インタビュー

9.11、娘の闘病、そして自らの生死の淵。すべての苦しみが導いた「音が世界をつなぐ」という気づき

9.11、娘の闘病、そして自らの生死の淵。すべての苦しみが導いた「音が世界をつなぐ」という気づき
PROFILE
Sion Inc. 株式会社 一般社団法人シンギング・リン協会代表理事
和真音

Sion Inc. 株式会社の創業者で、一般社団法人シンギング・リン協会代表理事を務める和真音(かずしおん)です。日本発の音響楽器「シンギング・リン®」を開発し、音の力で心と体を調えるセラピーを世界中に広げる活動をしています。

心理学を学んだ時代に感じた「心のケア」の空白

心療内科がなかった時代

私がこの会社を創業したのは、39歳の時でした。それまでは、大学院まで進んで、教育心理学を勉強していました。

心理学というと、今でこそ心療内科であったり、学校にスクールカウンセラーがいたり、産業カウンセラーが心のケアをしてくれる時代になっていますが、私が大学院に通っていた頃は、まだ心療内科もなく、臨床心理士という資格も制度化されていませんでした。ようやく制度化されたのは私が大学院生の時代です。心と体の健康という場合、体のほうは見てくれる病院があっても、心の健康を相談できる場所はほとんどなかったのです。

そんな時代からもう40年ほど経ちました。この40年で日本もずいぶん変わり、心のケアという考え方は随分と発達したと思います。しかし今でも、例えば適応障害への理解がなかなか得られないなどの問題は、社会の中にまだまだあるように感じます。身近なところでも、心身症やパワーハラスメントによって心が折れてしまった方、学校に行けなくなってしまった学生さんなど、悩んでいる方は少なくないと思います。どうしたら体も心も健やかに暮らせるのか。それは私にとって、ずっと大きな関心事でした。

渡米、出産、そして娘の小児がん

私は25歳で結婚しました。その後は夫の仕事の都合でアメリカに移住し、ロサンゼルスとニューヨークで、それぞれ4年ほど暮らしました。長男は日本で生まれましたが、長女はロサンゼルスで出産したことから、日本とアメリカ双方で出産を経験しています。その際に、日米での医療に大きな違いがあることを肌で感じました。特に、心のケアに関して言えば、当時のアメリカのほうが進んでいたと思います。

さらに、娘が生後3ヵ月で小児がんを発症し、その後、6年にわたる闘病生活をアメリカで送ることになりました。その際、西洋医学の限界と同時に、医学だけでなく心をどう支えるかという課題にも直面しました。子どもの病気ではありましたが、私自身も心が折れそうになることが何度もありました。そして、どうしたら心のケアができるのかと周囲のアメリカの友人に相談すると、宗教を勧められることがよくありました。日本では宗教は、あまり良いイメージで受け取られないこともありますが、海外では心のよりどころとして、とても大きな役割を果たしているのだと、その時初めて知りました。

加えて、人種の違いによる差別や英語がまだ達者でないことによる苦労、移民に対する差別なども、海外で暮らして初めて実感したことでした。

苦難が導いた「音」という答え

世界を覆った不安と9・11

さらに、ニューヨークにいた時には、いわゆる2000年問題でノストラダムスの予言によって世界が滅亡するかもしれないなどと言われ、核弾頭が飛んでくるなどの噂までささやかれました。結局何も起こりませんでしたが、心理的な不安に押しつぶされる方や体調を崩す方がとても多かったのを覚えています。

そして2001年には、9・11の同時多発テロ事件が起こりました。当時私はニューヨークに住んでいたため、家族で被災するという言葉にしがたいほどの経験をしました。本当にさまざまな人生経験を経て、人間が幸福になるためにはどうしたらいいのか、その基盤は心と体が健やかであることだと思うようになりました。

帰国後、自らも生死の淵に立って

9・11の半年後、2002年の春に日本に帰国することとなったのですが、その数ヵ月後、今度は自分自身が免疫不全になってしまいました。半年後には、命の危険がある一歩手前、衰弱死の一歩手前まで自分を追い詰めてしまったのです。

この先どうやって生きていけるのだろうと思った時、自分の人生は世界が平和になるために、戦争ではなく子どもが健やかに生きていく未来を創るために使いたいと、心の底から思いました。

言葉を超える共通言語としての「音響」

病床で、何が世界を平和にするのだろうと考えた時に、言葉も宗教も民族も違う人たちが手を取り合って共通で理解できるものは、「音響」なのではないかという結論に至りました。音楽だとメロディーや言葉が入ってしまいますが、音響は物理エネルギーのため、言葉に頼らずとも世界が繋がっていくのではないかという発想でした。

具体的に例えるなら、オーケストラでしょうか。それぞれの楽器が個性豊かに音を鳴らすのは良いのですが、一緒に合奏をする際に、最初にしなければならないのがチューニングです。チューニングとは、音を共振共鳴させる状況を作る作業のことです。この手順を踏むことによって、たくさんの楽器を一緒に奏でても、うなりのような不協和音が生まれなくなります。そのため、楽器のチューニングを人間に当てはめて、人間をチューニングする道具があればいいなと思い立ち、そのための楽器の設計を始めました。そして2年の歳月をかけ、2004年12月に「シンギング・リン®」という楽器を発明しました。

シンギング・リンの誕生と大学が証明した効果

23年をかけて積み上げた学術研究

なぜこの楽器にチューニングの効果があるのかは、東京科学大学を中心とした大学の研究チームが、これまで10年以上にわたって学術的に研究をしています。その結果、ひとつの打音の中に低周波から高周波までの幅広い音が含まれていることがわかりました。同じ形状の楽器を今、7000個ほど作り出していますが、私がここでひとつを鳴らすと、7000個全てに共振共鳴が起きるほどの精密さで作られています。

共振共鳴は物理現象のため、たとえ地球の裏側に同じ楽器があったとしても、共鳴が始まります。2022年にノーベル賞を受賞した量子物理学の理論を応用すれば、同じことが物理次元で起こることも説明できます。例えば、同じ工房製のバイオリンでもひとつひとつの個体には、実は微妙なズレがあるため、この現象は起きません。しかし、シンギング・リンはその精密度によって、量子物理学的な現象が起こることが大学でも確認されています。

心と体の健やかさへの影響という点では、慶應義塾大学の満倉靖恵教授との学術研究で2016年から2018年にかけて測定が行われ、8割の方のストレス度を下げ、8割の方の鎮静度を上げるという結果が出ました。しかも、この音を苦手だと感じる方にも効果があることがわかり、実質100%の方に効果があると言える数値でした。さらに神戸大学のツェンコヴァ・ルミアナ教授との学術研究では、体の中にある細胞水がどのように変化するかという実験も行われ、体内の水エネルギーが向上し、流動性も高まるという良い方向への変化が確認されています。今では多くの医療関係者にもこの楽器を活用いただいて、睡眠導入や痛みの軽減、不安の軽減、ストレスの緩和など、さまざまな効果の実証が日々積み重なっている状況です。

「音の薬」を誤解なく届けるために

私たちは広告宣伝をほとんどしていないため、まだまだ知られていない存在です。今後多くの方に活用していただきたいと思う一方で、正確な情報をお伝えしたいという思いも強くあります。「音だけで良くなるなんて、怪しいのでは」と思われることもありますが、私たちが目指しているのは宗教とは一切関わりのない、物理現象としての効果です。むしろ宗教を超える存在でありたいと考えています。

音響療法がうまくいけば、薬が必要なくなる場合もあるため、薬をなるべく減らしていきたいと考える精神科の先生方とは、価値観を共有できる形で連携できています。価値観を同じくする方たちと少しでも人類の未来が明るくなるような活動を小さな会社ながら日々実践しています。

個人向けから企業向けへ、そして世界へ

創業から20年で、個人のお客様向けの事業は大きく広がりました。具体的なお名前は申し上げられませんが、著名な方にもご利用いただいています。創業20年を超えた頃から、企業様向けの事業もスタートし、企業でのストレス緩和やリラクゼーション施設での展開が広がりつつあります。

私は海外で長く暮らしていたからこそ、日本の良さを強く実感しました。ただ、日本がすごいのだとストレートに伝えても、海外の方には自国への誇りがあるため、素直には受け取っていただけません。そのため、日本の伝統工芸の技法を使い、日本人にしかつくれない精密さや繊細さ、美しさを持つ製品を届けることで、日本の「和」の精神が世界を平和にする力を持っているのではないかと感じていただけたらと静かに思っています。

少人数だからこそ大切にしていること

現在、社員は5、6人ほどです。加えて契約社員や外注のスタッフにも支えてもらっており、全体で20名程度の思いを共有する仲間たちと運営しています。

やりたいとおっしゃってくださる方はたくさんいますが、少人数制でやっていきたいという思いがあるため、実務としてスムーズにコミュニケーションが取れることを大切にしています。会社に来て勉強することはもちろん必要ですが、自分から積極的に提案したり、課題感を持って取り組んでくれたりする方は、とても面白いと感じます。

これからのビジョン

世界共振共鳴デーをつくりたい

世界を繋いでいくという意味では、イベントにも力を入れています。これまで毎年春にチャリティイベントを開催してきました。例えば東京大学の福島 智教授をお招きした講演会では、200万円ほどの寄付が集まり、東京大学への寄付や植樹活動に繋げられました。

さらに、来年からは6月6日を「世界共振共鳴デー」として、日本から世界に広げていくプロジェクトを立ち上げます。誰に頼まれたわけでもなく、自分から始めたことです。5年後、10年後には、世界がひとつになる共振共鳴の日として広がるだけでなく、実際に音を奏でる運動として世界中に広がっていく未来をつくりたいと考えています。20年前、まだ楽器の設計図しかなかった段階で「これが世界を救う」と言っていたときは、頭がおかしいと思われていましたが、今では大学の研究も積み重なり、愛用してくださる方も増え、オーストラリアなど海外でも自然と広がり始めています。パリやイギリス、イタリア、中国にも広がってきているため、世界中の人たちが繋がっていくためのひとつの理念として、私たちの会社がこの楽器が生きる活動の中心を担っていけるよう成長したいと思っています。

大企業とも渡り合える体制へ

企業向け事業が始まったこともあり、これから大きな会社とも渡り合っていけるような人材やプロジェクト進行ができる体制が必要になってくると感じています。また、シンギング・リンを愛用してくださる方が増えている分、その方たちをサポートするプロジェクトも進めていきたいと考えています。

楽器そのものは自社のオリジナルです。ただし、伝統工芸の技術を持つ複数の職人さんに実際の製造をお願いしているため、橋渡しと設計は私たちが担っています。製造した製品全てを岡山にある事務局に一旦集めて検品作業をおこない、岡山から世界中へ発送しています。東京の神楽坂にはサロン兼オフィスの一軒家があり、音響療法という新しい分野の施術メソッドをゼロから作り上げ、そのノウハウを学びに、日本中だけでなく、世界中から人が訪れてくれています。アロマセラピーがフランスから世界に広がったように、5年後、10年後にはシンギング・リンの音響療法が日本から世界中に広がり、活用されている未来を描いていますし、実際にそうなりつつあると感じています。

学生へのメッセージ ― 悩みは人に寄り添う力になる

日本に生まれたという理由だけでも、私たちには大きな使命があるのではないかと、海外に行くほどに強く感じるようになりました。日本はとても豊かで平和な国です。海外にはまだまだ貧困や差別があり、実際に戦争が起きている場所もあります。そうした中で、日本に生まれ、今学生でいるということは、この平和で豊かな環境を世界中で共有できるようにしていく未来を一緒に作っていく側にいることだと思います。それには、ゆとりや力が必要です。だからこそ、手を差し伸べられる立場に私たちはいるのではないでしょうか。

自分に何ができるのか、私自身も学生のころ、自分の力の小ささに押しつぶされそうになった時期がありました。その時に大切だったのは、一人で抱え込むのではなく、仲間と一緒にやろうと思えたことです。同じビジョンを共有できる先輩を見つけて、一緒に手を取り合うことで、それは単なる仕事ではなく、志すことになり、自分の人生が輝いていくのだと思います。

今悩んでいることがあっても、その悩みは、多くの人を支援し寄り添う力になっていくはずです。悩みがなければ、人に寄り添うことはできません。私自身、大きな病気を経験し、娘の病気もあり、9・11も経験しましたが、それらがあったからこそ、平和のために自分に何ができるかを一生懸命考えられました。悩みのない人生などありません。潰れてしまったり、一人きりになったりせず、ぜひ誰かと手を携えて、一緒に歩んでいってもらえたらと思います。

 

編集後記

今回のインタビューを通して、一つの苦しい経験にも意味を見出し、それを次の行動につなげていく姿勢が印象的でした。普段ゼミで学んでいる心理学の理論とはまた違う、実体験に根差した「心のケア」の話は、とても新鮮でした。学生団体の運営やアルバイトの延長線で悩むことも多い自分にとって、悩みそのものが誰かに寄り添う力になるという言葉は、素直に励みになりました。貴重なお話をありがとうございます。