インタビュー

フルーツの香りに導かれ、事業承継で挑む「劇場型」デザートの世界

フルーツの香りに導かれ、事業承継で挑む「劇場型」デザートの世界
PROFILE
フルーツベル株式会社 代表取締役
谷地 大輔 

まさかの代表就任

出資者からの一本の電話

代表に就任した経緯は、正直に言うと指名でした。出資していただいている会社があり、その上にホールディングス会社があります。そこの出資者の方から「やってくれ」と言われたのがきっかけです。

事業承継から始まった会社

弊社は事業承継で生まれた会社です。もともと「丸留」さんという、関西を拠点にフルーツ贈答ギフトを手がける、足かけ140年続く老舗がありました。東京でいう千疋屋さんや高野さんのような、高級フルーツギフトの会社です。その丸留さんが数年前、フルーツの強みを活かして第二の事業としてデザート事業を始めたのですが、オーナーがサウナ事業に集中したいという意向になり、5年ほど続けてきたスイーツ事業を売りに出しました。それを、ホールディングス会社が持つキル フェ ボンやマーサーブランチとのシナジーを見込んで引き継いだ、というのが今に至る流れです。

フルーツからスイーツへ、異色のキャリア

焼肉のタレの営業からのスタート

新卒で入った会社は、調味料メーカーの日本食研でした。焼肉のタレなどを手がける会社で、スーパーマーケットや外食産業への卸売営業をしていました。

貿易商社でナッツを扱う

その後、第二新卒のような形で全日空商事へ転職しました。ここでは、ナッツやドライフルーツの原料を世界各国からコンテナで運んでくる、食品の川上を担う貿易の仕事をしていました。明治さんやロッテさんのアーモンドチョコレートに使われる原料も、そうした流れで届けられているものです。

世界的パティシエとの出会い

全日空商事の中でスイーツ事業として、フランスで活躍するシェフ、サダハル・アオキさんの事業を立ち上げるところに携わり、7年ほど担当しました。これが私にとって最初のスイーツとの出会いです。そこから、イタリアのチョコレートとジェラートのブランドであるヴェンキで経験を積み、その後キル フェ ボンを経て、今のフルーツベルにたどり着きました。食品の世界から入りましたが、サダハル・アオキさんという世界的なトップパティシエとの出会いが衝撃的で、そこからスイーツ業界にはまっていったという感覚です。

140年の信頼を引き継ぐ仕入れ

新参者には買えない仕入れの世界

丸留さんの140年続いてきた流れを引き継いでいるので、良いフルーツを優先的に仕入れられるというのは大きな強みです。仕入れの世界は、新参者がいきなり「このクオリティのものをこれだけ欲しい」と言っても買えるものではありません。市場はすでにお客様に分配されていますし、量をやるならこのクオリティで、といった付き合いの歴史があるものです。そうした関係性が一定つかめている中を承継させていただいているというのは、心強い土台になっていると感じています。

鮮度との勝負がライブキッチンに

フルーツはそのまま食べてもおいしいのですが、お砂糖やクリームを加えてさらにおいしくお届けするのがデザート屋の仕事だと思っています。フルーツは空気に触れると酸化してしまうので、桃なども皮をむいてから色が変わるまでのスピード勝負です。だからこそ店頭でその場でカットして仕上げる、ライブキッチンのような形で提供しています。

経営者としての壁

スタッフごと引き継いだ現場

会社員から代表という立場に変わって大変だったのは、体一つで事業を承継し、スタッフごと引き継いだ現場に乗り込んでいくことでした。コミュニケーションや信頼関係づくりには、かなり気を使いました。会社の成長は人の成長でしかないと考えているので、そこにいる皆さんに成長していただくことこそが、会社の成長だという位置づけにしています。

仕入れ先には何度も足を運んだ

仕入れ先も、事業譲渡の中で「この人に売っていいか」を見極めていただいている立場なので、とにかく足を運びました。商売の入り口は仕入れなので、仕入れができなければ何も売り物ができません。朝早くから、話すことがなくても「こんにちは」と顔を出し、今の時期のフルーツについていろいろ聞くようなコミュニケーションを続けています。月に2回は必ず行くと決めていて、ようやく顔を覚えていただけたかなという感覚です。

行動指針づくりで会社の軸を固める

みんなで決めた5つの指針

まだそこまで大きな事業体ではなく、教育制度もそこまで整っているわけではありません。最近取り組んだのは、ブランドのタグラインとアイデンティティを定め、その上で5つの行動指針を決めたことです。マネージャーや店長クラスのメンバーと4、5ヶ月にわたり月1回のミーティングを重ね、みんなの意見を出し合いながらつくりました。私の気まぐれではなく、みんなで決めたことだからこそ、この指針に沿っていこうと納得してもらえていると思っています。会社の施策や業務のすべてが、この指針につながる形をつくったのが大きな一歩でした。

これからのビジョン

大阪から関東、名古屋への展開

今は大阪のみの展開ですが、より多くの方に楽しんでいただきたいという思いがあるので、関東や名古屋にも出店したいと考えています。店舗数を増やして、お客様との接点、喜んでいただける場面を増やしていきたいですね。

出店は必ず現地に足を運ぶ

出店はご縁やタイミングによるところが大きく、区画が出ても設備や広さが合わないこともあります。条件表や図面だけでもある程度は把握できますが、実際にその場所に行き、どんなお客さんがいるのかを自分の目で見た上で判断したいと思っています。おそらく出店には至らないだろうと思いながらも、必ず現地を見に行くことは徹底しています。

学生へのメッセージ

社会を自分のために使い倒す

今の学生さんや若い世代の方は、会社に貢献して対価をもらうという取引の感覚だけでは、幸せになれないと感じているのではないかと思います。実は私も同じ感覚を持っています。世の中は理不尽なことも多く、割に合わないと感じることも同じです。ただ、私の場合は、その社会を自分の人生のために使い倒してやろうという考え方をしています。仕事はあくまで人生の一部のパーツですが、過ごす時間は長いものです。打席に立って全力でバットを振り続け、失敗しながらヒットを打ったり打てなかったりを繰り返す中で、社会から得られる対価もあれば、自分のスキルやキャリアも得られます。そうしたものを自分なりに使い倒すというマインドセットができれば、未来が見えづらいと感じる今の社会でも、少し可能性を感じられるのではないかと思っています。

編集後記

事業承継という形で、突然代表に就任してから今日までの歩みには、地道な信頼関係づくりの積み重ねがあることが強く伝わってきました。焼肉のタレの営業から世界的パティシエとの出会いを経てスイーツ業界にたどり着くという経歴も、とても印象的です。「社会を自分の人生のために使い倒す」という言葉には、若い世代が今の時代をどう捉えるべきかのヒントが詰まっているように感じました。関東・名古屋への出店という次の挑戦にも、これからますます注目していきたいと思います。貴重なお話をありがとうございました。