インタビュー

声に出すから、自分が変わる。父の介護から生まれた「自分の鏡」という発想

PROFILE
SomniQ 株式会社 代表取締役 CEO
坂口立考

海外への憧れ、そして父の病

4 歳から洋楽を丸暗記

私が外国に興味を持ったのは、幼稚園のころのことです。当時ソニーのオープンリールというテープで英語の曲を聴いていて、何百曲も全部覚えていたんですよね。だから海外に行くことへの憧れは、もうずっと根っこにありました。

16 歳でアメリカへ渡り、現地の学校に一つ飛び級して入学しました。そのまま、アメリカの大学、そして大学院まで行こうと思っていました。

父の介護が人生を変えた

ところが途中で、父が脳梗塞になりまして。当時は今のような処置の選択肢もなく、それで介護が始まりました。父は私が生まれたとき 50 歳だったので、いまの私はその時の父の年齢を超えていることになります。信じがたいですけど。

構音障害があって、言っていることはわかるし頭も働いているんだけど、筋肉が動かせないから声が出せない。ひらがなの文字盤を手に持って会話するような状態でした。行きたいところにも行けず、お金もない、働かないといけない。そして何もしてあげられないという無力感。あれが、今私がやっていることの原点なんだと思います。

「見えないもの」を見えるようにしたい

ドラえもんを目標に作り続けた

私はもともと「つくる」ことが大好きで、ドラえもんが目標みたいなところがあって(笑)。すごろくもつくる、ラジオもつくる、紙芝居もつくる。絵本もつくる。人生ゲームもつくる。そういう子どもでした。

父の介護を経て強く思ったのは、脳の中で起きていることは見えない、ということです。でも声やしぐさ、間合いを時系列で見ていくと、人間なら「あ、今少し笑ってるな」とわかる。AI にはそれができなくて、全員に同じ答えを返すことしかできない。だから、見えないものを見えるようにするしくみをつくろう、と思ったんです。

起業までの 15 年

その後、メキシコ・スペインに10年、スウェーデンに10年、シリコンバレーに15年いて、一昨年日本に戻ってきました。シリコンバレーにいた約 15 年のほとんどは、特許を取ったりしくみの土台を作ったりすることに費やしていました。何年もかかる大変な作業なんですが、豚骨ラーメンの例えでいうと、スープのベースを作らないことには、いくらトッピングをしても本物にならない。屋根から家を建てることはできないんですよね。

1999 年ごろからスマートフォンのような端末で声を活用するしくみを構想していたんですが、当時は通信技術が全く追いついていなかった。そのベースが整ってきたことで、ようやく今の形が実現してきた、という感じです。

「声の鏡」で英語が変わる

リズムとイントネーションを可視化する

私たちが開発したのは、エンパシーム®英語トレイル(Empatheme)というサービスです。日本語には約 50 の音の種類しかありませんが、英語には 10,000 以上のパターンがあって、しかも短い音が 50% 以上を占めます。

日本人が英語を聞き取れない理由は、音が「速い」のではなく、英語の短い音に対応できる耳の網目を持っていないからなんです。文字を見て自己流で読み上げる練習をいくら重ねても、日本語耳のまま英語の音をイメージしてしまうので、本物の音とのギャップが埋まらない。

だからエンパシーム®英語トレイルでは、文字ではなく「リズムミラー」という独自の視覚化で声を表示します。お手本のネイティブの音と、自分が真似した音がどれだけ似ているかがリアルタイムでわかる。中 3 の子のデータを見ると、最初は全然形が違うのに、続けていくとどんどん重なってくるんですよ。アプリを開いて声に出すとと、葉が出たり、花が咲いたり、実がなったりして、水やりのように自分で自分を育てていくイメージです。

失敗の数が成長の証

よくこう言うんですが、つまずいた数が一番多い人が、一番上手くなるんです。失敗のデータがそのまま成長の種になるので、65 点だからダメだ、ということにはならない。それを実感できるしくみになっているので、そのことを本当に伝えたくて。

今は千代田中学・千代田高校でラボという形で一緒に作業したり、立命館大学の大学院生・学部生 50 人ほどと実証実験をしたりしています。どういうタイミングでモチベーションが変わるのか、どういう人が続けられるのか、そのデータを一緒に研究してもらっています。

学生へのメッセージ

今やっていることを好きになる

毎日声に出してほしいことばがあって、「する人になる(Be a doer)」というものです。これを「とにかく行動しろ」という意味で使うのではなく、「やる人になる」と毎日声に出して言ってほしいんです。そうすると、だんだん自分がそういう人間になっていく。声に出さないと変わらない、というのは私自身が一番実感しています。

自分探しとか、何になりたいとか、いろいろ考えると思うんですが、探す「自分」なんてどこにもないんですよ。今やっていることを好きになれば、そこから道は開けていきます。私も、何になりたいかなんて一度も考えたことがなくて、「おもしろいものをつくって、だれかを喜ばせたい」という気持ちだけで今日まで来ました。その漠然とした目標の方が、絶対にいいと思っています。

編集後記

坂口さんのお話を聞いていて、一番印象に残ったのは「結果は真似できないが、原因は真似できる」という言葉です。英語の上達も、起業家としての姿勢も、派手な成果の裏には地道な「土台」がある。私自身、就職や将来のビジョンを焦って描こうとしていましたが、今やっていることを丁寧に積み重ねることの大切さを改めて感じました。エンパシーム®英語トレイルも、すぐにダウンロードして試してみました。声を出して「まねる」だけなのに、自分の音が可視化される感覚は新鮮で、続けたくなる仕掛けが随所にありました。坂口さんが 10 年以上かけて作り続けてきた「鏡」の意味が、少しだけわかった気がします。