「本当にやりたいこと」を模索し続けた大学院時代
起業したいという気持ちは、20歳ごろからありました。しかし、何で起業するかという「好きなこと」が当時は見つからなかったんですよね。大学院時代に海外留学をしたり世界を旅したりして、少しずつ自分の考え方や価値観は変わっていったんですが、結局そのタイミングでは何も見つからず、大学院を出てそのまま神奈川県立高校の教師になりました。
教師になってからも、社会人としての忙しさやコロナ禍の状況もあって、かなり疲弊していた時期があります。そんなときにサウナに入って、そこで初めて自分に矢印を向けられる時間を持てたんです。スマートフォンが手放せなかったり、情報があふれていたりする現代で、自分を切り離して向き合える時間はなかなかありません。そのサウナでの体験がきっかけで人生が好転していくという感覚を、事業を通してもっと多くの人に伝えたいと思ったのが、創業のきっかけになりました。
デザインへのこだわりが強みのサウナハット
弊社のメイン事業はサウナアパレルブランド「SAUNA NOVA(https://saunanova.shop/)」です。主力商材はサウナハットで、デザインは意匠登録をしていて、他社にまねされないようにつくっています。
ブランドとしては、サウナハットの機能性をあまり前面に出さないというのも特徴です。広告でも機能はそこまで語らず、弊社が伝えたい価値観や世界観を表現することに力を入れています。そこに共感して買ってくださる方が、最近はかなり増えてきた印象がありますね。差別化という意味でも、世界観や価値観をしっかり表現していくことが今後も大事だと思っています。
創業から1・2年目はかなり苦戦しましたが、ECや商品設計を見直した3年目から事業が大きく成長し、4年目の現在もその成長が続いています。 それでも、思想がブレることはありませんでした。「良い商品を長く使いたい」という、こだわりを持つお客さまをターゲットに設計を続けてきた結果、レビュー評価は4.9という高得点を獲得。自信を持って製品のアップデートを重ねてきたことが、確かな評価として表れているのだと感じています。
フィンランドの老舗メーカーに直談判したサウナストーブ事業
サウナストーブ事業では、フィンランドの老舗メーカー「MONDEX」の製品を日本で展開してきました。まだ日本でほとんど知られていなかったころ、現地の会社をアポなしで訪ねて「日本で広めたい」と直接交渉したことから始まった事業です。
しかしながら、日本の電化製品の規制はかなり厳しくて、海外メーカーの製品を売るには「PSE認証」という安全基準の認証を取らなければいけません。これがなかなか取得できず、現在は電気ストーブは扱わず、薪(まき)ストーブのみを販売しています。薪を燃料に、燃えるスピードが最適化されているので、薪の消費量を抑えながらサウナ室の温度を早く上げられるのが商品としての強みです。
一方で日本のサウナストーブ市場は電気ストーブが9割を占めていて、煙が出る薪ストーブは消防の許可が下りにくいという事情もあります。フィンランドでの主力商材が日本ではなかなか売れないというのは、正直なところ課題に感じている部分です。今は国内在庫がはけたタイミングで、この事業からの撤退も視野に入れて検討しているところで、今後注力していきたいのはSAUNA NOVAのほうになります。
2032年、日本一のサウナブランドへ
ブランドとしてのビジョンは、2030年には「サウナハットといえばSAUNA NOVA」と自然に名前が挙がるブランドになりたいと考えています。そして2032年には、商品だけではなく、体験や思想まで含めて、日本を代表するサウナブランドとして認知される存在を目指しています。その先には、日本で確立したブランドを海外にも届けていきたいと考えています。
これは単にサウナハットを売るということよりも、自分に矢印を向けてもらう体験を届けたいという思想の部分が大きいです。価値観や世界観に共感してくれる人たちに届け続けることで、質の良い口コミが広がっていくと考えています。信頼している人からのおすすめのほうが広まりやすいのは、当然のことですよね。時間はかかるかもしれませんが、そうした良い循環をつくりながら、日本一のブランドを目指していきたいと思っています。
自分の人生は、自分で決めていい
この記事を読んでくれる学生に伝えたいメッセージは「自分の人生は、自分で決めていい」ということです。今はSNSやスマートフォンがあることで、周りからどう見られるかを気にしている子どもたちが多いと感じています。実際に教員をしていたときも、そういう生徒はたくさんいました。だからこそ、自分で選ぶということに自信を持ってほしいと思っています。
人は誰かに「変わりなさい」と言われただけでは、本当の意味では変われないと思っています。自分自身に矢印を向け、自分で気づき、考え、そして行動する。その積み重ねによって、初めて人は変わっていけるのだと思います。
私自身も、最初からそうできていたわけではありません。大学院に行く前の大学生のころは、周囲の目をかなり意識していた時期がありました。そこから自分自身に矢印を向け、自分が本当はどうしたいのかを考え、行動することで少しずつ変わることができました。そんな私も、自分に矢印を向け、気づき、行動して変わることができたんです。だからこそ、今はまだ自分のやりたいことが分からなかったり、周囲の目を気にして自分らしい選択ができなかったりする人でも、自分自身と向き合い、気づき、行動することで、きっと変わっていけると思っています。
自分自身を見つめ直す機会をつくってほしいというのも、あわせて伝えたいことです。表面的な部分だけでなく「本当は自分はどう思っているんだろう」というところまで深く見つめ直す力を身につけることで、実際に試して結果が出て、うまくいかなかったらもう一度やり直すというPDCAを回せるようになります。それが人の成長過程だと思っていて、若いうちにその力を身につけられると、その後の人生がかなり変わるのではないかと感じています。
編集後記
加納さんのお話を伺って、印象に残ったのは「自分に矢印を向ける時間」という言葉です。スマートフォンがそばにあると、どうしても周りの目や情報に意識が向いてしまいますが、就職活動でキャリアを選ぶときこそ、いちど立ち止まって自分自身と向き合う時間が必要だと感じました。教師からサウナブランドの創業という一見大きな転身の裏にも、地に足のついた試行錯誤があったことが伝わってくるインタビューでした。