先生になるために、社会を知ることにした
塾講師として向き合った子どもたちの進路
大学は横浜国立大学に進みました。もともと教師になるつもりだったので、教職の授業も取りながら、1年生から4年生まで塾講師のアルバイトをしていました。高校受験の進路相談をバイトリーダーっぽくやらせてもらっていたんですよね。子どもたちの将来に真剣に向き合って、「この子はこういうことがやりたいから、こういう学校の選び方はどうか」みたいなことを大学生ながら一緒に考えていく中で、あることに気づいたんです。
「学校しか知らない先生」への疑問
自分自身が、学校以外の社会を知らないな、って。子どもたちの多くは学校の外の社会に出ていくのに、その社会をあまり知らないまま子どもたちの大事な意思決定に付き合っていいのかな、と思ったんです。理想の教師になるために、もう少し社会をリアルに知っておく必要があるんじゃないかって。4年生のタイミングで急ハンドルを切って、出遅れながらも就活を始めました。
人生の大事な意思決定に寄り添いたい、という軸で考えると人材系の仕事が浮かんできて、それでリクルートに入社しました。
「家族」という、まだ誰も解いていなかった課題
エールでの気づき
リクルートの後は、エールという会社で事業企画を担当しました。エールは、上司と部下の間に社外の第三者が入ることで関係性が変わったり、組織のパフォーマンスが上がったりする、1on1支援のような事業をやっている会社です。第三者が利害関係の強い間に入ることで、分かり合えたり、一人ひとりが活かされたりしていく。そういうパワフルな効果を実感していました。
母子家庭で育ったから、気づいたこと
そこで働くうちに、これを「家族」でやりたい、という気持ちがだんだん強くなりました。理由は自分自身の経験です。私は母子家庭で育って、母親が最も大切な人なんですけど、なかなか素直な気持ちを伝えられなかったり、大事な話を聞くタイミングをつかみきれなかったりして。大事な話題ほど、家族で話し合うのが難しいよなって、ずっと感じていたんです。
エールのように第三者が入る仕組みって、家族を対象に落とし込めるな、と気づいた時に、「これは自分がやろう」と思いました。それが2024年5月、オヤシル設立の経緯です。
親の人生全体を、子の代わりに聴く
オヤシルインタビューとは
サービスをひと言で表すなら、家族の対話支援です。具体的には、弊社の「インタビュアー」と呼ばれる担当者が、親御さんの人生全体をじっくり聴いていきます。これまでの大切な出来事から、今の趣味や気持ち、将来やりたいこと、介護・医療・相続といった「もしもの時」の意向まで。それを記事や映像の形にして、ご家族に届けるというサービスです。
「話し合いなさい」だけでは、誰も動けない
オヤシルを知っていただく手段として、生命保険会社や医療・介護の事業所の方々と連携して、セミナーをやらせていただいています。もしもの時の備えって、これまでは「家族で話しておいてくださいね」という号令で終わってしまっていたんですよね。でも、実際には、家族だけで向き合うのは難しい。そこに具体的な支援として私たちが入るというのが、こうした連携先との親和性につながっています。
ニーズが顕在化していないサービスなので、まずリアルな場でご自身のこととして考えてもらう機会をつくっていく、というのが大切なフローになっています。
ミッションに込めた言葉
「私の命を生きる」という覚悟
弊社のビジョンは「私たちの人生を愛し、私の人生を生ききる」という言葉にしています。「私たちの人生を愛し」というのは、自分の命って自分だけのものじゃないな、という感覚からきていて。「私の人生を生ききる」は、その自覚を持ちながら、自分自身の人生を主体的に歩むということ。そういう生き方をしている人が増えていく社会を目指したいんです。
「聞けていてよかった」を当たり前にしたい
ミッションとして掲げているのは「後悔のない親子関係が続いていく社会」です。親がどう生きてきて、何を伝えたいのか。そのバトンが家族の中でちゃんと受け渡されるような世界をつくりたい。「聞いておけばよかった」じゃなく、「聞けていてよかった」という後悔のない関係が続いていく、それがビジョンに掲げる世界にもつながっていく。そのための活動をしています。
学生へのメッセージ
自分のルーツを知ることが自己分析になる
大学生のみなさんにとって、おじいちゃん・おばあちゃん、お父さん・お母さんの話って、自己分析の切り口になると思っているんです。自分が何を受け取ってきたのか、何を見てきたのかを知ることで、自分のことがより深く理解できる。就活の時期に「自分は何がやりたいんだろう」と考える時、家族や先祖から受け取ってきたものは意外と大きなヒントになります。反面教師として「こうなりたくない」という気づきも含めてです。
大事な関係だからこそ意固地になったり、伝えたいのに伝えられなかったりすることって、誰にでもあると思います。そういう時に頼るべきは、利害関係から離れた第三者だったりすることも多い。もし自分のルーツに触れてみたいと思ったら、一度気軽に連絡してみてください。
編集後記
親子の「大事な話」は、放置されつづけてきたテーマなんだと気づかされました。介護、相続、医療……知っていなければならないのに、「家族で話しておいてください」の一言で終わってきた現実。武田さんがつくろうとしているのは、その号令の「先」にある社会です。母子家庭で育ったご自身の体験、リクルートやエールでの問題意識、すべてがオヤシルに収束していた。「必然だった」とおっしゃっていた意味が、インタビューを通じてじわじわと伝わってきました。ビジョンにある「私の命を生ききる」という言葉を、自分自身にも問いかけてみたいと思います。