インタビュー

「野球評論家にはなりたくない」――プレイヤーとして生き続けた二十数年

「野球評論家にはなりたくない」――プレイヤーとして生き続けた二十数年
PROFILE
株式会社ブレイクフィールド社 代表取締役
井田正幸

学生時代に見た実業界

教授に連れられた現場

学生の頃、私を指導してくれていたのは野村総研でコンサルティング部長をされていた教授でした。その教授に、実業界のさまざまな現場に連れていってもらったんです。教室の中だけでは絶対に得られない経験でした。

学生部門で優勝したコンテスト

そんな中、 日本ニュービジネス協議会連合会が主催する「日本最大級のベンチャー企業団体のビジネスプランコンテスト」に、学生部門への出場機会をいただきました。結果として、学生部門で優勝することができました。

審査員には、ベンチャーキャピタルの関係者や、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社の社長を含む有名な起業家の方たちが並んでいました。当時はそれが当たり前だと思っていましたが、今振り返るとかなり贅沢な環境だったと思います。

発表したのは、24時間営業の移動式レストランというビジネスモデルです。東京都内5エリアの時間帯ごとの需要を分析し、需要に応じて出店場所を移動させるという内容でした。当時はビジネスコンテスト自体がまだ多くなく、教授の人脈があったからこそ参加できた貴重な機会でした。

社会人になって気づいたこと

頑張り方は会社ごとに違う

社会人経験を積む中で、企業にはそれぞれ異なる組織文化や働き方があるのだと気づかされました。体育会系のように激しく頑張る会社もあれば、冷静に淡々と頑張る会社もある。どちらが正しいということではなく、そういう違いがあるということ自体が当時の私には新鮮でした。

規模と社風は比例しない

もうひとつ気づいたのは、企業の規模と社風は必ずしも比例しないということです。大きい会社だからしっかりしているとか、小さい会社だから自由だとか、そういう単純な話ではないんですよね。

起業への道のり

事業家たちの本気を間近で見てきた

起業家支援の仕事をしていた時期がありました。支援先の経営者は、皆それぞれに実現したい事業を本気で追いかけていました。それを間近で見ているうちに、自分ではプレーしたことがないのに野球を解説しているような、そんな違和感を覚えるようになったんです。起業家を支援する立場にいながら、自分自身は事業を立ち上げた経験がなかったからです。

だからこそ、一度は自分自身もプレイヤーとして挑戦してみようと思いました。起業の目的は、経験を積むことではありません。これまで見てきた事業家たちと同じように、自分にも実現したい事業、成し遂げたいことがある。それを形にしたいという思いが、起業のきっかけだったと思います。

個人事業主から会社設立へ

最初は個人事業主、そして前身の法人として2年間活動しました。この期間にいろいろなことにチャレンジして、成長企業・成長市場でビジネスをする大切さを学びましたし、人間関係にも恵まれました。この二年間があったからこそ、今の会社の設立につながったと思っています。

そうして今のブレイク・フィールド社を立ち上げました。

会社を育てていく中での変化

海外事業が主軸に

創業当初は、とにかく事業が「当たるかどうか」がすべてで、目の前のことに必死でした。そこから十数年経って、海外事業に挑戦し始めます。

もともと外貨を稼げる会社になりたいという気持ちがあったので、海外事業がある程度利益を生み出し、軌道に乗った時には大きなやりがいを感じました。今では海外事業が、会社の主軸のひとつになっています。

感傷的にならず課題解決に集中する

会社を大きくしていく過程では、当然うまくいかないこともありました。大きな顧客との広告取引が中止になったこともあります。そういう時に大事なのは、感傷的にならず、課題解決に集中することです。焦って手を打つと、たいてい失敗します。

5年後に感謝できる未来を想像する

困難な状況にぶつかった時ほど、今の苦しさだけを見てしまいがちです。そこで私が意識しているのは、5年後の自分から今を振り返るとどう見えるか、という視点を持つことです。「あの出来事があったから、今こういう新しいことができている」と、5年後に感謝できているイメージを、あえて先に思い描くようにしています。

感謝できるような将来を想像すると、目の前の課題が「乗り越えられないもの」ではなく、「いつか意味を持つもの」に変わってくるんですよね。この想像があるからこそ、感傷的にならずに、目の前の課題解決に集中し続けられるのだと思います。会社を育てていくというのは、そうやって失敗も糧にしながら前に進み続けることなのだと思います。

 

大切にしている企業文化

最大の価値は人柄

会社にとって最大の価値は「人柄」だと思っています。売上や会社の規模よりも、失いたくない価値観として大切にしているのが人柄です。

目指しているのは、達成力が高く、人柄も兼ね備えた組織です。ドラマの「半沢直樹」に出てくるような謀略的な世界とは、まったく違うアプローチだと思っています。

月3回のカルチャー会議

社員を複数のチームに分けて、カルチャーについて話し合う場を月に3回、約40分ほど設けています。これはもう何年も続けている取り組みです。取引先からも「スタッフの人柄でお付き合いしてくださっている」というフィードバックをいただくことがあって、こういう積み重ねが結果につながっているのだと感じます。

これからのビジョン

金融とデジタルマーケティングの融合

新興国では金融サービスの普及が進んでおり、20億人程度の人たちがこれからいろいろな金融商品を持ち始めます。デジタルマーケティングで積んできた経験は、この領域で役に立てるはずだと考えています。

変化のスピードに適応する

デジタルマーケティング業界は、AI化の波でかなりのスピードで変わってきています。会社もスタッフも、その変化に適応して顧客やユーザーに役立つ新しい手法をいち早く提供していくことが重要だと思っています。メディアの在り方も大きく変わってきていて、業界全体が進化している最中です。

迷った時の決め方

朝日を浴びながらもう一度考える

若いスタッフが「この会社で働けて良かった」と感じてくれる瞬間が、私自身にとっても一番うれしい瞬間です。今の経験を積んだ若い世代は、何十年か経った時に、今とはまったく違う見方や考え方を持つようになると思います。

迷った時は、一度その場で結論を出さず、朝に犬の散歩をしながら朝日を浴びて、もう一度考えるようにしています。頭の巡りは、やっぱり朝の方が良いんですよね。

編集後記

今回のインタビューを通して、経営における「感情との距離の取り方」を学ばせていただきました。井田さんが繰り返し話していた「感傷的にならず課題解決に集中する」という姿勢は、私自身が学生起業でつまずいた時にも当てはめられる考え方だと感じました。とくに印象に残ったのは、月に3回もカルチャーについて話し合う時間を設けているという取り組みです。数字だけでなく人柄を評価軸に据える経営スタイルは、これから社会に出る学生にとっても、会社選びのひとつの視点になるのではないでしょうか。貴重なお話をありがとうございました。