インタビュー

AIを「幸せになるためのツール」に──知の継承から描く、AI時代の働き方

更新: 2026年9月17日
AIを「幸せになるためのツール」に──知の継承から描く、AI時代の働き方
PROFILE
AI Librarium 株式会社 代表取締役CEO
西川 智章

公式YouTube:@AILチャンネル

創業の背景と社名の由来

システムエンジニア・データサイエンティストとして積み上げたキャリア

現在、東北大学で特任の准教授をしておりまして、データとAIを専門としています。もともと大学卒業後に新卒で富士通に入社し、ERPやSFA・CRMなどのシステム構築をしていました。初めのキャリアとしてはシステムエンジニアで、そこからデータサイエンティストとして仕事をしていました。

その後のPwCコンサルティングでは、AI事業の立ち上げをしています。さらに、8年ほど前にAIのスタートアップを始めて、最終的には上場企業に売却するという形で、一つの区切りを迎えました。それから3年ほど経って、改めて立ち上げたのが今の会社です。

AIの民主化を掲げて

一社目を立ち上げたときから考えていたのが「AIの民主化」でした。当時、AIを使える企業は大企業に限られていました。専門知識を持つデータサイエンティストは人件費が高く、簡単には雇えません。資金が潤沢にある企業でなければ、投資もできなかったわけです。

AIはパワフルなツールであるにもかかわらず、その恩恵を受けられる会社が一部に限られてしまっていました。それを開放して、中小企業でもAIを使えるようにしたいというのが、創業の経緯です。

今の会社でも、その思いをそのまま引き継いでいますね。コンサルティング事業とエージェント開発事業の二つを柱に据えているのは、この原点があるからです。

社名に込めた思い

「AI Librarium(アイブリウム)」という社名にも、ちょっとしたストーリーがあります。

「Librarium」は、図書館の語源になった言葉なんですが、特に私がイメージしているのは、古代のアレクサンドリア図書館です。ここは当時、人類の資産継承の基盤でした。人間が蓄積してきた知見を本という形にして、次世代に伝える役割を担っていたわけです。

私はAIを使うことで、同じように専門家が持つ知識・知恵・経験を、次の世代へ引き継いでいけるのではないかと考えています。

例えば、ベテランの人材が退職するとき、それまで積み上げてきた技術やスキルが、そのまま失われてしまうことがありますよね。そういった日本の貴重な知識や知見・技術などを、次の世代に渡す基盤をつくりたいというのが、社名の由来です。

知識の基盤をつくることによって、社会全体の生産性を上げたいと考えています。

暗黙知を会社の資産に変える

スキルで暗黙知を形式知に

こういった会社の由来や、ビジョンを基盤に置いた事業をしていますが、基本的には人の知識を会社の資産に変えるということを考えています。そのための軸に置いているのが「Skill(スキル)」という概念です。

例えば、私はコンサルをやっているんですが、コンサルタントのスキル自体も継承できるものがあります。AIを使ってSkill化することで、ベテランのコンサルタントでなくても、お客さま自身で同じことができるようになるんです。

ただし、これは単純にベテランの人の音声をAIに取り込めば、同じようなことができるかといえば、そうではありません。そのため、認知工学に基づいて生成AIをフル活用して、暗黙知を形式知化し、かつ実行可能なものにするためのフレームワークの整備を進めています。

コンサルティングで得た知識を「Skill」化して提供

弊社は多岐にわたるコンサルティング支援をしていますが、現在はSIerとコンサルティング会社への支援を中心にしています。

具体的な事例でいえば、既存のサービスにAIを組み込んで新しいサービスに変えていくとか、人事・監査・AI開発などの分野における業務効率化です。さらに、間接業務のBPRを進めながら、AIを活用した業務変革のサポートや、営業提案力の向上支援などもしています。

また、AIを業務に取り入れていくと、危険な領域やリスク・セキュリティの課題も出てきますので、そうしたリスク評価やガイドラインの策定も手がけています。

サービスの特徴としては、コンサルティングをして終わりにしないところです。コンサルティングを進めながら、そこで得た暗黙知を「Skill」として形式化し、サービスとして提供する。ここまでを一貫してやっています。

「Skill」を通じてノウハウを世の中にインストールする

それから現在、「FDE(Forward Deployed Engineer)」(※注1)を育成するプログラム「FDE College」の提供もしています。研修には、私たちのノウハウを詰め込んだ「Skill」を組み込んでいて、通常ならプロが何カ月もかかるような作業を、非常に短い時間で進められるようにしています。

例えば、顧客の課題を分析するスキルや、分析をした上でAIをどの業務に入れていけばよいのかといった、AIのユースケース選定のようなことですね。スキルによって、すぐにできるようになっています。MVPの開発などもそうです。

分析から提案・AIのユースケース・PoCの計画・MVPの実装まで、ボタン一つでできるような形でスキル化しているわけです。こうしたノウハウを組み込んだ研修を実施しています。

つまりコンサルティングをやりながら、そのノウハウをスキル化し、それを研修の形で世の中にインストールしていくのが、私たちのビジネスです。

※注1:直訳すれば「前方に配備されたエンジニア」。開発拠点にとどまらず顧客の現場という最前線に身を置き、実際のデータと業務の制約のもとでソフトウェアを実装し、成果が出るまでのワークフローを担う職種を指す。

ビジョンに共感するメンバーとの縁

今の形で事業をつくれているのは、仲間の力がとても大きいと感じています。参加してくれているメンバーのなかには、前回の会社を立ち上げたときの創業メンバーもいますね。

さらにアドバイザーとして、心強い方々にジョインしていただいています。もともと某電機メーカーで技術開発のトップを務められていた方や、世界的な会計・コンサルティング会社で、グローバルの取締役を務められていた方など、ビジョンに共感してジョインしてくださっています。

それから、実は大学3年生の学生にも、弊社のコンサルタントと同じ給与水準でR&Dのリードを任せています。彼は今、論文を仕上げていて、東北大学が参加するシンポジウムで発表する予定です。

彼はもともとビジネスアクセラレータのプログラムでご縁があって、参加してもらいました。やる気さえあれば、社会人・学生問わず、優秀な方にどんどん活躍してもらえる環境を提供していきたいと考えていますので、興味を持っていただけたら、ぜひカジュアルにご連絡ください。

AIによる「変革者」を一人でも多く生み出す

そろばんではなく電卓を

AIはあくまでも道具です。いずれ多くの方が使えるようになる可能性はありますが、今はまだ、使いこなす人とそうでない人の間で、生産性の差が大きく開いてしまっているのが現状です。それは大学生の方でも、社会人でも同じで、使わない方は全く使わない。地方に行くほど、その傾向は強くなっているように感じます。

これは例えるなら、電卓を使わずにそろばんで戦っているようなものだと思っています。中国やアメリカでは、皆が電卓を持っている。一方で日本は、まだそろばんで戦っている方も多い。この差は、そのまま生産性の差になって表れています。

だからこそ、私たちの事業を通じて、ノウハウを凝縮した「Skill」を日本全国に届けていきたいと考えています。それぞれの現場で業務の変革を起こしてくれる人を、一人でも多く生み出すことが、日本のためになるはずだと信じています。

「幸せになるためのツール」としてAIをフル活用してほしい

もう一つ、私が実現したいのは働き方の変化です。AIによる仕事の効率化によって、これまで5日かかっていた仕事が3日で終わるのなら、3日だけ働けばいいと思っています。それでも給与は変わらない。あるいは生産性に合わせて、アップしてもいいでしょう。

その分、空いた時間は自分のために使えばいいんです。カフェを開きたい方は開けばいいし、副業でさらに稼ぎたい方は稼げばいい。家族との時間を充実させたい方は、家族との時間に使えばいい。

AIは人が幸せになるためのツールとして、もっとフル活用されるべきだと思っていますし、AIの民主化のさらに一歩先にある世界を、私はそんな風にイメージしています。

学生に伝えたいこと

好奇心を持って道具を使い倒す

新しい道具を使い倒すこと、使いこなすことは、とても大事だと思っています。多くの方は、チャットで質問したり、相談したりする使い方が中心だと思うのですが、実はAIにはもっといろいろな使い方があります。まずは好奇心を持って触ってみることが、何よりの一歩になるはずです。

AIを「先生」として使ってみるのがおすすめ

例えば、恋愛の経験があまりない方であれば、チャットAIに「どんなデートプランを立てるといいですか」と4択問題を出してもらい、それを解きながら知識を積み上げるといった使い方もできます。

渋谷や原宿など、実際のお店の情報もAIが調べてくれますので、まるでTOEICの問題を解くように、一つずつレベルアップしていけます。私自身も、経営や新しいAI開発の分野について、同じようにAIに問題を出してもらい、先生役として活用していますね。

また、筋トレを始めたばかりの方であれば、「筋肉によい食事をするにはどうしたらいいか」という4択問題を毎日出してもらい、実際に食べたものをアップロードして評価してもらう、という使い方もよいでしょう。続けていけば、まるでライザップのようなトレーニングになっていくはずです。

AIで自分を一段アップデートする

さらに面白いのは、AIを活用して自分自身を変えていくプロセスそのものが、実はマニュアル化できるという点です。「こう動くとよい食事アドバイスができる」というノウハウがどんどん形になっていきますので、それをアプリとして販売するというところまで、考えてみるのも楽しいと思いますね。

ダイエットしながらノウハウを形式知に変えて、それを世の中に届けていく。これもまさに、暗黙知の形式化の一つの形だと思っています。

さらに、YouTubeの動画をAIに学習させて、その内容をもとに教えてもらったり、問題を出してもらったりすることもできます。そんなふうに使いこなせるようになれば、AIを本当の意味で自分の武器にできるはずです。

編集後記

今回のインタビューを通じて、AIを「使いこなす人」と「そうでない人」の差が、想像以上に大きな課題になっていることを実感しました。西川社長の「そろばんと電卓」の例えは、AIを使うかどうかで生産性に大きな差が生まれることを、とても分かりやすく表していたと思います。

また、恋愛や筋トレなど、身近なテーマでAIを「先生」として使うアイデアは、学生の私自身もすぐに試してみたいと感じました。貴重なお話をありがとうございました。