インタビュー

スタッフが40人から4人になった夜、私たちは全国展開を決めた

スタッフが40人から4人になった夜、私たちは全国展開を決めた
PROFILE
株式会社 JOWA 代表取締役社長
田中 孝治

芸能界での挑戦と、29歳で見えた壁

時代劇にも出ていた

私はもともと芸能界にいました。舞台が中心でしたが、皆さんのお父さん世代やおじいちゃん世代がよく見ていた時代劇にも出演させていただいていました。

天狗になっていた自分

運がよかった分、やはりそこで天狗になってしまうものです。私は現在49歳ですが、同級生には未だにアルバイトをしながら舞台が好きで続けている人も山ほどいます。そのなかで、自分は若くから、舞台中心で仕事をさせて頂いたことに、天狗になっていたのと同時に、師匠からも破門されて出戻らせてもらったことがあるくらい破天荒な役者でした。そんな、私より実力があるのに辞めていかなければならない仲間をたくさん見てきました。

ちょうど29歳のときに、自分の壁にぶつかりました。そのとき、清水国明さんが河口湖に劇場を作るという構想を聞いたんです。食べていけない役者が多いこの世界で、第二の芸能界をつくりたい、そう思いました。

日本中を笑顔にする。これが私の理念として掲げていることです。小さい頃、テレビドラマの主題歌を大声でものまねしながら商店街を歩くとみんなが笑顔になってくれました。人の前で人を笑わせることが、私のスタートです。

山梨への移住と、経営危機

劇場支配人になった

「もう一回、一から新しいことに挑戦しよう」と思い立ち、山梨県に移住して劇場の支配人に就任しました。実はここからがおもしろいお話なのですが、清水さんも私も、元々は表に立つ側の「演者」なんです。ですので、劇場の運営や案内を行う「裏方」とは、立場も視点もまったく違うんですよね。芸能人は「ロマンがあるが、ソロバンの商売の才能が無い」とよく言われます。大きな劇場で、お客様と演者の方が一対一になる日もあり、そのころは劇場スタッフとキャンプ場運営・乗馬体験のスタッフやレストランのコックさんなど、40人のスタッフがいました。

スタッフが40人から4人に

そこから、倒産するかもしれないという状況になりました。2007年の秋ごろ、40人中36人のスタッフが辞めて、残ったのは4人でした。そして、会社は倒産・・・すると思いきや、皆様の期待を裏切ります。スタッフが40名いたころは、無料で観劇のチケットを配っていたこともあり、来場者数は1年で1万人ほどでした。ところが4名になり、なんと2倍の2万人のお客様が来てくれたんです!これがいわゆる、劇的な「V字回復」の瞬間でした。

キャンプ場から生まれた研修

V字回復の秘訣

観劇もそうですが、キャンプ場って個人客をターゲットにしているイメージはありませんか?私は演者です。講演会も歌手もそうですが、ひとりの演者に対してお客さまは2000人、3000人、多いときは1万人という規模で観る場合もあります。その発想のまま、キャンプ場にバーベキューサイトを作り、劇場も空いていたので、そこで団体運営を始め、チームビルディングを始めたんです。ひとりでお客様とお客様を仲良くさせる場をつくることが、チームビルディング研修のスタートでした。

チームビルディングの原点

自分のトーク力を活かして、ひとりで200人、300人の学生さんを笑わせたり、バーベキューを作ったり、コミュニケーションゲームをしたりしました。このV字回復のヒントは「発想の転換」です。例えば、財布にお金がたくさん入っていると何も考えずにお金を使って物を買ってしまいますが、お財布にお金が少ししか入っていないと、大根ひとつ買うにも、大きさや、鮮度をよく考えながら物を買うようになります。

世の中を変えたいと思うとき、ピンチは必ずセットでやってくるものだと思っています。何か新しい発想が生まれる前には、必ずそういう出来事があるんでしょうね。講師の仕事でもよく話すのですが、ピンチとは、違う角度を見せてくれる「パラダイムシフト」なんだと思います。ちなみに、私が師匠から破門されたピンチの時も、チャンスをつかみに行かせてもらえた経験があったからこそ、師匠からまたお呼びがかかったのだと、今だからこそ思えます。

全国展開への決断

4人で決めた夜

学生向けや社員旅行の取り組みからV字回復を成し遂げたことで、「これは企業研修にも応用できるのではないか」と考えました。ちょうどその頃、外部の研修講師の方から「演劇を取り入れた研修をやってみないか」と声をかけられたんです。最初は正直「少し気持ち悪いな」とも思いましたが(笑)、いざやってみると、舞台のチームづくりと本質はまったく変わりませんでした。研修を通じて人が『変わる』ということは、まるでお芝居の創り方と同じで、受講生が感動し、笑顔で帰ってくれることに、自分の生きがいを見出しました。そこで2008年から、本格的に企業研修ビジネスをスタートしました。幸い、私たちの施設には劇場だけでなく、宿泊施設やキャンプ場、食事を提供できる環境も整っていましたので、まずは一泊二日の合宿型研修から始めていきました。

実は36人が辞めたその日の晩、残った4人で「全国展開しよう」と決めていました。人間は、物事を決めるとその方向に進んでいくものです。私は100通りのことをするより、ひとつを極めるほうが好きなタイプです。小学校の帰り道、テレビドラマの主題歌を大声でものまねしながら商店街を歩くとみんなが笑顔になってくれた光景が忘れられず、今でも自分なりに人を笑顔にし続けているだけです。

お断りが増えた理由

お客様からは、「リピート率95%以上。今最も予約が取れないカリスマ講師」と言われ、お断りせざる得ない状態になりました。私一人では日本中を笑顔にできません。そのため、私たちはノウハウ提供を始めました。20カ所以上の施設と提携し、全国に展開できるようになったんです。それだけではなく、2025年4月から株式会社NTT Landscapeと協業し(https://jowa.fun/news/ntt-landscape)、私たちのメソッドを広げてくださっています。

コロナ禍のときには、三密を避けられるアウトドア型の研修だから広がったのだろうと言われることもありますが、私はそうではないと思っています。便利な時代になればなるほど、人間の生き抜く力や問題解決能力は失われていく。この研修は、木にたとえるなら枝葉ではなく根っこの研修なんです。マナー研修や技術を教える研修ではありません。この研修は「人間力」という、人としての根っこを蘇らせてくれる研修なんです。

「根っこ」を育てる研修

枝葉ではなく根っこ

ある企業の人事の方に「10年前の新卒と今の新卒は変わりましたよね」と言われたことがあります。ですが私は、10年前の学生も何ひとつ変わっていないと思っています。AIを活用するようになった、情報過多の時代である。そういう枝葉の部分は変わっても、根っこは変わらないです。私の研修は、よく「非日常でいいですね」と言われます。この研修は、時計も携帯も外して、チームで協力して、焚き火を囲んで、泣いたり、喜んだり、ハグをしたり、ハイタッチをしたり、シェイクハンドをしたりする研修です。

この光景は、まさしく人としての「日常」なんです。その人としての人間力は10年前であっても同じなんです。

教えない研修

私はもともと役者だったからだと思いますが、教えないんです。この研修は、教えないからこそ自ら気づいていただく研修です。組織や個人は、すぐには変わりません。バイオリンの音を明日からトランペットの音色にしなさいと言われても無理な話です。ですが、音色と音色のハーモニーを作品として大きく変えることができる。それと同じで、だから私は「組織は2日で変わる」とお伝えしています。個人がその2日間だけで変わるわけではありませんが、組織はたった2日で変わります。その変わった状態のなかで、個人も少しずつ変わっていく。そういう順番だと思っています。

組織はたった2日で変わる

下手な指導者ほど個人を変えようとしますが、大切なのはハーモニーをどう変えるかです。チェロやバイオリンといった素晴らしい楽器が集まって、ひとつの音色になる。絵の具もいろいろな色があるからこそ、絵ができる。できない人を排除するのではなく、その人の個性をいかに活かすかが大切なんです。弊社のチームビルディングのプログラムは、講師の先生が「あなたたちは、ビジョンの共有ができていない」と教える研修ではありません。参加者同士がアクティビティを通して「自分たちはビジョンの共有ができていない」と自然に気づき、課題に対して改善策の話し合いを始める場面が自然と生まれます。だから企業の課題が確実に改善するのです。それが、離職問題やエンゲージメントの低下という企業の課題を解決する結果が出ているからこそ、予約が取りづらい状態になっているんだと思います。

AIの時代にこそ、人間力を

140万年変わらないもの

IT化が進み、AIが浸透するほど、人間力は失われていっています。だからこそ、AIやChatGPTとうまく付き合っていくために、私たちの泥臭い研修が必要になります。人類が火を扱えるようになったのは140万年前と言われています。焚き火を囲んで「どんな未来を創ろうか」と語り合う。それは「どんな会社を創ろうか」と、みんなで話すことです。その本質は140万年前から変わっていない。だからこそ、この研修は現代人がAIと上手く付き合っていくための、駆け込み寺のような場所になっているのだと思います。

若い世代へのメッセージ

私は新しい芸能界をつくろうとしています。我々JOWAやNTT Landscapeのメンバーが、いわば劇団のようになってきているんです。芸能界という土俵で言えば、誰もが知るような超一流のお笑いタレントを超えることは到底できません。でも、「研修」というジャンルにおいては、大御所芸人をも超えるような存在になりたいと思っています。

若い世代に伝えたいのは、人間力を「取り戻そう」ということではありません。私たちには「人間力」が元々あるんです。今の若い人たちは、上の世代から「AIに頼っている」「自分で調べる力がない」と言われがちですが、そんなことはありません。むしろ、AIや今の世の中の道具を使いこなせる力に、人間力を足せば、もっと素晴らしい現代人になれると思います。無人島に放り込まれても、裸一貫でも、野菜を作って生き抜いていける力を、みんな持っているということを忘れないでほしいですね。上の世代に負けないように、その力を発揮するのではなく、共存共栄していく。ぜひ、AIと一緒に、私たちと居酒屋にでも行きましょう。

編集後記

田中さんのお話をうかがって、いちばん印象に残ったのは「組織は2日で変わる」という言葉です。スタッフが40人から4人になるという経営危機のなかで見つけた気づきが、今では1,600社以上に選ばれる研修へと育っています。枝葉ではなく根っこを育てるという考え方は、私たち学生が仲間とチームを組むときにも、あわせて意識したい視点だと感じます。AIが当たり前になる時代だからこそ、人間力を磨くことの大切さを、あらためて考えさせられるお話でした。