大きな会社という理由だけで選んだ道
NTTに入った理由は単純だった
私は高校を卒業してNTTに入社しました。正直なところ、当時はNTTという会社に思い入れがあったわけではなく、大きな会社だからという理由が大きかったですね。起業したいという思いも、その頃はありませんでした。
30歳と40歳、二度の転機
起業を意識しはじめたのは30歳の頃です。サラリーマンを続けるより、自分で事業をやったほうが思いを自由に反映できるだろうし、頑張った分だけ対価を得られるだろうと考えるようになりました。ただ、実際に動き出したのは40歳のときです。通信や電力といった分野を経験したあと、人事異動でご縁をいただいた会社で医療とITをかけあわせる領域に携わり、3年ほど経験を積んでから起業しました。
「あと20年」という覚悟から生まれた会社
父の死で考えたこと
起業を決めた背景には、父の存在があります。私の父は69歳で他界しました。自分がその年齢に近づいたとき、あと20年をどう生きるかということをすごく考えたんです。サラリーマンを続ければ定年もありますし、やりたいことだけができるわけではありません。もちろん経営者になったからといって自分の思いどおりにすべてが進むわけではないのですが、それでも会社の意思決定や方向性を自分で位置づけられる。残りの20年で世の中の役に立つ仕事をしたい、自分に何が貢献できるのかを考えて起業したという部分は大きいですね。
医療データからはじまった事業
もともとは医療データという分野で仕事をしていた会社があり、そのデータを使って何かサービスをつくりたいという思いがありました。2016年に創業し、2017年年ごろにかけて事業の形を模索していたのですが、2019年ごろ、以前からお付き合いのあった病院さんから「PHSを使い続けていてなかなか環境が進んでいない」というご相談をいただいたんです。そこから一緒に変えていこうという話になり、今の病院向けDXサービスが生まれました。
スマートフォン一台で変わる病院の現場
セキュアな環境をつくるプラットフォーム
私たちは、セキュアに電子カルテや医療情報にアクセスできる環境をつくるサービスを提供しています。プラットフォームビジネスなので、いろいろなサービスが乗っかっていけるような土台をつくっている会社という感じですね。医療従事者の方は、スマートフォンを通じてサービスにアクセスできます。
現場で起きている変化
今は100の病院、7万人ほどの医療従事者の方にご利用いただいています。情報共有がしっかりできることで、言った言わないの行き違いや伝達ミスがなくなるという医療安全の面での効果があります。オンコールで待機している先生が、病院の外から電子カルテの情報にアクセスできるようになったことで、駆けつける必要のないケースは家から対応できるようにもなりました。また、入院患者さんの体温や血中酸素濃度といったバイタルデータも、スマートフォンを通じて電子カルテに自動で記録されるので、記入ミスがなくなるといったメリットもあります。
日本の病院の7割は赤字と言われていて、なかなかIT投資に踏み切りにくい業界でもあります。だからこそ、こうしたサービスの価値を実感していただけるよう取り組んでいます。
大切にしているのは「止めない」という意識
医療インフラを支える責任
医療業界向けにサービスを提供しているので、システムを止めないということはすごく意識しています。病院は24時間365日動いていますから、私たちのサービスがシステムダウンすると病院さんに大きなご迷惑をかけてしまいます。可用率を高め、ダウンタイムをいかに短くするか。ネットワークやシステムを常に監視して、異常が出たら止まる前に手を打つ。そうした工夫を積み重ねています。
「圧倒的3要素」という指針
社内では「圧倒的3要素」というプロジェクトを進めていて、略して「アツプロ」と呼んでいます。挑戦する勇気、結果を出す、成長を楽しむという三つを掲げているのですが、これは2024年の12月から翌年の1月にかけての2か月ほどでできあがったもので、まだ歴史の浅い取り組みです。2025年1月以降に入社した方は、面接の段階からこの言葉に触れて入ってきてくれています。一方で長く活躍してくれているメンバーは、あとからこの言葉が出てきているので、自分の価値観や日頃の言動とどこが重なるのかを自分自身で見つけていく。社内で体現していると言われるメンバーを集め、人事と対話をしながら進めている、まだ試行錯誤中のプロジェクトです。
目指しているのは、全ての人が幸せになる医療
パーパスとビジョン
シンプルに言うと、全ての人々を幸せにするというのが私たちのパーパスです。そのために掲げているビジョンが、医療のICTプラットフォームをつくり、医療をデジタル化するということ。地域の中で病院と診療所をつないだり、病院と患者さんをつないだりするプラットフォームを早くつくり、医療を受ける方が最も恩恵を受けられる世界をつくっていきたいと思っています。
win-winの仕組みづくりへ
そのために重要なのは、病院さんやクリニックさんにとってwin-winになる仕組みを提供することです。それがなければ、なかなかネットワークではつながっていただけません。医療情報が流通するエコシステムをどうつくっていくかが、今後の展開として非常に大切だと思っています。そして、それを実現するのは結局、圧倒的3要素が揃った一人ひとりのプロフェッショナルです。会社の成長は、そこについてくるものだと考えています。
若い世代に伝えたいこと
死ぬほど仕事に没頭した20代
私自身の考え方ですが、20代は死ぬほど仕事に集中して没頭する時期であってほしいと思っています。以前、会社の10周年のときにも話したのですが、スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式でスピーチした話がまさにそうだなと感じています。49歳で起業する前にあった、いろいろな仕事や出会いというのは、過去の点と点がつながって線になるものです。頑張っていれば、いろいろな仕事をした仲間が助けてくれるし、知恵も貸してくれる。自分ひとりでは成し遂げられないことを、いろいろな人が手助けしてくれるようになります。学生時代は思い切り遊んで、20代は仕事に熱中してほしいです。
本当の情報はSNSの外にある
SNSは情報を早く取るという意味ではとても便利で、私自身もいろいろなSNSを活用してキャッチアップしています。ただ、本当の情報や本当に価値のある話というのは、SNSではなく人と人との間でしか出てきません。せっかく同じ時間を使うのであれば、その時間をすべて学びに使うつもりでいるかどうかで、過ごし方はずいぶん変わってきます。常に何かを吸収する、学びを得るつもりで、リアルな場を大切にしてもらいたいなと思います。
医療を支える仕組みを変える仕事
日本の税収は一般会計でおよそ75兆円と言われていて、それに国債の発行を加えて予算が組まれています。そのなかで医療費はおよそ50兆円。すべてが国庫から出ているわけではありませんが、およそ3分の1は国庫から、3分の1は社会保険料から、という構造です。国庫からの負担だけで見ても、税収の3分の1弱、20兆円弱が使われている計算になります。介護保険や医療保険のおかげで、どこの病院にもクリニックにも、3割負担、年齢によっては1割負担でかかれるという、とても良いシステムがあります。ただ、これだけの費用がかかっている以上、このままずっと続けられる仕組みではありません。子どもが生まれたり年を重ねたりすると、一番弱い立場の方こそフリーアクセスで医療を受けられることが難しくなってしまいます。この仕組みを守っていくためには、医療従事者だけでなく、ITやDXの力で医療の仕組みそのものを変えていく必要があります。国のいいところをどう伸ばしていけるかを考えてくれる若い方に、ぜひこの分野を見てもらえたら嬉しいですね。
こんな人と一緒に働きたい
元気とガッツがいちばんの武器
新卒採用はまだこれからで、これからどう採用していくかを考えているところですが、元気でガッツのある若者にぜひ来てほしいと思っています。諦めずにやり抜くことはもちろん、泥臭く圧倒的な活動量をこなしていく姿勢を大事にしてほしいですね。私自身、昭和の生まれで、家に帰らずに働くような時代を過ごしてきました。良し悪しは別として、頑張っていく中でいろいろな人とつながり、その経験や基礎が35歳ごろまでに積み上がると、そこから先、価値の高い仕事につながっていくと感じています。
体力があることもすごく重要だと思っています。堀江さんが自分の特技について、5年に1回くらい風邪で寝込むことはあっても、それ以外はいつも元気で夜中まで飲んでいても翌日きちんと働けることだと話していたのを聞いて、なるほどと感じました。三木谷さんや孫さんも、休みなく働き続けているのではないかと思います。私自身も、サラリーマン時代から頑張るほうでしたが、起業してからはさらに拍車がかかりました。仕事は始めると夢中になっていくものなんですよね。
インターンは常時募集中
インターンは常時募集していて、今も3名ほどの学生さんに来てもらっています。サポートチームや採用の事務など幅広いポジションで受け入れていますし、長期でお時間が取れる方には、社長である私に同行してもらうこともできます。理系、文系は問いません。むしろ営業のような現場を経験することは、文系の学生さんにこそおすすめかもしれません。AIに代替されにくい仕事として、人と人が向き合う営業の仕事はこの先も残っていくと思っています。全国どこでも、興味のある方はぜひ飛び込んできてほしいですね。
編集後記
今回お話をうかがって、いちばん印象に残ったのは「あと20年をどう生きるか」という問いから起業に踏み切ったというお話でした。自分の年齢からの逆算で人生を考えるという視点は、20代前半の私にはまだ実感を持ちきれていない部分もありましたが、20代を死ぬほど仕事に没頭してほしいという言葉には、素直に背筋が伸びる思いがしました。医療費や介護保険の話も、当たり前のように享受している仕組みの裏側にある課題を知る、良いきっかけになりました。ガッツと体力の大切さを語る佐藤さんの言葉の端々から伝わってくる熱量に、取材をしながら何度も圧倒されました。