インタビュー

経営を託された社長が選んだのは、チェーン展開をしない道

経営を託された社長が選んだのは、チェーン展開をしない道
PROFILE
株式会社U-MORE 代表取締役社長
山﨑 基史

会社は「ゼロから創る」のではなく「引き継いで育てる」ものだった

創業ではなく、承継という道を選んだ

私の会社は、100%の株主がいるオーナー企業です。いわば経営を託される形で社長に就任した立場で、代表取締役という役職をお預かりしていますが、自分でゼロから創業したわけではありません。

建て直しから始まった

いくつもの事業をやめましたし、いくつもの事業を始めました。まずは既存の事業を整理し直すところから入って、そこから「弊社は一体何をやっていくべきか」を見出しながら、いまの方向性が定まってきた、という感じです。整理整頓をして、また自分で積み重ねていく。改めて会社がどうあるべきかを考えながら、いまもやっています。

なぜ、飲食店だったのか

一回きりの営業がさびしかった

もともと飲食店は大好きでした。就職活動のときも、お店に関わる事業をやりたいという気持ちはあったのですが、最初は営業マンとして社会人生活が始まりました。

物を売る仕事というのは、たいていの商売がそうなのですが、一度契約してしまうと、それきりで終わってしまう商品が多いんですよね。ランニング型の商売で、常に新規、新規を追いかける仕事でした。経験としてはとても良かったのですが、人とこう触れ合って、自分を知ってもらって相手を知って、やっと物が売れて、それが相手の役に立ってほしいと考えながら売っていくと、それっきりで終わってしまうのが、本当にさびしかったんです。

お客さまの輪が広がるほど、利益がついてくる商売

そこで考えたのが飲食店でした。今日来たお客さまが明日も来てくれる。目の前のお客さまが満足して、違う友達を連れてきてくれる。その友達がまた家族を連れてきてくれる。そうやって倍々に広がっていく。いいお店を作れば、売上が上がるしかない。そんな面白い商売はないと思って、お店の仕事に足を踏み入れました。

その後、上場企業で店舗事業部へ社内転職をして、お店の社員として現場からスタートしています。

思いだけでは繁栄しない商売

大きなマイナスからのスタート

飲食店は、正直なところ利益を出しにくい商売です。お店を作るのにお金がかかり、物件の契約でもお金がかかる。人を雇い、仕入れをして、大きな先行投資からのスタートになります。よく一年で五〇%が閉業する、と言われますが、あながち大げさでもありません。売上がうまくいかず、資金繰りに行き詰まってやめるしかない、というケースも少なくないんです。

「年収より思い」という言葉がありますが、結局のところ、こんな美味しいものを食べてほしい、という思いだけでは、お店は繁盛しないんです。美味しいものを作れば売れる、というほど単純ではなく、むしろ資金繰りをどう回していくか、というほうがよほど難しい。それくらい奥が深い商売です。全国展開しているチェーンも、最初は一店舗から始まり、どこかで大きな資金を投じて広げているだけで、儲かっているように見えて、実は先行投資のほうが圧倒的に多い。しばらくは投資が先行し、何年後かにようやく回収する。そういう商売なんです。

それでも取り合いになる理由

ただ、外食は食事です。人は一日三回食事をして、年間で1,000回以上になります。それをスーパーで買うか、コンビニで買うか、自分で作るか、外に食べに行くか。みんなこの機会を取り合っているのですが、必ず発生する。だから安くて美味しいものを、みんな求め続けるんです。チェーン店が数として一番多くなるのも、この構造があるからです。

チェーン展開をしない、という選択

同じお客さまに何度も出会いたい

弊社は、店舗がほとんどバラバラです。大手さんのようにどこも同じ業態、ということはしていません。焼き肉屋があって、しゃぶしゃぶがあって、ステーキがあって、串焼きがあって、ホルモン焼きがあって、ハワイアンもある。全部業態が違います。

なぜかというと、お客さまが一生のうちに、弊社の店や商品に出会う機会を、できるだけ多く作りたいからです。チェーン店では、それができません。

沖縄を軸に広がる可能性

いまは沖縄にいます。本社も去年の秋に沖縄へ移転しました。沖縄では六店舗ほど、東京でも八店舗ほど展開していますが、沖縄の六店舗も全て業態が違います。お客さまの半分は観光の方で、三泊四日で来て、10食ほど食べていく。旅行中に同じ店に二回行くことは、まずありません。

でも、業態が違えば、三日間すべて弊社の店に来てもらえる可能性が出てきます。焼肉屋がおいしければ、隣でやっているハワイアンをすすめられますし、しゃぶしゃぶの店も那覇にありますよ、と案内できる。一人のお客さまが、弊社のどのお店に何回来てくれるか。ここを追いかけているので、チェーン店を作っていこうという発想自体があまりないんです。もちろん収益性の高い業態は増やしていきますが、基本的には、うちの会社名なんてどうでもよくて、行ったお店がぜんぶ弊社のお店でした、という状態になれば幸せだと思っています。

客席数だけが売上ではない

通販と催事という別の戦い方

直営店以外に、通信販売もやっていますし、催事イベント事業もやっています。飲食店は、その場所の近所の方、そこで働く方、旅行に来る方しか来店できません。商圏が決まっているんです。でも通販なら、全国一億人に届けられます。

たとえば、しゃぶしゃぶ店の美味しいお肉と特別な出汁、ポン酢をセットにしてお取り寄せグルメにした瞬間、一度来て満足してくれたお客さまが、東京でも大阪でも買ってくれる可能性が生まれます。プレゼントとして買ってくれるかもしれない。お店だけでは届けられない範囲に、商品を届けられるんです。

コロナ禍で会社を支えた事業

これはコロナ前から仕掛けていたことですが、コロナ禍で飲食は大変な状況になりました。ただ、もともと通信販売をやっていたので、そちらは大きく伸びました。みんな家で食べなければいけなかったからです。あれがなければ、店だけでは本当に潰れていたと思います。通販をやっていたおかげで、会社を持たせることができました。

これからの採用と、働き方

社内で転職すればいい

飲食業界は転職が多い業界です。今の仕事に飽きたら、社内に違う仕事があるのだから、そちらに移ればいい。一つの会社で五年頑張れば、給料は絶対に上がります。ただ、給料が上がる前にみんな転職してしまうので、業界全体で給料が上がりにくい構造になっているんです。気づいたら年を取ってしまう。もう少し頑張ればよかった、ということが本当に多いと思います。

弊社は店舗が沖縄、東京、横浜と点在しているため、本社機能もそこまで大きくする必要がなく、どちらかというと中途採用で成り立ってきました。会社の規模がもう少し大きくなれば、新卒採用も考えていくことになると思います。

高齢になっても働ける場所を

飲食の現場は立ち仕事が多く、最後は体力が問われます。特に料理人は、年齢を重ねるとどう潰しをきかせるかが課題になりますが、弊社には通販の部署も工場もあります。長年包丁を握ってきた経験を、レシピ開発や冷凍食品づくりに活かしてもらう。過去の経験をしっかり活かせる仕事を、また別の場所で用意できると考えています。

いまは若い世代の採用を業界全体で取り合っている状況で、条件のよいチェーン店に人が集まりがちです。弊社のような規模の会社は、そこで埋もれてしまうこともあります。だからこそ、70代までしっかり働ける環境を作りたいと思っていますし、「若くてかっこいいおっさんになろう」という空気の会社を作れたら、と思っています。若い世代にとっても、この会社にいたら若々しくいられる、と思ってもらえる会社にしていきたいです。

編集後記

経営を託される形で社長に就任し、素晴らしい経営哲学を持って会社を動かされている点に感銘を受けました。チェーン展開をしないという選択が、実は「一人のお客さまとの接点を最大化する」という戦略だったのだと知り、飲食業界の見え方が変わりました。年収より思い、という言葉の重みを、私も就職活動のなかで忘れないようにしたいと思います。貴重なお話をありがとうございました。