護送船団の時代に、流されるまま銀行員になった
王道に乗っただけだった
学生時代の話といっても、私は63歳で、もう40年近く前の話なので、今の学生さんとは相当違っていると思います。1987年に大学を卒業したのですが、当時は高度経済成長期の最末期にあたる時代でした。経済学部の学生は、大体そのまま銀行や金融機関に入って、そのまま大企業に勤めるというのが「ビジネスを知る」という意味での王道でした。私自身も特段深く考えることなく、その流れに乗って銀行に入りました。
未来永劫続くと思っていた
今の世の中は、大企業に入ってもいつ潰れるかわからない時代になっていますよね。しかし当時は、護送船団方式の世の中がそのまま未来永劫続くと、みんなが信じて会社に入っていた時代でした。学生に「これからどんな選択をした方がいい」というような話は、全くされていませんでした。
銀行員から日本郵政グループ、そしてベンチャーキャピタルへ
銀行、半導体メーカーを経て
新卒で現在のみずほ銀行に入行し、海外赴任なども経験しながら15年ほど銀行に在籍しました。その後、友人が経営する半導体部品メーカーに5年ほど勤めました。友人はいまもその会社を続けています。銀行、そしてメーカーでの経験を積んだあと、私のキャリアは大きく動くことになります。
日本郵政グループへの転身
ちょうど日本郵政が民営・分割化されたタイミングで声がかかり、ヘッドハンティングのような形で日本郵政グループに入社しました。海外物流や物販事業など、いろいろな部署を経験しながらキャリアを積み、2019年にベンチャーキャピタル事業に声をかけられることになります。元銀行員として投資事業に詳しい人間がグループ内にあまりいなかったこともあり、私がその役割を担うことになりました。
常務から社長へ
2019年に常務として日本郵政キャピタルに入り、2022年に社長に就任、2025年まで社長を務めました。ベンチャーキャピタル業として、スタートアップに投資をして成長を後押しする。そういう事業を7年近く続けてきたことになります。
推されて社長になった、その裏側
誰もいないなら私がやる
社長は当時の日本郵政の役員から指名されて就任しました。それまでは畑違いの役員が社長を務めていたのですが、年齢を重ねて交代のタイミングになったとき、後任がいなかったことから押し出されるような形で社長になりました。ちょうどそのタイミングで、私が打ち出していた「コーポレートベンチャーキャピタル」という方向性に会社が本腰を入れることになり、結果として私が社長としてそれを推進していく流れになりました。
独立願望は最初からあったわけではない
抜擢される前から社長や独立を望んでいたかというと、そうではありません。ベンチャーキャピタル業界の中で他の会社に移ってもいいとは思っていましたが、独立したいという発想はありませんでした。むしろ社長として、企業とスタートアップを結びつけてシナジーを生み出すノウハウが明確な形になり、自信を持てるようになったことが大きかったですね。雇われの立場のままでは、このノウハウを本当の意味で世の中に出していくことができない。そう思うようになり、最終的に2025年に独立するという結論にたどり着きました。もちろん、一人で決めたわけではありません。仲間が一緒にやろうと言ってくれたことも大きな後押しになりました。
事業の核は「時間軸のズレ」を埋めること
投資だけでなく、使いこなす部分に強みがある
ベンチャーキャピタル業は、基本的にはスタートアップに投資をして、その会社が成長し上場するなどした結果として利益を出す事業です。私たちが専門にしているのは、その中でも「コーポレートベンチャーキャピタル」と呼ばれる領域です。投資をする一方で、その技術を大企業に本当にうまく使ってもらうためのコンサルティングにノウハウがあると考えています。
大企業とスタートアップは時間軸が違う
スタートアップと大企業の事業部門をマッチングする人はたくさんいます。ですが実際には、大企業はリスク回避の意識が非常に強く、一方でスタートアップは今月、来月、再来月までに結果を出さなければならないというスピード感で動いています。大企業は半年後、一年後でもいいと考えていることが多く、この時間軸のズレが問題を引き起こします。単純に両者を引き合わせるだけでは、物事は前に進みません。
本当の課題を見つけてつなぐ
私たちが力を入れているのは、大企業側の「本当に痒いところ」がどこにあるのかを特定しに行くことです。「これならすぐにでもやりたい」という課題を見つけ出し、そこにぴったりはまるスタートアップを直接紹介する。それによって物事を早く進めていく、というアプローチをとっています。なんとなく自分たちの業界に近いというだけでスタートアップを選んでも、うまくはいきません。深いコンサルティングをおこなったうえで投資を実行することで、大企業は技術を取得でき、スタートアップも成長できるという「Win-Win」を実現していく。そういうコンサルティング事業をおこなっています。
創業して直面した壁
リスク回避思考との戦い
創業してから大変だったことも、結局は先ほどお話ししたことと同じです。大企業は縮み思考、リスク回避思考が根強く、そこそこの人に紹介しても物事はうまくいきません。ただ、大企業の中にも、何かを変えたいと考えているそれなりの役職の人が、あちこちにぽつんぽつんといます。
やる気のある人を見つける
そういう人を見つけて、一緒に物事を変えていきましょうと声をかける。こんなスタートアップがありますよ、と一緒に進めていくことで、はじめて物事がうまくいきます。誰もがスタートアップを活用しようと思っているわけではないので、そういうビジネスを一緒にやっていける人をまず見つけてくることが大切です。やる気のある人を見つけ、そこに弊社のコンサルティングノウハウで仲介をしていけば、あとは物事がうまく進んでいく感覚があります。
コネクションから始まるビジネス
課題を抱えている企業とのつながりは、日本郵政時代の取引先や、知り合いの知り合い、一緒にベンチャーキャピタル業をおこなっている仲間の親会社など、さまざまなコネクションから始まっています。オンラインで広く発信して応募を集めるようなビジネスではなく、地道な人のつながりの中から生まれていくものです。ひとつ成功事例を見てもらうと、そこから「あれもやりましょう、これもやりましょう」と広がっていく。そういうタイプのビジネスだと感じています。
これから目指す、コンサルとファンドの両輪
ファンド事業を立ち上げる
来年の初めには、ファンドを立ち上げようと考えていて、いまLP出資者の方々と準備を進めているところです。私たちはすでに企業の事業部門が抱える悩みを実際に解決していて、その解決策となるスタートアップを紹介し、実証実験(POC)に動き出している案件があります。そうした案件に、一緒に出資をおこなうファンドを立ち上げる計画です。
一粒で二度おいしい仕組み
事業変革のコンサルティングとファンド事業、この両輪を回していくことを考えています。企業がスタートアップを使って課題を解決し、それが広がっていけば、スタートアップ自体も成長して企業価値が上がっていきます。ファンドへの出資者にとっては、コンサルティングで課題を解決したうえに、スタートアップ側の価値も上がり、ファンドとしても利益が出るという、一粒で二度おいしい事業を目指しています。
中堅・オーナー企業に可能性がある
ファンド事業を大きくするために大切なのは、事業変革のコンサルティングをひとつひとつ丁寧にやり切り、結果を出し続けることです。結果を出せば、一緒にファンドをやりましょうという話につながり、そうした会社を積み重ねることでファンドビジネスは広がっていきます。急成長するタイプの会社ではありませんが、確実によい評判を積み重ねていく会社にしていきたいと思っています。今後は、意思決定の早い中堅企業やオーナー企業にこそチャンスがあるのではないかと考えています。アメリカではIBMやGM、GEといった大企業から、GAFAMのような意思決定の速いスタートアップへと主役が移りました。日本でも、次世代の変革を担えるような会社を見つけ、事業変革を持ちかけていきたいと考えています。
学生に伝えたいこと
挑戦できるのは若さの特権
私たちは現時点では規模も大きくないので、何人も学生を採用できる訳ではありません。それでも伝えたいのは、若い学生だからこそトライできるということです。日本経済を、低成長でリスク回避志向の強い企業から救えるのは、若い学生しかいないと思っています。せっかく学び、やる気もあるのに、リスク回避型の企業に入って右から左の仕事をしていても、生成AIの時代にそのノウハウはすぐに不要になってしまうかもしれません。その怖さは、皆さんも感じているのではないでしょうか。
GAFAMのように日本を変革し主導権を握れる会社をつくる、あるいは大企業に入ったとしても、そこを内側から変えていく気概を持つ。そうした挑戦できる日本にしていくことを、ぜひ考えてほしいです。スタートアップで事業を展開するのもひとつの道ですし、私たちのようにベンチャーキャピタル業を通じて事業変革に関わっていくという分野にも、目を向けてもらえたらうれしいです。
編集後記
今回、丸田さんのお話をお聞きして、大企業の中で感じていた違和感を独立という形で行動に移されたことがとても印象的でした。私自身、学生団体での活動を通じて「動かなければ何も変わらない」と感じる場面が多くあります。護送船団という言葉に象徴される時代背景から、いまの生成AI時代への変化のスピードを踏まえると、丸田さんが語る「挑戦できるかどうか」という視点は、私たち学生にも大きなヒントになると感じました。貴重なお話をありがとうございました。