インタビュー

魚と野菜を、循環でつなぐ――アクアポニックスに懸けた13年

魚と野菜を、循環でつなぐ――アクアポニックスに懸けた13年

魚のフンから野菜が育つ「循環型農業」

アクアポニックスというのは、これまで別々に行われてきた陸上養殖と農業を、循環でつなげた農業のことです。つなげることで、水や肥料、電気、空間を無駄なく使えるようになります。

仕組みは意外とシンプルです。魚だけを育てようとすると、金魚鉢で金魚を飼うのと同じで、水替えをしないと魚の具合が悪くなってしまいます。そのとき捨てている水は、実は栄養がとても豊富なんですよね。そのまま捨てると環境も汚してしまうので、微生物の力を使ってその栄養分を野菜の肥料に変えるんです。野菜がその栄養を吸収して育ち、きれいに浄化された水がまた魚の水槽に戻る。ここをぐるぐる循環させながら、無理なく野菜と魚を同時に育てるのが、私たちのやっているアクアポニックスです。

実家は魚屋、魚が大好きだった

もともとアクアポニックスの仕組みに出会ったのは、2014年に起業する5年ほど前の、2009年か2010年ごろだったと思います。最初にやってみたのは、自宅のベランダでした。

私の実家は宮崎県にある魚屋で、そこの長男なんです。魚を釣るのも、育てるのも、食べるのも大好きで、そんな魚好きが高じてアクアポニックスに興味を持ちました。きっかけは、ひょんなことからブラジルで養殖をしている日本人の方とお話しする機会があったことです。その方が、自分の養殖の排水を隣の畑にまいているという話をしてくれて。そうすると野菜がよく育って、青々として香りも立って、おいしくなるんだと教えてもらったんです。

そこから魚好きの性分で調べていくと、アメリカにアクアポニックスという農業が実際にあることを知りました。これは非常におもしろいと思い、自分で勉強してベランダでつくってみたのが、一番最初のスタートです。

島から生まれた農業

もともとアクアポニックスは、アメリカのバージン諸島という島で生まれた農業です。島は水がとても貴重で、肥料などの資機材も輸送費が乗って高くなってしまいます。だからこそ、できるだけ島にある資源だけで循環させて食料を育てようとして生まれたのが、アクアポニックスでした。それが島から、乾燥地域など資源が不足している地域へと広まっていって、昨今は地球規模での資源枯渇やSDGsの思想もあり、一気に世界規模で広がっている農業になっています。

ブログから始まった、認知のないものを広める挑戦

アクアポニックスを始める前は、直近ではAmazon(アマゾンジャパン合同会社)にいて、その前は商社にいました。会社員時代はずっとゼロイチでビジネスをつくることをやっていたので、農業の経験はありませんでした。

最初は、ブログから始めたんです。当時はアクアポニックスとGoogleで検索しても、日本語の情報がまったく出てこない時代でした。2014年当時は、SDGsという言葉もまだなかったんですよね。とにかく認知を広めなければと思い、半年ほど毎日ブログを書き続けました。主に海外の英文記事や論文を、著者に訳してよいか許可をもらったうえで日本語に翻訳して発信するということを、ずっとやっていました。

そうしているうちに、個人の方から「どこで学べるんですか」「どこで買えるんですか」という声をいただくようになり、家庭用のキットをつくったり、本を書いたり、ワークショップを開いたりしながら、ゆっくりと事業化していきました。

アメリカの農園で、無給で2年間学んだ

個人向けの事業はそれでなんとか成り立ったのですが、いざ農業として本格的にやるとなると、知識がまったく追いついていませんでした。そこでアメリカに研修に行ったんです。「教えなくていいです。こちらで勝手に学ぶので無料で働かせてください」とお願いして、いろいろな農園を回り、現地のワーカーと一緒に働きながら質問を重ねました。そうして2年かけて学んだことを日本に持ち帰り、研究農場をつくって、日本での研究開発につなげています。

顧客のほとんどは異業種からの企業

現在、お客さまの95%は企業です。しかも多くが異業種からの参入で、農業をやったことのないお客さまがほとんどですね。

大変だったのは、まったく認知のないものを広めながら、同時にビジネスとして成り立たせなければならなかったところです。現在、私たちは13期目を迎えています。おかげさまで国内施工数No.1のマーケットリーダーとして、6期連続の増収、7期連続の黒字を達成してきました。この13年をかけて、認知の獲得と市場の形成を並行して進めながら、収益化を図ってきたかたちです。

アクアポニックスに取り組む企業は、日本でも少しずつ増えてきています。今年7月にも東京ビッグサイトで「アクアポニックス・陸上養殖設備展2026」という展示会が開かれたばかりで、産業と呼べるほどではないにしても、認知はだいぶ進んできたと感じています。

えぐみのない野菜ができる理由

日本大学と共同で研究したところ、野菜の成長スピードや収量については、通常の農業と比べて特に変わりません。一方で成分については、硝酸態窒素という成分がアクアポニックスの野菜では少ないという結果が出ています。これが味にも影響していて、えぐみがなく、生で食べやすい野菜になっているんです。

私たちが育てた野菜は、東京・虎ノ門に今年3月にオープンした「AQUAMO salad(アクアモサラダ)」というサラダボウルの専門店で食べられるようにしています。アクアポニックス産の野菜はなかなか食べる機会がないので、これを広げるためにオープンしました。

生産者を増やす活動から、消費者を増やす活動へ

これまで私たちは、生産者を増やす活動をずっと行ってきました。アクアポニックスの認知を広めて生産者を増やすことに取り組み、今では全国に69の農園をつくることができています。

これから生産者はどんどん増えていく見込みがあるので、同時にやっていかなければならないのが、消費者を増やす活動です。アクアポニックスの野菜を食べたことのある方は、まだほとんどいません。海外ではアクアポニックス野菜は通常の野菜の倍の値段で売られるほどブランド価値が高いのですが、日本ではまだ知られていないぶん、なかなかお金を出していただきにくいのが実情です。だからこそ自分たちでショールームのような役割を持たせて、AQUAMOというブランドのもとで飲食店を展開し、消費者に直接届けようとしています。ここで目指しているのは、アクアポニックスのブランド化です。

技術面での課題は大規模化で、これは今後も進めていきます。大規模化すればAIなどのテクノロジーも生きてくるので、その導入もあわせて行っていく予定です。すでに2,000平米以上の農園を2軒建設していて、ある程度実績も見えてきています。

認証マークで価値を可視化する

ブランド化のために、まず野菜につける認証マークをつくりました。「一般社団法人アクアポニックス推進協会」という業界団体を立ち上げ、有機JASマークのような位置づけで「JAPCマーク」というものをつくっています。これを付与することで価値を可視化し、消費者の方に安心して食べていただこうとしています。AQUAMOとしても、今はサラダボウルだけですが、今後は別ジャンルの業態も展開予定です。すべてアクアポニックス農園からの生産物で成り立つような外食チェーンを、これからつくっていきたいと思っています。

一次産業や魚が好きな人が集まる

今、社員は13名です。採用でお会いする方は、アクアポニックスそのものに興味を持ってくださる方もいますが、それ以上に一次産業や農業、魚が好き、養殖業に興味があるという方が多い印象です。

過去にとらわれず、今を楽しむ

「過去にとらわれず、未来を恐れず、今を楽しむ」という言葉をトイレに貼っています。今を大事にするということを、私は大切にしています。

編集後記

今回お話を伺って印象的だったのは、濱田さんが「知らないもの」をゼロから広める過程を、ブログという地道な発信から始めていた点です。SDGsという言葉すらなかった2014年に、海外の論文を翻訳して発信し続けた積み重ねが、今の株式会社アクポニにつながっていると知り、地道な行動の大切さを改めて感じました。生産者を増やす活動から消費者を増やす活動へと軸を広げていく展望からも、市場そのものをつくっていく面白さを教えていただいた取材でした。