インタビュー

洋画の灯を消したくない――ミモザフィルムズ代表・村田敦子が貫く、選ぶ仕事への矜持

洋画の灯を消したくない――ミモザフィルムズ代表・村田敦子が貫く、選ぶ仕事への矜持
PROFILE
株式会社ミモザフィルムズ 代表者
村田 敦子

部活動に明け暮れた学生時代

映画は年に数回見る程度だった

大学時代はスポーツ系のクラブに所属していて、正直映画ファンというわけではありませんでした。1年間に話題になっているハリウッド映画の大作を数本観る程度でした。クラブ活動とアルバイトと友人たちと遊ぶことに明け暮れていて、勉強はほとんどしてませんでした。当然成績も悪かったので、就職のときはずいぶん苦労しました。なんとか新卒採用を始めたばかりの印刷系の広告代理店に就職できました。

ロサンゼルスでの1年

映画を選ぶ人がいることに気づいた

入社して1年、なんとなくこのままではダメだと思って、知人を頼ってロサンゼルスへ行くことにしました。留学ではなく遊学です。午前中は語学学校に通い、午後は知人の会社でアルバイトをしながら、暇なときはひたすら映画を観てました。ロサンゼルスは貧乏学生には娯楽は映画位しかない街でした。

いろいろな映画を観るうちに、アメリカで年間何千本と公開される映画のうち、日本に紹介されるのはほんの一部だと気づきました。この一部を誰がどうやって選んでいるのだろうと、そこに興味を持ちました。映画配給という業種があることにここで気づきました。ロサンゼルスに1年滞在した後帰国して、映画配給会社に就職したいと軽い気持ちで動きはじめました。

ギャガから始まった映画人生

1990年、宣伝の仕事からスタート

とはいえ、1年間アメリカで遊学してきた女性をすんなり採ってくれる会社はなかなかなくて、テレビ局でアルバイトをした後に映像系の株式会社東北新社という会社に潜り込みました。当時の東北新社はまだ映画配給というビジネスはやっていなくて、ビデオが台頭してきた時代でした。いずれ映画配給会社に転職したいと思いながら、履歴書を出したり面接を受けたりするなか入社したのが、株式会社ギャガ・コミュニケーションズ(現・ギャガ株式会社)という、できて3、4年の新興の映画配給会社でした。1990年1月、私の映画人生はここから始まったと言っていいと思います。配属されたのは映画配事業部宣伝部でした。

「洋画の配給がしたい」を貫いた転職

3、4社を渡り歩いた

ギャガには7年半在籍しました。その後数社渡り歩きました。私は忍耐力がないので、行きたくない部署への異動を命じられたら「じゃあ辞めます」と言ってしまうタイプです。洋画の買い付けや配給をやりたいという目標がはっきりしていたので、それができる会社を求めて前向きに転職を繰り返しました。今でこそ珍しくないのでしょうが、私の時代はずっと同じ会社に勤めあげるのが多数派でした。私はやりたい仕事ができる会社に移っていけたので、大きいところから小さいところまでいろいろな会社でキャリアを積むことができて良かったと思っています。

2011年、震災の年に起業

フリーランスを経て会社を作った

最後に在籍した出版社系の大手の会社で、映画配給はやらないという方針になってしまったため、辞めて独立しました。最初の2年間はフリーランスとして映画の配給や宣伝をしていたのですが、取引先の方から「自分の会社を作ったらいかがですか?」と助言をもらって、2011年12月に株式会社ミモザフィルムズを設立しました。震災があった年です。今年の12月でちょうど丸15年になります。最初はひとりで自宅で始めて、少しずつ社員を増やしていきました。今は神楽坂にオフィスを構えて私以外に4人の社員がいます。

フィルムマーケットが商売の原点

カンヌやベルリンで買い付ける

いろいろな映画会社で映画買い付けの経験をしていたので、販路の開拓自体はそれほど大変ではありませんでした。基本的にはカンヌ国際映画祭やベルリン国際映画祭、トロント国際映画祭などに行って、映画祭と併設のフィルムマーケットという新作映画の売買の場に足を運びます。朝から晩まで映画を見て、気に入った作品があればそれを売っている会社のブースに行って交渉する。この流れは独立する前からやっていたことなので、キャリアで積んだ人脈がある意味では助かりました。ただ、最初はひとりでやっている小さな会社だったので資金力はなく、信用してもらえるまでには苦労もありました。

「自己承認欲求」がビジネスの原動力

選んだ映画は自分にしか出せない

15年間経営をしてきて大切にしている考えは、「映画は総合芸術」という思いです。自分が素晴らしいと思った作品を日本の方たちに届けたい。おこがましい言い方ですが、これはある種の自己承認欲求なんじゃないかと思っています。私が選んだものを見てほしい、というのが究極のところですね。映画の権利は国ごとに決まっているので、うちがあるイタリア映画を買ったら、契約期間中は日本でその映画を配給できる会社は私たちだけです。だからこそ、自分が選んだ映画を観客に届けられるわけです。

もちろんビジネスなので、儲かったらなおいいですよね。社員全員が幸せに生活していくためには映画が当たらないといけません。映画館での興行収入は半分を映画館が取り、残りの半分が私たちに入ってきます。それ以外に配信やテレビの権利を売って収入を得ていく仕組みです。大ヒットすればいいのですが、なかなかそうもいきません。購入金額と宣伝費を回収できないまま終わる映画もありますし、それが何本か続くと会社は倒産してしまいます。夢もありますが博打的なところもある、厳しいビジネスだと思います。

いかに「面白そう」に見せるか

予告編とポスターに注力する

宣伝で意識しているのは、映画が持っている一番面白いところをいかに面白そうに肉付けするかということです。観てみたら意外とつまらない映画ってありますよね(笑)。だからこそ、観る前に面白そうだと思わせることが大事なんです。ポスターや予告編で、いかに多くの人に興味を持ってもらえるかをひたすら追求します。いかに巧みに引きつけるか、ということでもありますね。

予告編は、フランス映画ならフランスのオリジナル版がまずあって、それを日本用にローカライズするのが私たちの仕事です。出来が良ければ字幕を入れるだけで済ませることもありますが、たいていは日本向けに一から作ります。有名なタレントにナレーションをお願いしたり、音楽を変えたりすることもあります。予告編を専門に作る会社に、宣伝コンセプトとターゲットを伝えてラフを作ってもらい、そこから修正を重ねていくという流れです。

ポスターも同じように、映画専門のデザイナーさんに素材を渡して作ってもらいます。ディズニー(Disney)のようなアメリカのメジャー系は、本国の指示どおりに出さなければいけないですが、私たちのような独立系の会社は、監督やプロデューサーの承認は必要ですが、日本用にタイトルもポスターも決めることが多いです。

たとえば2012年、会社を作ってすぐに買い付けたフランス映画『母の身終い(原題:Quelques heures de printemps)』という作品があります。原題は「春の数時間」という意味だったのですが、そのままではわかりにくいですよね。病気になって余命が短いと悟った老婦人が、自分が死ぬ日は自分で決めたいと考え、スイスの尊厳死の病院に向かう物語です。一緒に住む一人息子はそれを止めたいと思うのですが、母親の意思は固く、最終的にはスイスの病院で亡くなるという内容でした。ちょうど終活が流行りはじめた時期だったこともあり、このタイトルにしました。今は亡き樹木希林さんがこの映画を応援してくださいました。

洋画の灯を消したくない

若い世代が洋画を見なくなっている

今、若い人たちは洋画をあまり観なくなっています。日本大学芸術学部映画学科や目白大学メディア学部で講義をしたことがあるのですが、映画を学んでいる学生さんですら邦画がほとんどで、洋画をあまり観てないんですよね。うちのような小さな配給会社が買わないと、アメリカ映画以外の外国のいろいろな映画は日本で見られなくなる日が来ると思っています。上映してくれる映画館もどんどん減っていますし。

映画を見ることで知らない世界を知ることができる。映像、音楽、文化といったあらゆる芸術が一本にまとまっている総合芸術なので、1時間半から2時間見るだけで他の国のことを知ることができる、非常に価値のあるものだと信じています。

これからのビジョン

ミニシアターと海外との合作

洋画を普及させるためにも、外国映画を専門にかかげる映画館を作るのが夢です。私が買うような映画をかけてくれる映画館がどんどんなくなっていくのであれば、自分で作るしかない。ただ映画館を作るにはかなりの資金が必要で、都内であればなおさらです。かつてアート系単館、いわゆるミニシアターと呼ばれていたような場所を、ぜひ作りたいと思っています。最近は同じ志を持つ人が小さな映画館を作りはじめている動きもあります。

もうひとつの夢は、海外の映画製作会社と一緒に映画を作ることです。邦画か洋画かということには拘りません。今年のカンヌ映画祭には日本の監督の映画が3本出品されていたのですが、いずれも外国の資本が入っていました。とくにフランスは日本の監督を高く評価していて、制作費を出してくれます。監督が日本の方であってもどこの国の方であってもいいので、こうした映画を作るプロデューサーの立場も、長い目で見たらやってみたいと思っています。

おすすめの2本

学生のうちに見てほしい作品

学生のうちに見ておくといい映画を挙げるなら、フランスのジャン=リュック・ゴダール(Jean-Luc Godard)監督や、イタリアのフェデリコ・フェリーニ(Federico Fellini)監督、スウェーデンのイングマール・ベルイマン(Ingmar Bergman)監督のような過去のヨーロッパの巨匠監督の名作の数々を観ていただきたいですね。

うちの作品でおすすめは7月17日に公開した『新凱旋門物語(原題:L’inconnu de la grande Arche)』ですね。フランスの人気俳優たちが多く出演していて、みなさんが知っている凱旋門とは違う新しい凱旋門を作る構想に関わった人たちの話です。「プロジェクトX」のようなお仕事映画としても面白く見られます。

もう1本は、9月18日に公開する『リサ・ラーソンがいた時間(原題:Farmors leriga händer – En film om Lisa Larson)』です。2年前に亡くなったスウェーデンの陶芸作家、リサ・ラーソン(Lisa Larson)のドキュメンタリーで、彼女の孫娘が作った作品です。タレントのLiLiCoさんが字幕を担当しています。リサ・ラーソンは20代から60代まで幅広い女性に人気のある陶芸家なので、話題になると思います。ぜひこの2本をあわせてチェックしてみてください。

学生へのメッセージ

視野を広げるために海外に行こう

学生のみなさんには、もっと海外に出かけて、いろいろな国の文化や人たちと交流を持ってほしいと思っています。日本という小さい島国のなかの、狭い範囲で活動していても世界は広がりません。若いからこそできる世界一周旅行のようなことに挑戦してほしいですね。海外に行くと、いろいろな意味で目が開かれます。海外と関係した仕事をするかどうかにかかわらず、人間としての幅を広げるためにも、外の世界を知ることは非常に大事だと思っています。

編集後記

今回、村田さんのお話をうかがって、いちばん印象に残ったのは「自己承認欲求」ということばでした。ビジネスというと、つい戦略や数字の話ばかりを想像してしまいますが、根っこにあるのは「自分がいいと思ったものを届けたい」という、とてもシンプルな思いなんですよね。学生起業を志すなかで、つい効率や再現性ばかりを追いかけてしまいがちですが、博打のような不安定さも引き受けながら、15年間ぶれずに映画を選び続けてきた姿勢に、大きな学びをいただきました。私自身も、もっと海外に出て視野を広げていきたいと思います。