インタビュー

キックボクシングのプロライセンスを手放して見えた、越境ビジネスという道

キックボクシングのプロライセンスを手放して見えた、越境ビジネスという道
PROFILE
株式会社コンパスポイント 代表取締役兼CEO
岡田 昇

東京理科大学で見つけたのは、勉強ではなく格闘技だった

大学では授業より試合に夢中だった

私は広島県の出身で、大学は東京理科大学に進学しました。とはいえ、あまり大学の授業を聞いていた記憶はありません。当時、夢中になっていたのはキックボクシングです。プロライセンスを取得して、実際にプロの試合を何試合か経験しましたし、ボクシング部の部長も務めていました。勉強はほとんどしていなかったですね。

その後、フロリダとオレゴンに留学しました。英語が話せるようになったのは、このときの経験が大きいです。

アメリカ留学する際にライセンスの更新をやめました。試合はしなくなりましたが、趣味程度でキックボクシングは続けていて、なんとか大学を卒業できました。

個人の転売から見えた、メーカー支援という発想

大学卒業後は、まず経営コンサルティングの会社に入社し、その後は大手商社に転職しました。中東やアフリカ、ヨーロッパ、アジアなど、いろいろな国へ出張する機会をいただき、海外で仕事をする日々を送っていました。

それから会社を辞めて独立し、日本の商品を海外のAmazonで販売する事業を始めました。学生時代の仲間2、3人で始めたようなドベンチャーだったのですが、すぐに数千万円ほどの売上が立つようになり、これは儲かるなという状況になったんです。

ただ、実際に売っていたのは私たちのような個人の転売者ばかりで、メーカー自身がきちんと販売しているケースは少なかったんですよね。いつか本来のメーカーが自分たちで越境ECに参入してきたら、そこで立場がひっくり返されると感じていたので、これは長く続ける事業ではないと考えました。

とはいえ、自分たちはメーカーではありません。一方でメーカーの側は、海外での売り方がわからないという状況でした。そこで、メーカーの支援者になろうと決めて、支援事業を始めたのが今から13年ほど前のことです。

Amazonという一点集中が生んだ、他にはない強み

運用代行から法律・物流まで、まるごと引き受ける

弊社は、コンサルティングというよりも運用代行の会社です。販売環境を作るところから運用の代行、集客まで、すべてまとめて対応しています。

日本のメーカーは、これまで卸や問屋が間に入っていたこともあり、物を作ることはできても、海外でどう売るかという発想やノウハウを持っていないケースが多くありました。そのため、Amazonのアカウントさえあればいいわけではないと考え、現地の規制や法律面の対応、商標、物流、送金、税金など、いろいろなことを総合的に支援する体制を整えました。

弊社に相談してもらえれば、販売環境を作るうえで必要なことはひととおり揃っている状態です。そうすることでメーカーは安心して任せてくれますし、Amazonアカウントの開設から運用まで弊社がすべて代行するので、メーカー側は通常業務のかたわら、少しやり取りをしてもらうだけで済みます。

海外特有のリスクや貿易の知識も絡んでくるため、なかなか他社が参入しにくい領域です。これが弊社の強みであり、参入障壁にもなっていると感じています。

あえてAmazonだけに絞り、他はパートナーに任せる

弊社が内製化しているのはAmazonの部分だけです。物流や規制、送金、保険、税務、Amazon外でのSNSなどの各種メディア、オフラインの販路といった領域は、国内外に550社ほどいらっしゃるパートナー企業にお願いしています。弊社はそこの企業とクライアントをマッチングし、うまく導いていく立場を担っているんですよね。

その結果、パートナー企業や今後パートナーになりそうな企業から見たとき、弊社がAmazonの専門会社として自分たちの領域には手を出してこないとわかってもらえます。敵ではないから一緒に組もうという関係になれるんです。

Amazon以外の領域にもどんどん手を広げている会社があると、いつかノウハウを盗まれて自分たちの競合になるのではという不安から、パートナーが警戒してしまうことがあります。弊社はAmazonしかやらないというスタンスを貫いているので、パートナーがどんどん増えていき、クライアントごとに最適な複数社でチームを組んで支援する、いわば「アベンジャーズ」的な体制を作れるのも強みです。

もちろんデメリットもあります。ひとつのクライアントに対して、SNS運用やサイト制作、モール出店など、横展開でどんどん契約を広げていくというやり方は、弊社にはできません。ただその分、Amazon以外の領域はパートナーに紹介することで紹介フィーをいただいたり、逆にパートナーから紹介いただいたりすることもあるので、トータルで見ればメリットの方が大きいと感じています。

いろいろな業務を内製化していないぶん、オペレーションが複雑にならず、人員をむやみに増やす必要もありません。何かの分野が流行っているからといって人を採用して、その分野が下火になったときに苦しくなる、ということが起きにくいんです。お客さまから見ても「Amazon特化」とわかりやすいので、認知的な優位性もあると感じています。

副首相とつながる国も。10か国以上でAmazon支援を展開

Amazonでの支援は10か国ほどですが、Amazonがない国でもパートナーと一緒に支援しているケースがあるので、トータルで見ると数十か国くらいに関わっていると思います。ヨーロッパ、北米、中東はもちろん、中国や中央アジア、アフリカ、東欧の国々からも相談をいただいていて、Amazonがない場合はオフラインでの対応や、国の機関とのBtoBでの取引を行うこともあります。

中国で組んでいる方の中には、中国の上場企業何百社もの社長と親しくされている方で、本当に様々な案件のご相談を頂きます。他にも様々な国とのネットワークを持っている方とお仕事をご一緒させて頂くことで国内だけのビジネスとは違う、多様性に富んだ経験をさせてもらっています。

越境ビジネスの先に、AIと人が支え合う未来を描く

日本の輸出はこれから避けて通れない

日本国内のマーケットは、人口の推移を考えるとこれから縮小していくと見ています。インバウンドが好調なときは売上も伸びますが、コロナ禍のような状況になれば、それも止まってしまいます。日本は輸出の比率が大きく、ものづくりの企業も多い国なので、当面は輸出をしていくしかないと考えています。

一方で、メーカー側には海外展開を自力で完結させるノウハウが乏しいという実情もあります。かといって、これまで輸出を担ってきた転売者や商社が、越境ECの領域で長けているかといえば、必ずしもそうではありません。また現在、弊社はAmazonの枠を超え、多岐にわたるメーカーや団体、支援会社、さらには国内外の公的機関とのネットワークが強固になっています。こうした多様なプレイヤーを繋ぎ合わせ、新たなビジネスやプロダクトを創出する動きが加速しており、これが将来的な事業の大きな柱になると確信しています。

 

AIにできること、人にしかできないこと

もうひとつは、AIの進化です。越境の支援事業も、いずれほとんどAIでできる時代が来ると思っています。しかし、AIがやったほうがいい部分と、人間がやったほうがいい部分は必ずあるはずです。それらを統合してフロントに立つ人や企業は、必ず必要になります。越境のことなら弊社に相談すれば大丈夫だと思ってもらえる存在になりたい、というのがビジョンとしてあります。

学生に伝えたい、尖った経験の価値

AIが使えることは、もう強みにならない

最近のAI教育の広がりを見ていて感じるのは、AIが使えること自体は、そう遠くない未来に当たり前になるということです。今の「パソコンが使える」「スマートフォンが使える」と同じ位置づけになっていくと思います。同世代の中でAIを人より少しうまく使えるという程度では、大きな強みにはなりません。

それよりも、AIとはまったく関係のない領域で、深く掘り下げた経験や、はまったことがあるものを持っておくほうが強いと思います。失敗談でもいいんです。私自身、大学の勉強はほとんどしませんでしたし、仕事とは一見関係のないキックボクシングにのめり込んだこともあります。そうした経験を語れることが、大きな武器になります。

自分のパラメータは、あえて偏らせたほうがいい

弱みを埋めるより、強みを伸ばす

周りの大人は良かれと思って「そこはやめておいたほうがいい」とアドバイスをしてくれます。ロールプレイングゲームのパラメータにたとえると、攻撃力は5だけれど守備力は1、運は2しかないというようなキャラクターがいたとき、多くの人はその低いパラメータを4くらいまで引き上げようと頑張ってしまいます。

でも私は、それよりも高いパラメータを7、8まで伸ばすほうがいいと考えています。低いパラメータがあっても、社会に出てからは意外と誰も気にしません。むしろ突出した強みがあるほうが、周囲から求められる存在になります。周りのアドバイスには感謝しつつも、聞き流すくらいの鈍感力を持って、自分の得意なことを思い切り伸ばしていくことをおすすめします。

リベラルアーツが、AI時代の武器になる

歴史や哲学を知らないと、海外では浅い話になってしまう

学生に向けて伝えたいこととしては、これから仕事をしていくうえで、意識しなくても必ずグローバルな方向に影響を受ける時代になると考えています。言語なのか、フットワークの軽さなのか、異文化への理解なのか、それぞれ形は違っても、その領域で戦えるように準備しておくことをおすすめします。

海外に出ると感じるのは、歴史的な背景をきちんと知らないと、会話についていけずしんどい思いをするということです。とくにリベラルアーツと呼ばれる、哲学や文学といった、一見すぐには仕事に使えなさそうな領域が重要になってきます。

海外で経営者を育成するような機関では、優秀な人材を集めて、こうしたリベラルアーツを学ばせています。そうした人たちがいろいろな企業の経営層に就いていくので、会話の中でリベラルアーツの素養が少しでもないと、対等な相手として見てもらえなくなってしまうんですよね。

それ以外の実務的な部分は、これからますますAIができるようになっていくと思います。一方で、リベラルアーツは本人の考え方やその場での切り返し方に関わる領域なので、AIとは別軸にあるものです。すぐに読み込ませられるものではないぶん、人間が自分の頭に入れておく必要があります。若いうちに触れておくと、のちのち大きな武器になると思います。

参考になる書籍としては、山口周さんの著書が、仕事の中でも実用的で活用しやすいと感じました。哲学者を歴史順に並べていくような専門書よりも、実務で使える部分だけをピックアップして解説してくれるような、入門的な一冊から入るのがおすすめです。

編集後記

今回、株式会社コンパスポイントの岡田さまにお話をお伺いしました。キックボクシングのプロライセンスを持っていたという経歴にまず驚きましたが、そこから大手商社、独立を経て越境EC支援の第一人者になられるまでの道のりに、一貫した行動力を感じました。とくに「AIが使えることは当たり前になる」「あえて尖った経験を持っておくといい」というお話は、大学生活の過ごし方を見直すきっかけになりました。リベラルアーツの重要性についても、今後の学びに取り入れていきたいと思います。貴重なお話をありがとうございました。