食と出会うまで
100円ショップの陳列で気づいたこと
学生時代は、正直なところ、食に関わる仕事に就こうとは全く考えていませんでした。
20年以上前になりますが、ちょうど100円ショップが全国に広がり始めた時代で、私はダ
イソーのオープニングスタッフとして働いていました。
当時の100円ショップは、今のようなおしゃれな雑貨店というよりも、商品をたくさん並
べて「安くて便利」という魅力を伝えるスタイルが中心でした。
その中で、店長から商品の陳列を任せていただく機会がありました。
例えば、ビー玉をそのまま置いてもなかなか売れませんでしたが、グラスに入れて水を張
り、涼しげに並べるだけで驚くほど売れることがありました。
「見せ方を変えるだけで、こんなにも変わるんだ」
その発見が純粋に面白く、人に商品の魅力を伝えることや、コーディネートするような仕
事に興味を持つようになりました。
そうした仕事に就きたいと思いながらも、大学卒業後はいったん別の会社へ就職しました。
しかし、5年ほど勤める中で「この先も一生続けていけるのだろうか」と考えるようにな
り、少しずつ「自分で事業を起こしたい」という気持ちが芽生えていきました。
「食」を選んだ理由
食は、すべての人に必要なものだから
私が食の仕事を選んだ理由は、お客様が「全員」だからです。
人は生きている限り、食べ続けます。
年齢や性別に関係なく、誰もが関わるものだからこそ、食に関わる仕事をしようと決めま
した。
最初に起業したのは、店舗を持たない予約販売型のケーキ店でした。
当時はカフェが少しずつ増えてきた時代で、カフェへケーキを届ける宅配販売という形か
らスタートしました。
「おいしいケーキをきっかけに、料理教室にも興味を持っていただけるのではないか」
そんな思いから、料理教室へと活動をつなげていったことが始まりでした。
パッククッキングとの出会い
誰でも同じスタートラインに立てる調理法
料理教室を続けていく中で、時代の変化を感じるようになりました。
共働きが当たり前になり、料理教室に来てくださる方の年代も、次第に50代・60代以上の
方が多くなっていきました。
その方たちからよく聞いたのが、
「もっと子どもが小さい頃に知りたかった」
「もっと早く学びたかった」
という言葉でした。
そんな状況の中で、2011年以降に出会ったのが「パッククッキング」という調理法でした
。
ポリ袋に食材を入れてお湯で温めることで調理できる方法で、本来は災害時の調理法とし
て考えられたものです。
しかし、実際に使い続ける中で、「これは普段の料理にも十分活用できる方法なのではな
いか」と気づくようになりました。
何より魅力を感じたのは、料理経験があるかどうかに関係なく取り組めるところでした。
料理が得意な人も、初めて料理をする人も、みんな同じスタートラインに立つことができ
ます。
火や刃物をほとんど使わないため、子どもから高齢者まで幅広い世代が取り組める調理法
だと感じています。
社会課題を「食」で解決する
現在は、このパッククッキングを活用して、さまざまな場面でセミナーを開催しています
。
例えば、高齢者の一人暮らしを対象とした講座では、1人分の食事を自分で作れるように
なることが、認知症予防にもつながるという視点で取り組んでいます。
行政と連携した男女共同参画の授業では、男性の家事参加をテーマにしています。
そのほかにも、婚活イベントや企業でのチームビルディングなど、活用の場は本当に幅広
くあります。
ただ、根底にある思いはずっと変わりません。
「作って食べる」ということは、子どもから高齢者まで、すべての人に関係する大切なこ
とです。
年代ごとに抱える社会課題を、この調理法を通じて少しずつ解決していきたいと考えてい
ます。
「楽しくないと人は集まらない」
前面に出すのは楽しさ
パッククッキングを伝える上で、一つ大切にしていることがあります。
それは、「防災セミナーです」という打ち出し方を前面に出しすぎないことです。
パッククッキングは、確かに災害時にも役立つ調理法です。
ただ、防災だけを目的にすると、興味を持ってくださる方は限られてしまいます。
だからこそ、
「簡単においしいご飯が作れます」
「楽しく料理を体験できます」
という入り口をつくり、その中で、
「実はこの方法は、災害時にも役立つ調理法なんです」
と伝えるようにしています。
楽しくないと人は集まりません。
そして、楽しい体験だからこそ、心に残る学びになると思っています。
この考え方は、これからも変わらず大切にしていきたいです。
新しい企画を生み出し続けたい
現在、特に力を入れているのは、企業とのコラボレーションによって新しい企画を生み出
していくことです。
例えば住宅会社様と一緒に、子どもたちが「もしもの時のご飯アドバイザー」として認定
証を受け取れる講座を企画しています。
単なる集客イベントで終わるのではなく、その企業様のブランディングや地域貢献にもつ
ながる仕組みを、一緒につくっていきたいと考えています。
単に食を伝えるのではなく、楽しい企画を通じて人が集まり、その中で大切なメッセージ
を届けていく。
そのような活動を、これからも広げていきたいと思っています。
現在は全国に「パッククッキング協会ジャパン©認定講師」を輩出し、講師同士で仕事を
共有しながら活動しています。
まだ立ち上げて間もない協会ではありますが、これからさらに全国の企業様とコラボレー
ションしながら、この思いを届けていきたいと思っています。
学生・若い世代へ
ご飯の時間ぐらいはスマホを置いてほしい
今の時代は、日々の生活で精一杯になっている方も多いと思います。
やりたいことや、自分が大切にしたいことを見つけるのが難しい時代だからこそ、まずは
自分への投資として「食」を見直してほしいと思っています。
社会人になると、忙しさから10分ほどで食事を済ませてしまうこともあるかもしれません
。
でも、せめてご飯の時間くらいはスマートフォンを置いて、人と会話をしながら食べる時
間をつくってほしいです。
ずっと続ける必要はありません。
1日1回でも、そんな時間を持つことが大切だと思っています。
作って食べることには、自己肯定感を高めたり、「できた」という達成感を感じたりする
力があります。
食生活を完璧に改善しようと頑張る必要はありません。
まずは、楽しみながら食べることができる生活を送ってほしい。
それが、私が一番伝えたいメッセージです。
「食に興味がない」という人に来てほしい
私たちが届けたいのは、料理が好きな方だけではありません。
むしろ、
「料理は面倒くさい」
「食にあまり興味がない」
という方にこそ、参加していただきたいと思っています。
何も興味がなかった状態から、「少しやってみようかな」と思えるきっかけをつくる。
その方の「ゼロを1にする」活動を、これからも続けていきたいと思っています。
編集後記
池田さんとお話して印象的だったのは、パッククッキングという調理法を「防災のためのもの」として押し付けず、あくまで入口を楽しさに設定しているところでした。社会課題というと堅くなりがちですが、「楽しくないと人は集まらない」という池田さんの軸は、起業家としての設計力を感じます。料理を0から始める人への門戸を広げながら、子どもから高齢者まで幅広い課題と向き合う姿勢は、食という普遍的なテーマだからこそできることだと思いました。自分も普段の食事にもう少し向き合ってみようという気持ちになりました。