インタビュー

マンションの一室から始まった、医師不足を支えるインフラ ─ MRT代表・小川智也が見つめる医療のこれから

マンションの一室から始まった、医師不足を支えるインフラ ─ MRT代表・小川智也が見つめる医療のこれから
PROFILE
MRT株式会社 代表取締役社長
小川 智也

MRT株式会社で代表取締役社長をしている小川智也です。医師と医療機関をつなぐ医療人材紹介サービスを中心に、遠隔診療アプリなどの事業も手がけています。もともとは救急医療の現場に立つ医師で、いまも「医療を守る」という一点だけは変わらずに仕事を続けています。

医師不足の時代に生まれた会社

会長が起業した医療のインフラ

MRTは、現会長が創業した会社です。会長も私と同じく医師で、20~30年 、日本の医療現場を知っています。当時は人口がどんどん増えていくのに医師が足りず、医療機関の体制も追いついていない時代でした。医師不足は社会問題として大きく取り上げられていて、その一方で大学病院に勤務する医師の方にも、「水曜日の夜だけ」「日曜日の昼間だけ」といった、数時間から半日ほどの空き時間がありました。この「医療機関のニーズ」と「医師の空き時間」をマッチングすることで、日本の医療インフラを守っていこうという取り組みから、MRTは始まりました。よく「医師のアルバイトの会社」と紹介されることもあるのですが、私たちの感覚では少し違っていて、医師はお金のためというよりも、日本の医療を守るために外勤(アルバイト)をしているのです。単発の勤務で医療機関と医師をつなぐ、というのが創業からの事業の軸になっています。

会員から仲間になった瞬間

私自身、最初はMRTの会員、つまりサービスを利用するユーザーの一人でした。当時は救急医療に携わっていましたが、現場での経験を通じて「社会のインフラや医療制度そのものを変えていきたい」という思いが強くなり、現場から事業側へ軸足を移すことを考えるようになりました。そんな折、会員として関わっていたご縁もあり、自分が事業づくりに興味を持っていると伝える機会がありました。そこで「一緒にやらないか」と声をかけてもらったのが参画のきっかけです。創業当時はまだ「会社」と呼べるような組織ではなく、どちらかというとサークルに近い雰囲気で、マンションの一室に仲間が集まって、エクセルを叩きながら医師に電話をする、というところからのスタートでした。本当にそんな手探りの状態だったと聞いています。

医師不足の本当の理由

高齢化が生むニーズ増

医師不足の背景には、まず高齢化社会があります。若いうちはなかなか病院にかかりませんが、高齢になると心臓病や糖尿病、腰や足の痛みなど、医療の力を借りる機会がどうしても増えていきます。日本はこの30年で高齢者の比率が世界トップレベルまで上がっていて、それに伴って医療ニーズも自然と高まってきました。

医師育成には10年

では医師を増やせばいいのではないか、と思う方もいるかもしれません。ただ、医学部は6年、そこから研修を経て一人前の医師になるまでには最低でも10年かかります。国も人口構成を見ながら対策を取ってきましたが、育成には長い時間がかかるので、どうしてもニーズと供給のあいだにタイムラグ、ミスマッチが生まれてしまうのです。

MRTが手がける仕事

医師が必要な時間だけ働けるマッチングサービスというイメージ 

事業内容を一般的な言葉で説明すると、医療版のスキマバイトサービスというのが一番わかりやすいかもしれません。数時間単位でも人手を求めている医療機関に対して、空き時間のある医師をマッチングするという形です。ただ私たちは、単なるアルバイトではなく、あくまで「医療インフラを創る一翼を担う会社」にします。もともと医師の世界では、大学病院などを本務としながら、「木曜の午後はこのクリニック、金曜の夜はあの病院」といったように、複数の医療機関で働くのは一般的なことです。医療を懸命に守ってくれている常勤の医師がいる。それでもどうしても足りないマンパワーを、非常勤の医師の力をお借りして埋めていく。それが私たちの取り組みです。 

24時間365日を支える体制

「今日は緊急オペで、外来担当の医師が足りない」、「週末の当直医が不足している」というように、医療現場が求める情報はリアルタイムで更新されていきます。私たちはエリアを限定することなく、日本全国の”今”困っている、あるいは、”将来的”に困る可能性がある医療現場を支えるべく、医療機関と医療従事者をマッチングしています。24時間365日体制で日本の医療を守っている会社です。医師と医療機関、双方をマネジメントしていく難しさはありますが、だからこそ大きなやりがいがあります。今後はさらなるシステム化を進めるとともに、AIを積極的に活用することで、より効率的でスピーディーな支援体制を作っていきたいと考えています。

フランクな文化が生む強み

ニックネーム制の社風

医療は24時間365日、決して眠らない分野です。だからこそ、私たちにも圧倒的なスピード感が求められます。社内で必要以上に気を使い、上長にお伺いを立てているような時間はありません。フランクに、リアルに、スピーディーに意見を交わせる環境を大事にしていて、その一環として社内ではニックネーム制を取り入れています。役職や年次に関係なくフラットに呼び合っており、私自身も「ダンディ」と呼ばれています。今年入った新卒のメンバーからも、普通に「ダンディ」と呼ばれますし、チャットやメールのやり取りでもそのままです。友達同士で飲みに行くときのような風通しの良いフランクな空気を、日々の業務のなかにも広げてスピーディーな意思決定に繋げていきたいと思っています。

コロナ禍という最大の壁

売上消失からの再起

創業から今日まで苦労の連続でしたが、なかでも最大の危機は新型コロナウィルスの感染拡大時です。私たちの主幹事業は、医療機関に医師をご紹介して、手数料をいただくビジネスモデルです。ただコロナ禍では行動規制によってビルが封鎖され、病院も休診、健診センターも次々とクローズしてしまう。医師をご紹介する「働き方」そのものが消滅していまい、売上が一気になくなるという、会社の存続にも関わる先の見えない苦しい状況になりました。ただ同じ時期に、ワクチン接種などを通じて「国や自治体と連携して社会を支えよう」という動きが一気に広がりました。MRTもすぐさま方針を転換し、医療機関への紹介だけでなく、自治体や国と連携する取り組みにシフトして、多くの医師の方や看護師さんの協力を得ながら事業を立て直していきました。

これから目指す医療の姿

これからはAIの開発や医療制度の変革によって、医療自体がどんどんアップデートされていく時代に入っていきます。私たちは病院を作るわけでも、経営するわけでもありません。ただ医療を守る側から、もう一歩踏み込んで現場に入り込み、新しい取り組みを通じて医療全体をアップデートしていきたいと考えています。

海外への展開

もう一つ考えているのが、日本で培ってきたノウハウを海外に広げることです。一昨年、シンガポールとベトナムに拠点を作りました。これから東南アジアの国々に対して、MRTがこれまで培ったノウハウやシステムを届けながら、日本だけでなく海外の医療を守る取り組みにも広げていきたいと考えています。

この会社のよくある質問

医師の資格がなくても働けますか。 はい。医師と医療機関のマッチング業務をはじめ、システム開発や医療機関へのサポートなど、医師免許がなくても活躍できる仕事はたくさんあります。当社には、資格の有無に関わらず医療現場のリアルな状況を深く理解している社員が多く、そうした「現場目線でのスピーディーな判断」をとても大切にしています。

社風はどんな感じですか。非常にフラットで風通しが良いのが特徴です。医療は24時間365日動いているため、社内でも圧倒的なスピード感が求められます。そのため、不要な根回しをなくして本音で議論できるよう「ニックネーム制」を導入しています。役職や年次に関係なく呼び合っており、私自身も新卒メンバーから「ダンディ」と呼ばれているくらいフランクな雰囲気です。

未経験でも成長できる環境はありますか。 私たちは若い世代の行動力や新しいアイデアをどんどん取り入れていきたいと考えています。そのため、過去の経験の有無よりも、「日本の医療インフラを一緒に作っていきたい」という熱い気持ちを何より大切にしています。年齢や社歴に関係なく挑戦できるフラットな環境なので、意欲次第でいくらでも成長していけますよ!

編集後記

早稲田大学3年生の関森です。取材を通して、医療という一見堅そうな分野にも、フランクな社風や若い世代への期待があることが印象に残りました。医師不足という社会課題に、現場を知る医師自身が経営の視点から向き合っている姿勢に、ものすごく説得力を感じました。就活で医療業界を難しく感じている方にこそ、読んでいただきたいインタビューです。