースは税金の計算ですが、それは正直誰がやっても同じなので、そこではないところで寄り添う環境を作っていきたいと考えています。
AI時代の会計士という仕事
知識ではもうAIに勝てない
税金書類を作る仕事は、AIに置き換わっていくと思います。知識に関しても、私たちですらAIに聞いているくらいなので、AIのほうが優れているはずです。ただ、この仕事自体がゼロになるとはあまり思っていません。最近やっていることも、結局はお客様に代わってAIへ質問しているだけなんですよね。何に困っているか聞いて、それならAIに聞いてみましょうと言って資料を作ってあげると、その資料をくださいと言われる。まだAIを使いこなせていない方が多いのが実感です。
聞いてくれる誰かがいないと、AIというツールがあっても何もできない。パソコンをプレゼントしたら急に頭がよくなるかというと、そうではないのと同じで、使い方も、いつ使えばいいかも、どう使えばいいかもわからない状態の方が多いんだと思います。
質問を代行する仕事
私は、私にとっての普通のことをやっているだけなんですけどね。これができるなら、こうやってAIに聞けば終わりじゃないですか、と思うことも多いです。ただ、そこにたどり着けない方がいる。だからこそ、壁打ちをちゃんとできる人であることが、私たちの仕事なんだと思っています。
資格の価値は変わっていく
会計士という資格を取ったほうがいいかどうかは、正直難しい議論だと思っています。ただ最近思うのは、ベースの知識は必要だということです。簿記を知らないのはさすがに厳しくて、ゼロイチがないと会計の話自体ができません。ただ、会計士の知識を100とするなら、100までは要らないのではないかとも思います。20くらいの土台があれば、残りの80は調べられる時代になってきました。今までは調べる手段がなかったから100取るしかありませんでしたが、これからは薄く広く、いろいろなことを知っているほうがいいのかもしれません。
資格に投資する価値については、中身だけで言えばそこまでないかもしれません。ただ社会的な信頼は得やすいので、便利ではあります。信頼を得るための手段は他にもあって、極端な話、運転免許証でも信用してもらえる部分はあると思います。
これからのビジネスの選び方
人に絡む仕事はなくならない
最近は起業するならAIに絡むものが一番だと、みなさん言っています。もちろんそれもいいと思う一方で、私は逆にAIに絡まない仕事で起業したほうがいいのではないかとも思っています。たとえば、食べることは絶対になくなりません。髪を切ること、おしゃれをすること、家具を買うこと。人に絡むものはなくならない気がするので、そこでビジネスをしていくのもいいと思います。
知識はAIがすごい勢いでこなせるようになっていて、私もClaudeを触って、Geminiを触って、ChatGPTに質問して、1人で3人、4人と話しているような感覚です。
差はむしろ開いていく
プロンプトを組める力の差
AIが浸透して、みんなが同じように使えるようになったら平均化されるのか、逆に開くのか。私は、開くと思っています。平均化はされません。なぜなら、多くの人はまだプロンプトをそこまで組めない、つまりAIを使いこなせていないからです。
プロンプトの組み方は、まず数を打つことから身についていきます。こういう答えにたどり着くだろうと思って質問しても、全然違うところにたどり着くことがありますよね。それは聞き方がよくないんです。たとえば、今日のお昼ご飯のおすすめを教えてと聞いて、大学の近くではなく東京駅や品川駅の店が出てきたら、いやいやそこには行けないとなります。でも自分の中では、この辺りで探してくれるだろうと勝手に思い込んでいるだけなんです。だから、まず自分がどこにいるのかを伝える。ラーメンが食べたいなら、ラーメンが食べたいと伝える。そうした数をこなしていくなかで、少しずつコツがわかってくるものだと思います。
学生へのメッセージ
知り合いを増やしておく
学生のうちは、いろいろな友達をたくさん作っておくのがいいと思います。その時は無駄に感じても、知り合いを増やしておくと、その後の人生が豊かになります。私自身、年を重ねても大学時代からの友人と今でも遊びますし、仕事の話をすることもあります。気心の知れた人と長く付き合えるのは、いいことだと思います。
一つの専門性を持つことは、かっこいいことですし、誇れるものだと思っています。ただ、それが資格を取ることとイコールかどうかはまた別の話です。AIのおかげで、知識そのものの優先順位は下がりつつあります。だからこそ、自分はどこに存在意義を置くのか、それを考えていくことが大切なのではないかと思います。
編集後記
今回のインタビューを通して、AIが広がる時代だからこそ「人に寄り添う力」が問われているのだと感じました。渡邊さんの、数字が見えないと不安になるという話は、まさに大学受験の過去問を見ずに闇雲に勉強するようなものだと思うと、とても納得できました。プロンプトの精度の差は開いていくというお話も、自分ごととして受け止めたいです。これから社会に出るうえで、AIに頼りきるのではなく、自分なりの問いを持ち続けることを大切にしたいと思いました。貴重なお話をありがとうございました。