インタビュー

100年続く「ありがとう」の精神と、誇りを持って働ける会社をつくること

更新: 2026年5月31日
PROFILE
マツヤ産業株式会社 代表取締役社長
玉西 陽二

ダメ学生から始まった、経営への原点

中学受験がピークだった

正直に言うと、全然勉強してなかったんですよ。中学から大学まで同志社のエスカレーター式で進んで、中学受験がピークで、そこからはあんまり勉強せずに過ごしてきました。部活だったりサークル活動に打ち込んで、大学1回生・2回生のころはほとんど授業に行かず、バイトとサークルに費やしていて。単位を落としまくって、4年で卒業するのが本当にやばかったんですが、3・4回生でなんとか挽回して卒業した、そんなダメ学生でしたね。

サラリーマン人生は嫌だった

社長になりたいかどうかはわからなかったけど、サラリーマンでずっと終わるのは嫌だなっていう気持ちはありました。だから就職先を選ぶときも、経営感覚に近いところで働きたいという思いがあって。銀行やコンサルティングファームに落ちたというのもあるんですが(笑)、最終的に大塚商会に入ることにしました。

当時はITバブルの時代で、ITコンサルという名目でお客様の業務改善を提案する仕事が立ち上がっていたんです。それを通じて社長や経営幹部の方々と話せるんじゃないかと思って、選んだんですよね。あとはもう一つ、今でいうブラック企業っていう感じで、ゴリゴリに厳しかった。でも若いうちしか体験できない苦労があると思っていたので、それも良いかなと思って選びました。

祖父の葬儀が転機になった

大塚商会には3年から5年でやめようと思っていたんですが、気がついたら10年いました。私は次男で、長男がすでに家の会社に入っていたので、自分が戻るつもりはまったくなかったんです。ところが、ちょうど30歳前のキャリアを考えていたタイミングに、先代の社長だった祖父が亡くなりまして。その葬儀にとても多くの方が参列してくださいました。 

その時に、やっぱり家の会社に貢献したいという気持ちが生まれて、戻ってきたんです。自分が社長をするつもりでもなく、一員として貢献したいという思いだけでした。

 

「ありがとう」を事業で表現するということ

三方よしで持続させる

弊社のホームページにも書いてありますが、毎朝全員で「ありがとうございます。マツヤ産業です」と唱和して1日を始めるんです。ただ言葉として言うだけならボランティアでも何でもできる。でも事業活動の中でありがとうを表現するということは、やっぱり三方よしの精神が大切だと思っていて。自分たちもそれなりに利益を出して、それがお客様の利益にもなって、社会にも還元できる。その状態があってはじめて、持続可能な社会貢献になり得ると思うんですよね。ボランティアはその人の思いだけで成り立っているので、その人がいなくなったら終わってしまいますから。

製造立国の誇りを大切に

弊社は製造・加工事業とソリューション(商社)事業の両方をほぼ半々でやっているんですが、これは業界でもかなり珍しいんです。どちらかを1割2割やっているという会社はあっても、ほぼ半々でやっているところは少ない。メーカーとして知る「肌感覚」と、商社としての「目利き」を両輪で持てるのが、弊社だからこそ提供できる価値だと思っています。

そして、ものづくりって日本の製造立国としての誇りだと思っているんです。日本は資源がないから、製造業で立国してきた。そこに関与できることが魅力だし、そこに貢献することが直接的に日本の発展に繋がると思って大事にしています。

 

社員が誇りに思える会社をつくること

こける練習を見守る優しさ

社員と接するうえで大事にしていることに、「2種類」の優しさがあると思ってます。怪我しないように助ける優しさと、多少怪我をしても自分の足で立てるようになることを見守る優しさ。私は後者を選びたいんですよね。

自転車に乗るのと同じで、転けるとはわかっていても、いつかこけないためにあえてこける練習を見守る。そうすると嫌われることもあるんです。「痛いのに助けてくれない」って。でもいつかわかってくれたらいいなと思ってます。最初はそんなこと意識せず、ついつい守ってしまっていたんですけどね(苦笑)最近は思考を変えていきたいと感じています。

中小企業だからこそ「誇り」にこだわる

私たちみたいな中小企業はブランド力もないですし、どうやったら社員がこの仕事を誇りに思えるかを、ずっと考えています。誇りに思うためには、世の中にちゃんと認められないといけない。今年の1月に中小企業庁がやっている「100億宣言」という取り組みに参加し宣言をしたんですが、数字的な成長を目指しているのは、そういった背景もあります。

依存型ではなく自立した人と働きたい

一緒に働きたい人について、まずはものづくりへのリスペクトがあることが一番です。リスペクトがないと仕事を誇りに思えないし、その方が、製品もお客様も好きになるスピードが早いですから。もう一つは、自立心がある人がいいですね。ある程度自立できたら会社をやめるくらいのマインドでも全然構わない。当社で働き続けたいと思ってもらえるように考えるのは社長である私の努力なので。指示してください、守ってくださいという依存型よりも、自分で力をつけて自分の足で立っていこうという人の方が一緒に働きたいですね。

 

次の100年へ、AIと物づくり

AIにも積極的に向き合う

少し前まではロボットで製造の仕事がなくなると言われていましたよね。今は同じようにAIがその話題になっています。でも、ロボットが入ってきてもものづくりの仕事がなくなったわけじゃないし、うまく融合が始まっているんじゃないかと思っています。AIも同じで、抗うんじゃなくて積極的に活用していきたいと思っています。今も社内で試しながら進めています。

弊社では、社員には「ナレフルチャット」というツールを使ってもらっていて、チャット GPT やGemini、Claudeといったさまざまな AI を状況に応じて選んで使えるようにしていますし、思考整理や資料作りに活かしてもらっています。私自身はNotebookLMやもう少し他のツールも試していて、まず自分の仕事を効率化して、いいと感じたらみんなに展開しようという形でやっています。

人の価値が出るのはここから

ものづくりにおいて、ロボットやAIは導入されはじめていますけど、逆に人の価値がこれから高まるんじゃないかと思っています。AI が普及すればするほど、人間の技術の価値は高まるし、だからこそ人がいる意味があるはずです。

 

編集後記

今回の取材を通じて印象的だったのは、玉西社長の言葉の一つひとつに「誇り」という言葉が何度も出てきたことです。日本の製造業を誇ってほしい、社員に誇りを持って働いてほしいという思いが、100年以上続く会社の背景にしっかりと根付いているのだと感じました。「こける練習を見守る優しさ」という表現はとくに刺さりました。成長を求める側だけでなく、成長させる側もこれだけの覚悟を持っているのだと。就活で「安定」と「成長」を天秤にかけがちな自分にとって、両方を本気で追求しようとしている会社の存在はとても新鮮でした。物づくりの現場をもっと自分の目で見てみたいと、素直に思える取材でした。