一橋大学在学中、ネットゲームの経済圏に賭けた
大学で就職活動はほとんどしませんでした。一橋大学の経済学部に在学していた頃、当時普及し始めていたネットゲームの世界に、これから大きな経済圏ができると信じていたんです。デジタルのお金がどんどん決済や送金に使われるようになるだろうと。AIやメタバースのような世界も発達していくだろうという確信もありました。
誰もやっていなかったから、学生でも起業できた
最初に手がけたのは、ネットゲームの中の通貨を両替する事業でした。世界中でまだ誰もやっていない領域だったので、学生の私でもいきなり飛び込むことができたんです。ただ、事業として世の中に認められるまでには、長い時間がかかりました。
早すぎる挑戦を繰り返した二社目
一社目を十何年と続けましたが、思っていたような世の中はなかなか来ませんでした。そんな折に出会ったのが、ゲームの中のポイントを使い、世界中の人が二つの陣営に分かれて戦うようなゲームです。これをきっかけに、現実世界とARのバーチャルな世界を融合させる基盤をつくりたいと考え、自分でリアルワールドゲームをつくれる仕組みを立ち上げました。
公開してすぐにポケモンGOが大ヒットして、注目を集めることになったんです。ただ、これもまた早すぎた挑戦でした。私の人生は、将来こうなるだろうと思ったら飛び込んでみて、早すぎて芽が出ないということをずっと繰り返してきました。それが三社目、今のJPYCにつながっています。
規制という壁と、たった一度のタイミング
暗号資産を決済に使おうとしても、大企業はまったく受け取ってくれませんでした。会計や税務の問題があったからです。一ポイント一円で価値が安定していないと、大企業や金融機関には使ってもらえない。そこで必要になったのが、ステーブルコインという発想でした。
日本円を一対一で戻せる制度がなかった
当時、日本円と一対一で交換できるようなステーブルコインは、法律上出せないと言われていました。金融庁が法律を変えない限り、やりたいことができない状態だったんです。だからこそ、法律が変わりそうなタイミングを見極めて仕掛けるしかないという結論に至りました。会社を2019年の11月につくり、その直後の2020年2月からコロナが始まっています。
リブラ事件が追い風になった
きっかけの一つは、Facebookがステーブルコイン的な通貨をつくろうとして、世界中の通貨当局が大騒ぎになった、いわゆるリブラ事件です。結局あちらは規定の壁で出せませんでしたが、この一件のおかげでステーブルコインの話題性が高まり、法律ができるかもしれない機運が生まれました。
もう一つは、当時の金融庁がプリペイド型であれば出してよいと言っていたことです。実際に出してみたら、金融庁も本当に出すとは思っていなかったようで驚かれました。この二つが重なったことで、私たちは法律をつくるきっかけをつくることができたんです。今でもこの一歩踏み込んだ発行のライセンスを持っているのは、弊社だけになります。
日本銀行にいちばん近い存在でありたい
私たちは、円と同じ価値を持つブロックチェーン上のお金を発行する発行体の金融機関です。日本銀行が紙のお札を発行し、財務省の造幣局が硬貨をつくっているように、私たちはデジタルのお金を発行しています。
本来は国がやるようなことかもしれませんが、国が動くには時間がかかりますし、あまり面白いことはできません。だからこそ、スタートアップがイノベーティブに挑戦する価値のある領域だと思っています。
世界と比べればまだ4桁小さい
今、発行額はだいたい60億円ほどで、そのうち35億円ほどが弊社に戻ってきて、世の中には25億円ほどが流通しています。まだまだ小さいと思っていて、世界のステーブルコインは今50兆円ほど流通しているので、そこと比べたら本当に桁が四つほど違います。あと3桁、4桁は伸ばしていかないと話にならないと思っています。
100万円の壁
日本は今、ステーブルコインを国家戦略として推進すると決めています。AIが本人確認も銀行口座もつくりにくいなかで、AIエージェントが使える決済手段としては、ステーブルコインが最も有力だからです。
ただ、課題もあります。一回の発行上限が100万円という制限があり、海外にはこうした規制がありません。何十兆円、何百兆円という規模で発行や流通を進めようとすると、100万円ずつでは大口の取引がなかなか入ってきません。これが今、普及の一つの大きなハードルになっています。
皆さんと一緒にイノベーションを起こしたい
私たち一人でどうにかなるビジネスではありません。皆さんに使っていただいて、皆さんのビジネス自体がステーブルコインで自動化されたり、AIと組み合わせて新しいビジネスが生まれたりする。そうした形で、一緒にイノベーションを起こしていきたいと思っています。
円を世界の基軸通貨に
究極的には、日本円を今のドルのように世界中へ流通させることを目指しています。そうすれば、円は基軸通貨として、これから百年後もしっかりその立ち位置を保っていけると思うんです。
逆にもしJPYCがなければ、オンチェーンやAIの舞台で円が使えなくなり、すべてドルに変えないとサービスが受けられない時代が来てしまうかもしれません。そうなれば、日本は非常に不利な立場になってしまいます。それくらい社会的に重要な役割を担っている会社だと思っています。
主力は10代の学生だった
今、会社は32人から33人ほどで、ほぼ正社員です。ただ、創業当時は主力がほぼ10代の学生でした。シリーズAで5億円を調達した2021年当時、バックオフィスの部長二人はどちらも大学生でしたし、初代のCTOは17歳、いちばん若い人は15歳で入社しています。
JPYCの卒業生は、起業して活躍している人も、いい会社に就職している人も多くて、それはとても嬉しいことです。シリーズBでは約50億円を調達したので、採用にはもう少し力を入れていきたいと思っていますが、何百人という規模にするつもりはありません。
自立分散に向く人物像
弊社にとって「自立分散」はとても重要な価値観です。ブロックチェーン業界は、基本的に自立分散的に動ける人でないと活躍しにくい業界ですし、スタートアップも自分でどんどん動いて、わからないことがあればAIに聞いて調べる力がある人が活躍しやすいと思っています。一歩を踏み出すスピードが早く、自立分散的に判断ができる人はとても向いていて、そう考えると起業家属性を持つ人はとても相性がいいと感じます。実際、JPYCの従業員から今のところ20人ほどが起業していて、その一部はまた弊社に戻ってきてくれています。
だまされる前提で、それでも突破する
最近は大学で教える機会も増えていて、今の学生や若い人にとってはとても有利な時代だと思っています。AIによって働き方ががらっと変わるので、今までの常識にとらわれるより、これからの時代がどうなるのかを自分で考えていくことが大切です。現場でイノベーションを起こすのは、学生や若い人たちが原動力になると確信しているので、挑戦を続けてほしいと思います。
その時、必ず現状維持を望む勢力、私が「イノベーション阻害勢力」と呼んでいる人たちが出てきます。新しいことをやれば、だまされるのは当たり前です。でも、そこに打ち勝たない限り、世の中は何も変わりません。だまされる前提で、それでも挑み続けてほしいですね。
JPYCは、日本円を実際につくっているという意味で、他に比較する会社がないくらいユニークな会社だと思っています。このインフラを一緒につくれる人がいたら、ぜひ声をかけてほしいです。
編集後記
今回のインタビューを通して、規制という高い壁に何度も挑み続けてきた岡部さんの姿勢がとても印象的でした。学生時代からタイミングを見極めて挑戦を重ね、早すぎた失敗すら次の事業の糧にしてきたお話は、まさに連続起業家ならではだと感じます。だまされる前提でも突破し続けるという言葉は、これから挑戦しようとする学生の背中を強く押してくれるものでした。日本円を世界の基軸通貨にするという壮大なビジョンに、これからも注目していきたいと思います。