インタビュー

大手時代に感じた「言っていることとやっていることのズレ」が、いまの会社をつくった

大手時代に感じた「言っていることとやっていることのズレ」が、いまの会社をつくった
PROFILE
株式会社HRパートナーズ 代表取締役社長
山田 直人

理系だったのに、人の心理に惹かれていた

理系だけど心理学に興味

学生時代は理工学部にいて、企業の経営学を学ぶような学科にいました。周りにはコンサルティング業界に進む同級生も多くて、企業を支援するために自分達に何ができるのか、理系らしく事実や数値にもとづいて考えていくことを勉強していました。学問として純粋に面白いなと思っていました。

一方で、大学生になる前から、人がどういうときにどんな気持ちになって、どんな動きを取るのかという、人の心理そのものにも興味があり、心理学の授業も取っていました。心理的なアプローチから、人が楽しく働けたり、成果を上げられたりするための支援ができないかという思いがあったんです。就職活動では人事系のコンサルティング会社をいろいろ回っていました。

大手研修会社で感じた違和感

研修と現実がずれていた

最初に入社した会社は、大手人材総合サービス企業の中でも採用や教育の事業を企業向けに提供する会社でした。社内では営業やシステム開発など、本当に幅広い業務を経験しました。その中で、現在のビジネスの原点となる研修事業に出会い、そこからは10年以上にわたって深くその事業に携わり続けました。

企業向けに研修をやっていて、その中では「こういう考え方や行動を取ると、よりよく働ける」「上司と部下の関係性はこうあるべき」といったことを、研修という形で届けていくんですよね。しかし、自分たちの会社の社員が本当に前向きに働けているかというと、あまりそうではありませんでした。当時は今のように労働時間や生産性への意識もあまり高くない時代だったので、超長時間労働で、夜中まで平気で働いて、体調を崩す人や、精神的にまいってしまう人、信頼関係を築けずに辞めていく人もいたんです。

健康食品会社の不健康

お客様に提供していることと、自分たちがやっていることが一致していないんじゃないか、という問題意識がとても強くありました。たとえば、健康食品を作って売っている会社の人たちが、毎日インスタント食品ばかりを食べて体調を崩しているようなものです。これは違うんじゃないかと思ったんですよね。

自分たちが提供しているサービスで伝えていることを、自分たち自身がちゃんと実践して、自信を持ってお客様に届けていく。そういう仕事じゃないと、誇りを持って働くことはできないだろうと思いました。しかしながら、大手である以上は大きな利益を出すことを優先しなければならないのは当然な部分もあって、自分がやりたいことや大事にしたい思いを実現しきれないと感じて、会社を辞めることにしました。

仲間との起業、そして独立へ

10年で見えた方向性の差

会社を辞めるとき、同じ会社で働いていた同僚と一緒に会社を作ろうという話になり、もう一人が社長、私は役員という形で、企業向けに研修を提供する事業をベンチャーとして立ち上げました。10年近く一緒にやってきましたが、その過程でだんだんと会社の方向性と自分が大事にしたいものにズレが出てくるようになったんですよね。

改めて、私が本当にやりたいことは何だったのかと考えたときに、研修で伝えていることを自分たち自身が高いレベルで実践して自信を持って提供すること、本当の意味で信頼関係を築いたりいい組織を作ったりすることでした。もう一度、自分がトップとして自分の思う方向に持っていきたいと思ったんです。

2022年3月に創業

それでいまから4年半ほど前、2022年3月に株式会社HRパートナーズを創業しました。研修の事業に携わっているという意味では、もう20年以上同じ業界にいることになります。

父も経営者だった

サラリーマンから経営者へ

もともと私の父は会社を経営していて、私が中学生ぐらいのときに起業しています。子どもの頃の記憶では父はサラリーマンでした。そのサラリーマンだった父が、自分で会社を作って経営していく変化を間近で見ていたので、面白そうだなと思ったり、将来私も手伝うことがあるのだろうかと考えたりしていました。結果的には父の会社にはまったく携わっておらず、業界も違う私の会社を作ることになったのですが、社会に出る前に会社経営とはどういうものかを勉強したいという思いから、経営学という領域を学んでいたところはあります。身近にそういうモデルがいたことは、やはり影響していると思いますね。

無形財を売る難しさ

受注まで一年がかり

現在の会社は現在はまだ数名でやっている小さな会社です。研修の仕事はとても地道な仕事で、企業向けに研修を提案してから、実際に発注してもらうまで数ヶ月かかります。受注が決まってから研修の実施日までも、また数ヶ月先です。対象になる社員に告知して日程を空けてもらう必要があるので、早いタイミングだと1年前から講師の日程を押さえることもあります。売上が立つのは、あくまで研修を実施したときなので、提案から入金までにとても長いタイムラグがある仕事なんです。

一日数十万円の商品

研修は形のない、無形財のサービスです。それでいて1日数十万円という高単価な料金をいただくので、形の見えない高単価なものを売るのはとても難しいことなんですよね。例えば新しく採用した営業担当が、最初の1年間まったく売れないということも珍しくありません。しかしそれでもこの仕事は飽きません。お客様の課題は1社1社異なります。ベースとなる研修プログラムはありますが、すべて各社の状況に合わせてカスタマイズするため、ご提供するものに同じものは2つとありません。

信頼関係がすべてを広げていく

形の見えない高いものを買ってもらうためには、お客様との人間的な信頼関係の構築も大事ですし、お客様が抱えている課題を研修プログラムで解決できるのかという、純粋な提案力も求められます。提案の内容だけでなく、営業担当自身を信頼してもらう必要があって、そこが両方認めてもらえないと受注は難しいんですよね。

研修の実施当日も重要で、当日の研修があまり良くなければ、そこで取引が終わってしまいます。逆に、いい研修ができれば「来年もお願いします」「他のテーマでもお願いします」と、商売が年々広がっていくんです。最初の取引は1つの研修からスタートすることが多いのですが、そこから広がっていくのが弊社の特徴です。現在は5年目に入って、ようやくそこが少しずつ拡大してきているところですね。

いい組織でありたい

数名から20〜30人規模に

私自身、いい組織でありたいという思いがずっとあります。仕事をしていくなかで難しさや人間関係の大変さは当然出てきますが、それでも「こういう組織っていいよね」というものを、自分たちで体現したいんです。現在は数名の少人数でまとまっているのですが、もう少し組織として大きくなりたいと思っていて、5〜6年ほどかけて20〜30人規模を目指したいと考えています。そのためには、現在のメンバーとして動いている営業のメンバーが、今後リーダーやマネージャーになっていってくれる必要があります。そうやって次に続く人が育っていく組織にしていきたいですね。

学生へ伝えたいこと

25年ぶりの再会

学生の皆さんに一番伝えたいのは、学生のうちにやりたいことをやっておいてほしい、ということです。

実は最近、まさにそう思う出来事がありました。学生時代に音楽サークルの代表をやっていたのですが、今度の日曜日に、学年を超えた初めての同窓会を開くことになったんです。私たちが1年生だった頃にお世話になった先輩たちにも声をかけようということになりました。SNSがまだない時代だったので、連絡先を辿って辿って、できるだけたくさんの人に声をかけました。25年ぶりに集まる人もいて、海外赴任中の人や、商社勤務の人、国家公務員になった人、私のように起業した人、主婦になった人など、いろいろな人が日本全国、世界中から集まってくれます。

こうして集まれるのは、学生の頃に一生懸命やっていたからなんですよね。サークルの代表を務めていた1年間は、やることも多いですし、人間関係の面倒なことも多くて、とても大変でした。それでも、そこで頑張っていたからこそ、いま声をかければ集まってもらえますし、集まればまたいろいろな刺激をもらえます。だから、勉強でもサークルでもアルバイトでも何でもいいので、自分が興味を持てるものを1つでも2つでも大事にして取り組んでおいてほしいです。

編集後記

大手企業での違和感をきっかけに、自分が信じる組織のあり方を追い求めて創業したという話が印象的でした。とくに「無形財かつ高単価なものを売る難しさ」というお話は、普段あまり意識したことがない視点で、地道な信頼構築の積み重ねがビジネスを支えているのだと実感しました。25年ぶりの同窓会のエピソードも、学生時代の頑張りが将来につながるという実感が伝わってきて、私自身、いま取り組んでいることを大事にしようと思いました。貴重なお話をありがとうございました。