宇宙への夢、そして挫折
宇宙物理を学んだ理由
もともと宇宙飛行士になりたかったんですよね。宇宙が好きというのもあったし、「この世界ってどういう構造になってるんだろう」という問いへの探求心もあって。誰も行ったことがないところに行きたい、という気持ちも強かった。たまたま数学や物理が得意だったこともあって、宇宙物理を学べる大学に進んだんです。
夢を阻んだスーパースターたち
でも、宇宙飛行士の夢は割とすぐに挫折しました。当時は今よりもっと門が狭くて、候補生の中に「3 か国語話せて、数学オリンピックでメダルを取っていて、しかもマラソンでも優勝する」みたいな人がいっぱいいたんです。医師のライセンスを持ちながら物理オリンピックでもメダルを取っている人とか。まあ、自分はそんなに優秀な人間ではないので、当時は落ち込んで諦めてしまったわけです。
起業への道
やることがなくなって、起業に踏み込む
宇宙飛行士を諦めたら、やることがなくなってしまって。理学部の物理学科は大体みんな学者を目指すんですけど、それもなんかしっくりこなくて。就職活動する気も全然起きなかった。そんな時に友人が学生起業するというので、「面白そうだな」と軽い気持ちで参加したんです。また、兄が障害者で、「将来は自分が養うことになるのかも。だったらお金を稼がないと!」という気持ちもありました。
そのときは関西にいたんですが、当時、学生起業のカルチャーは東京にしかなかった。だから夜行バスで東京と関西を行き来して、週 6 東京・週 1 関西という生活を続けながら、ウェブ広告を売ったりするビジネスを 1 年半ほどやりました。刺激的で楽しかったんですけど、「一生この仕事するわけじゃないんだろうな」とも感じていて。
「社会起業家」という概念との出会い
その頃に、自分が本当にやりたいことを思い出したんですよね。宇宙飛行士になって人類の最先端に行きたかった。地球や人類、世の中の役に立ちたかった——そういう思いがずっとあって。
その時に「社会起業家」というコンセプトに出会ったんです。今でいうソーシャルアントレプレナー、インパクトスタートアップという言葉に近いんですけど、当時は社会起業家と呼ばれていました。社会課題を解決して、それをビジネスとして拡大再生産していくという概念です。2006 〜 2007 年ごろ、今から約 20 年前の話ですね。
これだ、と雷が落ちたんですよね。世の中を良くする。それがビジネスとして成立して、だからこそ拡大できる。これが自分の土俵だなって。
農業ベンチャーで学んだ「ロマンと算盤」
それで友人と農業ベンチャーを起こしました。江戸時代の農法を復活させて、環境負荷の低い農業を広める、というおよそ儲かりそうにない事業です(笑)。
そこでいろんなことを学びました。農業の面白さ、一次産業の重要性。そして——理念に共感して応援はしてくれるけど、お金は簡単に出してくれない、ということも痛感した。「論語と算盤」って言葉がありますけど、私は「ロマンと算盤」と呼んでいます。信念やロマンは大事、でもお金が儲からないとうまくいかない。その現実をすごく感じたわけです。
非財務情報インフラという使命
ソーラーシェアリングで気づいた「翻訳」の力
農業ベンチャーをやっていた流れで、「ソーラーシェアリング」という話が舞い込んできました。田んぼや畑で作物を育てながら、その上で太陽光発電もする、いわば二階建ての農業です。
銀行がここに融資をつけようとしていたんですが、誰も収益シミュレーションのやり方がわからなかった。どの作物を育てて、どのパネルを使えば、この緯度・経度・気候条件で一番儲かるか、かつ環境にもいいか——そういう多変数のシミュレーションが必要だったんです。大学・大学院では意味不明な演算手法を駆使する物理学をやっていたので、それを思い出しながら、試しにモデルを作ってみたら、銀行にとても喜ばれた。
その時に、はたと気づいたんですよ。環境価値や社会価値を、経済価値——つまりお金の価値——に翻訳できれば、今の資本主義の仕組みに社会課題を接続できると。ちょうど 2014 年ごろで、SDGs、ESG、グリーンファイナンスという大きな波が来た時期とも重なって。
決算書に載らない「見えざる価値」を可視化する
これが自分の人生のミッションだと確信しました。会社の「見えざる価値」——つまり決算書に載っていない非財務情報——を可視化して経済価値に置き換えることで、投資・融資・取引先選定の判断基準として使えるようにする。そういう新たな信用インフラ・情報インフラを作ることができれば、社会が変わると。
今の事業はまさにそこにつながっています。サステナブル・ラボ株式会社(Sustainable Lab Inc.)として、企業の非財務情報——環境価値、人的資本(健康経営など)、知的資本、ガバナンス情報、サイバーリスク耐性、AI/DX推進度等——を収集・分析して、金融機関に提供したり、上場企業の情報開示支援や分析をしたり、銀行向けに非財務評価ツールを提供して金利算定に使ってもらったりしています。その中核を担うのが、ESG・非財務データの収集・分析・開示支援をワンストップで行うプラットフォーム「TERRAST(テラスト)」です。
「強く優しい」社会という北極星
信用インフラをアップグレードしたい
既存の信用インフラって、基本的に財務的な強さを見ているんですよね。その会社が将来にわたって稼げるか、返せるか。そのシグナルをもとに投資・融資・取引先選定がなされるし、就職先の選定にも使われている。大きな広告費をかけている会社、業界で有名な会社が選ばれやすい。それが今の社会の仕組みです。
私はこの信用インフラをアップグレードしたい。強い会社だけが主役なのではなく、「強くて優しい会社」が主役になる社会を作りたいんです。
人を大切にしている、地域社会に貢献している、環境価値が高い——そういう優しさは、長い目で見れば世の中に愛されて必要とされて、将来的な強さにもつながっていく。優しい会社を応援したい、取引したい、就職したいという人もいるはずで。そういう人たちのためにも、強さと優しさを合わせた信用インフラが必要なんです。
日本に弊社しかいない理由
非財務情報やESG情報の調査・分析をしている会社は他にもあります。ESG格付け機関もあるし、環境価値のアセスメントをする会社もある。ただ、上場企業と金融機関、それから銀行を通して中堅企業向けまで広く社会全体を変えようとして、AIを使いながらやっている——こういうスタンスの会社は、手前味噌ですけど日本にはうちしかないんじゃないかと思っています。
AIの時代を生きる学生へ
99.99% の人間は「持たざる者」になった
AIがすごすぎるんですよね。だから別に学生の皆さんがダメなわけじゃなくて、99.99% の人間が「持たざる者」になってしまった。ほとんどのスキルや知識は、数年でAIに全部、無意味化されると思います。レベル 99 まで突き抜けたら意味があるんですけど、ほとんどの人はそこまで到達できない。
企業側も今、新卒に何を期待すべきか正直わからなくなっていると思います。新卒 1、2 年目がやる仕事ってだいたい全部 AI が一瞬で終わらせてしまうから。
体験価値(と、そこから生まれる信念やセンス)でしか勝てない
じゃあどうするか。もう飛び込むしかないんです。傷だらけになっても飛び込む。スポーツでも趣味でも学生団体でも起業でも、南極探検でも何でもいい。自分の五感で体を張って、何でもいいから飛び込み続けること。
やってみればわかる通り、計画通りに進むことなんてないじゃないですか。トライアンドエラーの連続。でも、そのリアルな体験こそが唯一 AI への勝ち筋だと思っています。「何の能力もないけど学生のうちに世界を 5 周回って、スラム街で暮らしてきました」という人はなかなかいないわけで、これって特別な能力がなくても信念があればできる話で、その体験から生まれるリアルな「信念とセンス」は、AIには絶対に代替されない。
参考:AI時代における人間の仕事は『まだ存在しない未来に対して、意思を持つこと』
個性豊かな 100 人を懸命にまとめ上げた経験だって、本当に価値がある。そういうフィジカルな体験のためには、考えてないで飛び込む(中途半端な思考はAIには勝てないので)。それだけです。
人間は意外と死なない
飛び込むのって怖いですよね。自分の人生どうなるんだろう、プライドも傷つくかも、うまくいかなかったら…と学生のうちはいろいろ考えると思います。
でもね、かすり傷ぐらいじゃ人間意外と死なないんですよ。結構ボコボコにされても意外と死なない。だから大丈夫、死なないんで。そのうえで「命と健康が一番の財産」です!これだけは、ちょっとだけ先輩として伝えたいですね。
編集後記
「強く優しい会社が選ばれる社会を作る」
一言で言えばシンプルですが、その裏にある思考の深さと歴史に圧倒されました。宇宙飛行士への夢から農業ベンチャー、そしてESG・非財務情報というニッチに見えて実は社会の根幹を変えようとする事業へ。平瀬さんの軌跡は、一見バラバラに見えて「世界の仕組みを変えたい」という一本の軸で貫かれています。就職活動で企業を選ぶ際、つい年収や福利厚生、知名度に目が向いてしまいますが、「その会社はどんな価値観で動いているか」という非財務的な視点こそが本質かもしれない。そう気づかせてもらえるインタビューでした。「飛び込め、人間は意外と死なない」——この言葉を胸に、私も一歩踏み出してみようと思います。