一軒の美容室から始まった
美容師として独立した
私は元々美容師で、2008年05月に美容室を一軒、独立する形で始めました。当時から美容業界の課題としてあがっていたのが、美容師の採用、つまり求人の難しさです。地方都市で店舗を増やそうとしても、美容師の応募がなかなか集まらないという悩みをずっと抱えていました。
お客様の相談がきっかけだった
転機になったのは2018年です。私たちの美容室に来ていたお客様が、たまたまアイラッシュサロンを始めることになり、経営のコンサルティングをしてほしいと頼まれました。そこで気づいたのが、求人情報の集まり方がまったく違うということです。
当時はアイラッシュサロンの数自体がまだ少なかったので、求人の応募が美容室よりも集中しやすいという現状がありました。このコンサルティングをきっかけに2019年02月、そのサロンを買収させていただき、ちょうど店舗展開を考えていた私たちにとって、よいタイミングでの出会いになりました。
コロナ禍のピンチをチャンスに
コロナ禍は、美容業界に大きな変化をもたらしました。1回目の緊急事態宣言が明けた後、全体の9割を占めていたまつげエクステが、日を追うごとにまつげパーマへ移行していることに気づきました。わずか1週間でメニュー比率が逆転したことを受け、すぐに全店舗をまつげパーマ中心へ切り替えました。
当時、Hot Pepper Beautyでは東海地方の上位に入っていましたが、この決断を機に一気にトップまで駆け上がることができました。
変化を数字で捉え、決めたらすぐに動く。このデータ分析力と決断の速さこそ、今の経営にもつながっていると思います。
感覚産業を、情報産業に変える
データなきサロンに未来はない
私たちは、美容業界のDXを支える「サロンOS」を構築し、現在は全国33店舗を実証フィールドとして運用しています。美容サロン業界は、良いところも悪いところも昔から変わらない部分が多く残る業界です。DXが進む時代になっても、お客様との接点やデータを十分に活用できていないサロンは少なくありません。
現在の美容業界では、顧客情報の多くを予約プラットフォームなどが保有しているのが現状です。しかし、本来そのデータはサロンにとって最も重要な資産であり、お客様一人ひとりに合わせた価値提供につながるものです。AIを活用する時代だからこそ、その土台となるデータ基盤の整備が欠かせません。私たちはサロンOSを通じて、美容業界を「感覚産業」から「情報産業」へ変えていきたいと考えています。
事業を支える3つの軸
美容業界はいわゆる労働集約型で、人がいなければ売上が立たない業界です。人件費の比率が高く、営業利益を生み出しにくいという構造的な課題があります。そこで私たちは、施術売上だけに依存しない収益モデルを構築する取り組みを、サロンOSの一つとして進めてきました。
全国展開しているサロンブランド「MARIE TERESIA(マリーテレジア)」を入口に、サロン・リテール・メディア・データを組み合わせることで、新たな収益モデルを構築しています。特に、店舗を活用した体験型メディア事業は美容業界では珍しい取り組みであり、サロンを「施術を受ける場所」だけでなく、新たな価値を生み出すプラットフォームへ進化させることを目指しています。
「見るだけ」の広告をやめた
スマホの中の広告はもう響かない
私たちが参考にしているのは、アメリカで今トレンドだといわれているリテールメディア事業です。アメリカの事例をそのまま輸入したわけではなく、自社で考えてつくりました。弊社で働く方も含め、z世代やzα世代の方々は、広告というものを街中ではなく、ほとんどスマートフォンで受け取りますよね。
歩きながら下を向いてスマホを見ているような状態で、検索した内容に関連する広告が出てきても、そこまで興味を持たれません。見せるための広告は、もう非常に多くなりすぎています。
触れて、体験できる場所をつくる
弊社のサロンのお客様は、80%がz世代です。そのお客様に向けて、可愛いと感じられるものだったり、使って可愛くなれるものだったりを、オフラインで体験していただく広告を展開しています。弊社のサロンには、待合や受付のスペースが一切ありません。
美容室というと、たいていそういった場所がありますよね。弊社の場合は、その場所がすべて商品をディスプレイし、展示するスペースになっています。商品は好きなだけ触れますし、購入もできます。これが実は広告で、お客様に触れて体験していただくことそのものをビジネスにしています。
選ばれるための戦略
SEOとターミナル駅という選択
業界は、ホットペッパービューティーなど一つの媒体に依存している会社が多いのが現状です。弊社のスタートも同じく、ホットペッパービューティーを軸にしていました。私自身がシステムを扱える人間だったので、SEO対策をしっかり組み込んで上位表示させる仕組みをつくったところから始まっています。
さらに重視しているのは、z世代のお客様がどの場所のアイラッシュサロンに行きたいかという視点です。ローカルエリアではなく、複数路線が乗り合うようなターミナル駅に出店するのが、弊社の定番のパターンになっています。
仕組みで経営する
応募数は業界でも上位に入る
今、従業員は200人ほどです。アイリストの採用は、専門の求人媒体「リジョブ」からの応募が多く、美容室・ネイルサロン・エステ・アイラッシュという美容業界全体の求人数の中で、弊社は一番、二番を争う応募数をいただいています。働く方がどんな場所で、どんな働き方をしたいかという部分は、普段からヒアリングを重ねて、それを体現できるような求人の要項を出すようにしています。
やりがいを求める人と働きたい
就職フェアなどで、若い世代を運営している方たちと話す機会があるのですが、最近特徴的だと感じるのが、難関大学を卒業する方々の進路です。以前は外資系コンサルティングや金融業界が多かったものが、今はベンチャー企業に行きたいという人が増えているという話をよく聞きます。やりがいを持ちたい、自分の限界を知りたい、そう考える方々と出会えるのは、私たちとしても本当にありがたいことだと思っています。
寿司屋ではなく定食屋を目指す
ターゲットと戦略をきちんと絞ろうとすると、サロン内のオペレーションが仕組み化されていなければ成立しません。弊社は属人化したサロン経営を一切していません。サロン業界は、値段もわからない、誰が担当するかもわからない高級なお寿司屋さんのようなイメージを持たれがちですが、私たちが目指しているのは定食屋さんです。誰もが行きやすく、選びやすいメニューを提案できることが、安心、安全という価値につながると考えています。
これから目指す場所
人との出会いが転機になった
振り返って一番感じるのは、人との出会いで人生が変わってきたということです。独立した時、そしてアイラッシュサロンに転身した時、この二つが、自分にとって大きなターニングポイントだったと思います。
目指すはビューティーテック
弊社はどこまでいってもb2cビジネスです。一番大事なのはお客様であり、お客様の顧客体験価値をどう上げていくかということに尽きます。これはこの業界に限らず、いろいろな業界でも同じだと思いますが、美容業界はこの部分がまだ非常に遅れています。だからこそ、これから取り組むべきはビューティーテックの領域だと考えています。
若い世代に伝えたいこと
好奇心を諦めないでほしい
私は今40代になりましたが、いい大学、いい会社に就職しても、結局「言われたことしかできない」と言われてしまう、という話を周りでよく聞きます。今の会社が求めているのは、言われたことを当たり前にやることではなく、イノベーションだと思っています。自分から発言して、ひとつのプロジェクトに取り組んでいく好奇心は、すごく大事にしてもらいたいです。自分のワクワクを諦めないでほしい、そう思っています。そういったことを求めている会社は一社では見つからないかもしれませんが、数社あたれば、きっと見つけられるはずです。自分のポリシーを大事にしてもらえたらと思います。
美容のことなら何でも挑戦
弊社はビューティー領域でビジネスを続けてきたので、美容に関する新しいものであれば、本当に何でも挑戦します。z世代のお客様が多いので、そこから得られるインサイト情報に触れるたびに、新しい発見ができるというのが、一番の醍醐味だと思っています。いろいろなことに挑戦できる人たちと、これからもたくさん出会っていきたいです。
編集後記
今回のお話で印象に残ったのは「感覚産業を情報産業に変える」という言葉です。経営学の授業でDXの重要性を学ぶことはあっても、現場感の強い美容業界で実際に取り組んでいる方のお話を伺えたのは貴重な経験でした。サロンそのものを広告の場に変えるという発想や、属人化させない経営の仕組みづくりにも驚かされました。学生団体の運営でも、仕組み化はいつも悩むテーマです。今回学んだ視点を、自分たちの活動にも生かしていきたいと思います。