インタビュー

「できない理由」を並べていても、世の中は変わらない。視えない動きを価値に変える仕事

「できない理由」を並べていても、世の中は変わらない。視えない動きを価値に変える仕事
PROFILE
アキュイティー株式会社 代表取締役 CEO 兼 CTO
佐藤 眞平

アメフト一筋、体育会の熱量をそのまま社会人へ

40歳まで続けた本気

学生時代は、部活ばっかりやっていました。競技はアメリカンフットボール。大学を卒業しても続けたくて、社会人になってからも Xリーグ(アメリカンフットボールの社会人リーグ)でプレーし、40歳までやっていましたね。

サッカーでいう Jリーグ、バレーボールでいう Vリーグと同じように、アメフトには Xリーグがあります。それなりに本気でやっていたので、仕事と並行しながらずっと続けていた感じです。

最初の1年で2社辞めた

新卒で入った1社目は10ヶ月で辞め、2社目は2ヶ月で辞めました。親に「大企業が合ってない」と言われて、次に入ったベンチャーで10年間。そこが私のキャリアのスタートです。

3社目のベンチャーで腰を据えて働くようになってから、やっと自分の軸みたいなものが見えてきました。

「面白い」と思った技術を、新しいマーケットへ

画像処理との出会い

3社目のベンチャーが画像処理を手がける会社だったんですが、そこで私は驚いてしまって。映像って「動きを記録するもの」だと思っていたんですが、それを処理することで、見えなかった情報が明確になるんですよ。20代のころ、めちゃめちゃのめり込みました。

「これをチューニングすれば、医療や製造業でもものすごいバリューを発揮できる」と確信したんです。

大企業を経て、ベンチャーで新規事業

10年いたベンチャーの後は、電通国際情報サービス(現・電通総研)に転職しました。大企業ならではの環境は非常に刺激的でしたね。2年半後、別のベンチャーから「新規事業を立ち上げられる人が欲しい」と声をかけてもらって。条件も面白そうだったので移りました。

2年くらい勤めたら独立しようとしてましたが、新規事業がうまく行ったこともあり、ずるずる5年勤めました。

 

「早く起業すればよかった」という本音

社会人経験を積んでから起業したことについては、正直に言うと、もっと早くやればよかったと思う気持ちがあります。同い年でも20年・25年のキャリアを持つ経営者と話すと、経験値の差をひしひしと感じる場面があって。

起業したいと思っている学生には、「リスクを取ってでも早い方がいい」と伝えたいです。ないものねだりかもしれませんが、経験者として正直そう思いますね。

「視えない動き」をデータに変える事業

アメフトの原体験が起点

今の事業につながる原体験は、学生時代のアメフトにあります。コーチに「もっと低く行け」と言われても、自分では「めちゃめちゃ低くいってます」と感じている。「早く行け」と言われても、「十分早いです」と思っている。

感覚的な指導は、言われる側の納得感がないんですよ。でも今の技術を使えば、「あなたは今よりステップ幅を3cm前に踏み出すと重心が2cm下がって、コンタクトが0.1倍早くなる」というふうに、具体的な数字で伝えられる。それが分かれば工夫もできるし、成長の実感も生まれる。

そういう世界を、スポーツだけでなくものづくり現場の技術伝承にも広げたいというのが、アキュイティー株式会社(Acuity Inc.)の根っこにある思いです。

工場の「人の動き」をデータ化する

例えば自動車メーカーの工場で、ドアの部品を取り付ける作業があるとします。本来3秒で終わるところを、2.5秒でできる人もいれば2.8秒かかる人もいる。その差の理由が、今まで誰にもわからなかった。

弊社のシステムは、作業中の人の動きをすべてデータ化します。時間がかかっている人とそうでない人を分類し、「どう動きを変えれば早くなるか」を AI が分析して提示します。教える側は楽になるし、伝えたいことが正確に伝わる。受ける側は自分の成長が数値でわかるので、達成感も生まれやすい。

さらに、スマートファクトリーが進む中で、IoT センサーで工場の設備はデータ化されてきたけれど、「人の動き」だけはデータ化できていなかった。そこが見えるようになることで、生産性向上や原価低減という、利益に直結する改善が可能になるんです。

「できる理由」を考えることが、弊社の文化

ダサいのは「できない理由」を並べること

弊社のバリュー(行動指針)の一番最初に書いてある言葉が、「できる理由を考える」です。

新しいマーケットを作っていく中で、「今までできなかったこと」に挑むわけだから、できない理由なんかいくらでも思いつく。でもそれって、ダサくないですかって話をよくしています。

エンターテインメント向けの画像技術を製造業に持っていこうとした時、お客様には「そんなことできるわけない」とよく言われました。でも目の前でそれができると見せると、一気に関心を持ってもらえる。それが可能になったのは、できない理由を潰して、できる理由を積み上げてきたからです。

AI の判断プロセスを「説明できる」ことが強み

「できる理由」とセットで大事にしているのが、「できた理由も説明できる」ことです。

AI を使ったシステムは、「なぜその判断をしたのか」がブラックボックスになりがちでした。でも私たちは、AI へのインプット自体をトレーサブル(追跡可能)な状態に整えることで、判断プロセスを明確化しています。それが弊社のシステムの信頼性につながっていると思っています。

スピードを価値にする

もうひとつ大事にしているのが、スピードです。100%うまくいく方法を考えてからアクションしていたら、絶対に遅い。7割でも3割でもいいから、まず動いて、失敗して、また動く。繰り返すことで、気づけば結果としての精度がめちゃめちゃ高くなっている——そういうサイクルを回すことを、大切にしています。

AI が「つまらない仕事」を引き受けてくれる時代に

少子高齢化が進み、フィジカル AI (従来のAIの高度な判断能力に、ロボットや移動機器などの物理的な身体機能を統合した技術)が台頭してくる中で、「AI に仕事を奪われる」という話をよく聞きます。でも私はポジティブに捉えていて、AI が奪うのは「作業」だと思っているんですよ。

繰り返しの作業は本来、人がやるべき仕事じゃなかった。でも今まではやらざるを得なかった。それが AI やロボットに代わってもらえれば、人は人にしかできない仕事に集中できる。生産性が上がれば週5日も働かなくて済む世の中になるかもしれない。

AI は「つまんない仕事を代わりにやってくれるもの」だと思っています。楽しい仕事だけ人ができるようになるなら、それって最高じゃないですか。

学生へのメッセージ

「楽しい」と「楽」は全く別物

学生には、人にとって価値があって、自分にとって楽しいことを選んでほしいです。つまらない仕事・つらい仕事を我慢して続けるべきとは思っていないので、そういうクジを引いてしまったなら、次の経路に行くべきだと思います。

ただ、「楽しい」と「楽」は全く別の話です。楽してお金を稼ぐなんてことはありえないし、人によっては大変なことでも、自分には楽しいということが絶対ある。それをいかに見つけられるかが勝負です。

逆に楽をしようとするのは、価値を出さないということ。どんな時代になっても「楽で稼げる」なんておかしな話になるだけです。

行動することが、楽しいことを見つける唯一の道

高校生のとき、部活の練習後にサッカーのアルバイトをしていました。アメフトで忙しいのに「休めばいいじゃん」と言われながら続けていたんですが、ある時、私がたまたま言った一言が、ある子どもの親の教訓みたいになって、その子がものすごく成長してくれた。それが本当に嬉しかった。

「自分が関わることで人が成長する」というのが、私にとっての「楽しい」なんだと気づいたんです。それは今の事業でもずっと根っこにあって、ユーザーが「このサービスのおかげで成長できた」と言ってくれるのが、一番嬉しい。

楽しいことを見つけるには、とにかく行動することです。考えて立ち止まっていても、さぼっていても、何の刺激も成長も巡り合いもない。嫌なことでも好きなことでも何でもいいから、人に会い、新しい場所に行き、やったことないことをやってみる。学生は時間が一番ある。それを使い倒してほしいです。

編集後記

今回お話を伺って、一番印象に残ったのは「できる理由を考える」という言葉です。新しいことに挑戦しようとするとき、「でも〇〇だから難しい」という声が出るのは自然なことだと思っていました。でも佐藤さんは、それをそのまま受け入れることを「ダサい」と言い切る。その言葉に、少し背筋が伸びる思いがしました。製造業という保守的に見られやすい領域で、エンターテインメント向けの技術を持ち込んで市場を作ってきた。それは、できない理由を潰し続けた積み重ねなんだと実感しました。「楽しいことと楽なことは全く別」というメッセージも、就活を前にした自分には刺さりました。まず動くこと、行動の量が楽しいことを見つける唯一の方法——その言葉を胸に、もう少し動いてみようと思います。