高校の先輩の一言が変えた進路
100円のコーラを1,000円で売る
起業したいという気持ちが芽生えたのは、高校生のころでした。美容師になるか大学に進むか迷っていた時期に、一橋大学商学部に通っている先輩から話を聞く機会があって。「百円のコーラを千円で売る方法を商学部で学ぶんだよ」って教えてくれたんです。
高校生の私にはすごく衝撃的で、そういうことも学べるのか、って。それがビジネスであり商売なんだという話を聞いて、将来自分でビジネスをやってみたいという思いが芽生えました。それから商学部のある学校だけを受験して、慶應義塾大学の商学部に入りました。
学生時代は「意識低い系」だった
大学時代は正直、意識低い系の学生でした。サークルに入って飲み会をやったりと、ごく普通の学生生活を送っていました。ただ、自分で起業したいという思いはずっとあったので、ビジネス交流会や、スモールビジネスを立ち上げて運営している人たちの集まりに、ちょこちょこ参加していましたね。大きな事業を立ち上げていたわけではないですが、その熱はずっとくすぶっていたんです。
「最も経営者に会える仕事」を選んだ理由
野村證券を選んだ戦略
新卒で野村證券に入ったのも、実は起業を見据えてのことでした。起業するうえで、どういう会社で働けば一番それにつながるだろうかと考えた時に、「最も経営者に会える仕事」がいいだろうと思ったんです。証券会社の営業って、基本的に中小企業の社長のところへ営業しに行くので、一番社長と会えるだろうと。
入社後は当初の目論見通り、中小企業の社長向けの営業をやっていました。入社四年目には、成績優秀者が1年間海外に行って自己研鑽に取り組める制度があって、それでシンガポールに行き、ASEAN の経営者に年間で500名ほどお会いしてインタビューしたりしていました。その経験で、自分の中の起業への熱がさらに高まっていきましたね。
北海道で出会った「後継者問題」の現実
シンガポールから帰国して、野村證券の札幌支店に配属になりました。起業の準備をしながら仕事をしていたんですが、東京とは違って、北海道には後継者がいなくて悩んでいる会社がめちゃくちゃ多かったんです。
会社自体は儲かっていて、歴史もある。でも社長にお子さんがいなくて、引き継ぎ手がいない。そういう会社がゴロゴロある現実を目の当たりにして、気づいたんです。M&A で上場企業に株を売るというのが一般的な解決策でしたが、それって本質的な解決になるのだろうか、と。経営意欲のある人材が、後継者不在の会社を引き継げば、その会社はずっとそこに残り続けられるじゃないですか。
自分は起業したいとずっと思ってきたけど、こういう後継者不在で困っている会社を引き継いで経営していく方が、社会的意義があるし、自分が本来やりたかった自身のビジネスでインパクトを出すということが実現できるのではないかと。そこから事業承継の道を歩もうと決めました。
バブソン大学から BCG へ
事業承継の手法の一つに「サーチファンド」というものがあります。ファンドを作って投資家から資金を調達し、後継者不在に悩んでいる会社を探し(サーチ)、株式を取得し、自ら経営を担う手法です。これを野村證券の社内ビジネスアイデアコンテストに応募したんですが、実現できなくて。じゃあ自分でやろうと思いました。
ただ、それまでのキャリアはずっと営業だけ。経営となると、マーケティングもファイナンスもマネジメントも戦略論も分からないといけない。だから一度経営を勉強しようと、アメリカのバブソン大学(英語:Babson College)へ MBA の留学に行きました。
勉強しながらサーチファンドの立ち上げ準備を進めていたんですが、一年ほど経ったところで疑問が生まれたんです。座学だけで学んだ知識で、本当に継いだ会社を大きくできるのだろうか、と。だったら、学んだ知識を使って実際に経営の現場で課題解決できるか検証したい。そこでボストン コンサルティング グループ(BCG)に転職して、戦略コンサルタントとして3年間お客様の課題解決に向き合いました。3年経って「これならいける」という感覚が出てきたので、2024 年 1 月にサーチファンドを立ち上げました。
ソルナ株式会社という選択
「カイシャの病院」を継ぐ決断
サーチファンドを立ち上げてからソルナを選んだ理由はいくつかあるんですが、一番大きかったのは社会的意義の大きさです。
これだけ SNS をみんなが使うようになると、誹謗(ひぼう)中傷ってすごく多くなりますよね。どれだけ採用を頑張っていても、ネガティブな情報がネットにあるせいで採用がうまくいかない会社がある。どれだけ営業を頑張っていても、最後の最後で調べたらネガティブな情報が出てきて契約を断られる。そういった会社を救えるのであれば、意義があると感じました。
会長から継ぐにあたって言われたのは、「思うがままやってくれていい、信頼している」という言葉でした。代表に就任した初日から、従業員が相談に来る時も「社長の方に相談してくれ、社長が全部決めるから」と、経営判断を任せてもらいました。承継までの約一年弱、会長とのやり取りを通じてソルナという会社を深く理解し、お客様や従業員のことも徹底的に学んできた。最初は分からないことだらけでしたが、最後には「もう私より詳しいじゃん」と言っていただけるくらいになっていたので、その積み重ねが信頼につながったんだと思います。
老舗ならではの技術力と AI 時代の強み
この業界における当社の強みとして、まず16年の歴史があります。風評被害対策の市場の中で最古参の一角です。そして、その中で培ってきた技術力が非常に大きい。
弊社には、AI 研究の第一線で活躍してきた著名なエンジニアが創業時からずっと伴奏してくれています。ネガティブな情報がどういうロジックで発生するか、Google等の検索エンジンにどう認識されて風評被害として広まっていくかを解明した上で、対策を打ってきました。
今の AI 時代においては、みんなが当たり前に AI を使いますよね。AI Overviewsや AI Modeなどの検索エンジン系AIやChat GPT等の生成AIで生成された回答上で、その企業の強みや信頼性が適切に伝わる状態を作る支援も注力しており、現在、特に引き合いが増えている領域です。長年の AI 研究・分析の蓄積があるからこそ提供できる支援で、今の差別化にもつながっています。
仕組みで人を育てる第二創業期
現場力と論理力を育てる朝礼
2025年代表になってから、会社として第二創業期に入ったと伝えています。今後株式上場も視野に入れた指数関数的な成長を目指すという志に共感してくれるメンバーを増やそうと、採用にも注力し始めました。
どういう人と働きたいかというと、成長したいという意欲が強い人です。そのために、中小企業でありながら、育成の仕組みを意識的に整えています。一例でいうと、毎朝三十分の朝礼があります。
前半15分は持ち回りで一人の社員が、我々のビジネスに関連する最新のニュースを要約して全員の前でプレゼンします。それに対して私や役員、従業員みんなでフィードバックをしていく。後半15分は「書籍発表」と呼んでいて、各自が勉強したい本を選んで読み、パワーポイントにまとめて発表する。こちらも質疑応答やディスカッションをします。
これをやることで、発表者は論理的思考能力、仮説構築力、プレゼン能力を毎朝磨けます。聞いているメンバーも新しい知識がどんどん入ってくる。
野村證券とBCGでは、カルチャーも求められる力も大きく異なっていました。野村證券では、目標達成に対する強いコミットメントが求められる一方で、先輩や上司が現場で徹底的に育成に関わってくれる文化がありました。そこで鍛えられたのは、プレゼンテーション能力やコミュニケーション能力、行動力、そして目標を必ず達成する姿勢です。
一方で、BCGでは「成長は自己責任」という考え方のもと、自ら論点を設定し、仮説を構築し、論理的に考え抜く力が求められました。ソルナでは、野村證券で学んだ現場で人を育てる熱量と、BCGで学んだ論点設定力や仮説構築力の両方を取り入れ、社員一人ひとりが成長し続けられる仕組みを作ろうとしています。
「報告」にも型がある
報告・相談をする時にも型があります。目的、背景、依頼内容、期日、完成形の五つをセットで報告するというルールです。これをやると結論から話せるし、背景を構造的に整理する力が身につくので、コミュニケーションがスムーズになります。
教育だけでなく、すべて仕組みだと思っています。人間のモチベーションやポテンシャルに頼ると、組織として力を最大化できない。仕組みの中でみんなが活躍できる環境を作るのが、経営者の仕事だと思ってやっています。
隔月で、社員とは一対一の面談をして、ここを変えるともっと働きやすい、もっとお客様に付加価値を提供できるという改善案をどんどん出してもらっています。それをリストアップして優先順位をつけ、優先度が高いものから着手してルールを変更する。こうした改善サイクルを継続的に回しています。
AI 時代に代替されない力
AI についてよく聞かれますが、私はあくまで「正解を出すための補助ツール」だと思っています。人間がやるべきことは二つ。AI に解かせる問いを決めることと、AI のアウトプットを踏まえて意思決定することです。真ん中の作業は AI がやる時代になってきている。
だから、いかに質の高い問いを設定できるかが、仕事が AI に代替されるかどうかの分かれ目だと思っています。弊社のサービスも、お客様が何に悩んでいて、検索エンジン上でどういう表示が出るとその会社に役立つかという「論点設計」ができるからこそ成り立つ。純粋な単純作業ではないので、自分で問いを見つける力は、これからもずっと求められると思います。
学生へのメッセージ
好奇心を持ち続けること
世の中の移り変わりが激しい時代なので、何か一つの正解に固執するのが間違いになる時代だと思っています。昔は「戦略コンサルに行けばキャリアは安泰」「スタートアップに行けば必ず成長できる」といった正解のようなものがあった。でも今はそういうカテゴリーで判断できなくなってきています。
常に好奇心を持って、いろんなものに触れ続けることが大事だと感じています。いろんな AI を触ってみる、いろんな人に会ってみる、いろんな職場を見に行く。その上で自分で決める。それがすごく大事だと思います。
「アハ体験」を届ける営業哲学
仕事をしてきた中でずっと意識していることがあります。お客様が悩んでいることを、お客様よりも高い解像度で言語化するということです。
人って悩みがあっても、その真の原因を言語化できていないことが多い。潜在的なところまで掘り下げて言語化できれば、あとは AI に聞いたり専門家に相談すれば解決できる。だからお客様に会う前は徹底的に調べて、ビジネスモデルはどうなっているか、どこで困っていそうかという仮説を自分で持った上で臨みます。面談の中で最初からサービスを提案するのではなく、一緒に悩みを掘り下げて言語化して、お客様に「アハ体験」をしてもらう。そうすると自然とビジネスにつながって、お互いにとっていい関係が続いていくんです。
編集後記
「思うがままやってくれていい」という言葉から始まった承継。就任初日から全権限を委譲されるというエピソードからも、安宅さんの徹底した準備と誠実な人柄が伝わってきました。印象的だったのは、野村證券と BCG という全く異なる文化を経験されてきたからこそ生まれた、独自の組織づくりへの視点です。朝礼でニュースの要約プレゼンや書籍発表を毎日行い、報告にも型を設けるなど、「仕組みで人を育てる」というアプローチは、これから社会に出る私たちにとっても参考になります。AI 時代に求められる力は「質の高い問いを立てる能力だ」という言葉も、就活や将来のキャリアを考えるうえでとても刺さりました。企業の信頼を守る仕事に興味がある方は、ソルナ株式会社の取り組みにも注目してみてください 。