料理人としての原点
学問よりも、まずは体を動かすことに夢中だった
学生時代を振り返ると机に向かう時間よりも、身体を動かしている時間のほうが圧倒的に長かった。学業への関心が特別高かったわけではなく、むしろラグビーに打ち込み、仲間たちと濃密な時間を過ごす日々だった。大学受験を具体的に思い描くこともなく、今振り返れば、スポーツ推薦という仕組みも知っていたら活用したかもしれない。そうした中で料理の道を選んだのは、数ある選択肢の中で、純粋に「料理が好きだった」という気持ちが、もっとも大きな原動力だった。結果として、その何気ない選択が、後の人生を大きく方向づけることになりました。
現場で積み上げた「本物」の経験
ホテルニューオータニ大阪やリッツカールトン大阪といったラグジュアリーホテルで修行を積み、飲食業界の大手上場企業で総料理長を務めてきました。銀座・六本木・日本橋などの店舗立ち上げ、海外店舗の立ち上げも経験しましたね。
「なにわイタリアン」誕生の背景
大阪の食材を一緒に育てるという発想
もともと生まれも育ちも大阪なので、地元の食材に触れていくうちに、本当にいいものが揃っているということを実感していました。居酒屋だけでなく、ちょっと高価格帯のレストランでも全然使えるような食材があって。そこで、農家の方と一緒に共同してイタリア野菜を作っていくというところに力を入れています。北海道から仕入れるようなやり方ではなく、距離が近い=新鮮。大阪の農業全体が潤う循環を目指しながら、取り組みを続けています。
大阪に新しい表情を作りたい
大阪というと、どうしても粉もん文化や「安くておいしい」というイメージが先に来てしまいますよね。京都みたいにブランドがあるかというと、なかなかそうはならない。でも、私たちのような業態があることで、大阪にもちょっと違う表情を出していけたらなと思っています。食事に来てくれる方はもちろんですが、生産者も含めた一つのコミュニティとして、大阪というものをある程度ブランド化できればというのが、正直なところです。
飲食業の本質と人材育成
飲食業はアスリートに近い世界
私はよく、飲食業はアスリートに近い職業だと話します。。サッカーでも料理でも、練習すればするだけ上達する。もちろん、ミシュランの三つ星ぐらいの話になると別かもしれないですが、、ある程度のところまでは、努力しただけ絶対に伸びる職種なんです。一方で、料理人として長く活躍し続けるためには、技術だけでは不十分です。店を運営し、お客様に支持され続けるためには、経営的な視点やマネジメントの力も欠かせません。だからこそ私は、料理の技術と経営感覚、その両方を備えた人材を育てたいと考えています。個人で全てを担うことが難しければ、チームで互いの強みを活かしながら補完し合う。そのような組織作りも重要です。飲食業は決して楽な仕事ではありません。高い専門性と責任感を求められるからこそ、人としても料理人としても大きく成長できる。私はそう信じています。好きじゃないと続かない
だから冒頭に言ったみたいに、好きじゃないとできないんです。楽しさを求めてしまったら、多分続かない。楽しくないことの方が多いから。でも、好きだからこそやり続けられる、飲食業が好きだからそれしかない、という感覚ですね。
今の若い人に必要なのは環境と忍耐
今の若い子たちは、私たちの時代と全然違います。調べものをするにも辞書を引かなくてよくて、スマホで全部調べられる。スピード感がまったく違うし、逃げ場もいっぱいある。私たちの頃はそんなに簡単にやめられなかったけれど、今は選択肢がたくさん見えてしまうので、我慢ができなくなっている。それが一番の課題だとは思いますね。
だから会社としてできることは、まず労働環境を整えること。その中で競い合ってほしいというイメージです。外国人スタッフを受け入れたり、週休の確保をしたり、本格的な料理を作りながらでもちゃんと休める状態を作りたいと考えています。
我慢の先に人間的な成長がある
学生さんへのメッセージを一言で言うと、「忍耐力」ということですかね。すぐに答えを出す人が多いと感じているので。料理の技術だけじゃなくて、人間として成長してほしい。そのためには、絶対に忍耐力が必要だと思っています。
自由度の高い組織と、壁のない社風
やりたいことは何でもやらせてもらえる
弊社の魅力を一言で言えば、自由度が高いということかもしれません。あれもダメ、これもダメじゃなく、やりたいことをとことん挑戦できる環境にある。。色んな業態に挑戦するほど自分の力になるし、マンネリという言葉がないくらい、常に刺激的な環境です。
代表も含めて、みんな仲がいい
従業員が 150〜160 人ほどいますが、私はみんなと仲がいいんですよ。顔も名前もわかるし、壁があまりないのかなとは思っています。「一度も会ったことがないのに、毎日会ってるみたいだ」と言っているスタッフもいましたね(笑)。新入社員でも声を届けていい環境があるというのは、やりがいにつながると思っています。
ビジョンと今後の展望
飲食業のイメージを、私たちの世代で変える
飲食業って、どうしてもブラックなイメージがあると思うんですよね。一昔前は、そういったことが当たり前のように続いていた。でも、それを放っておいたら飲食業という職業が衰退していく。だから、私たちの世代でそこを修正していくというのは、強く思っています。まずは自社から、というのが第一歩です。
大阪から、もっと大きなものを発信したい
出店のオファーをいただくとどうしてもやりたくなってしまうんですよね(笑)。欲張りな性格なので。でも根本にあるのは、大阪にいろんな人たちの支えのもとでやっていける場所を作りたい、食に関わる人たちのコミュニティを確立したいということ。メディアの発信も東京中心になりがちだけれど、大阪からでもいろんなことが発信できる世の中にしていきたいと思っています。
編集後記
西出さんのお話を伺いながら、「好き」という言葉の重みをずっと感じていました。料理が好きだから始めて、飲食業が好きだから続けてきた。シンプルなようで、それがどれだけ強い軸になるかを、8店舗を経営するリアルな姿が証明しているように思います。特に印象的だったのが、飲食業をアスリートの職種に例えた言葉です。練習すれば必ず上達するからこそ、環境を整えながらも競い合ってほしいという姿勢には、厳しさの中に深い愛情を感じました。大阪の食材を農家と一緒に育て、大阪という街を食でブランド化しようとする取り組みは、地方から何かを変えようとしている私たち学生にとっても、大きなヒントをもらえた気がします。