インタビュー

給食は”食のインフラ”だ。地味でいい、でも地位は上げたい。

PROFILE
株式会社ロワール 代表取締役
四ツ井 貴博

坊主と野球と、遮断された2年半

外部情報は新聞の日付でわかった

高校1年生から寮に入っていました。春日部共栄高校は当時まだ厳しく、外出禁止、携帯電話も禁止。外の世界との接触が2年半、ほとんど取れない状態だったんですよ。

なかでも印象に残っているのが、バリカンで頭を刈るときのこと。散らばらないように下に新聞を敷くんですけど、それが2〜3ヶ月前の古い新聞で。そこに書いてある「誰が結婚した」とかいうニュースを読んで、「うわ、すごい」って思うんですよね。当時の私にとって、それが唯一の外部情報でした(笑)。

大学に入ってからは、その反動もあって、ただひたすら学生生活を謳歌していましたね。就職活動は3年生の後半ごろから始めて、4年生になるころには最初の内定をもらっていました。

「面接だけ」のつもりで握手していた

1社目は地元の印刷会社です。本当はBMW(ビー・エム・ダブリュー)の営業に行くつもりだったんですけど、父親がつながりのある地元の会社を受けてほしいと。「面接だけなら」と思って行ったら、もう話ができあがっていたみたいで、その日に「一緒に頑張ろう」って握手されていたんです。

でも、父親に育ててもらったことへの義理もあるし、地元でお世話になっている方々に対して失礼にあたる、と思って。自分のBMWに行きたいという目標より、そちらを優先しました。3年半勤めて、その後に兄から「手伝ってくれ」と言われたんです。

最初は断ったんですけど、1年後にもう一度言ってきた。2回言ってくるのはよっぽどだろうと思って、2つ返事で入社しました。

説明会で「逆」をやった理由

メモを取らなかった、それだけのことで

就職活動のとき、ある合同説明会でたまたま気づいたことがあって。10人くらいのブースで、担当者が大事なことを話したタイミングで、みんな一斉にメモを取り出したんですよ。そうすると全員が下を向くじゃないですか。

私は後ろの席にいて、その光景を見て「あ、違う」と思ってメモを取るのをやめて顔を上げたんです。そうすると、9人が下を向いているなかで私だけ前を向いている。説明する側は人の顔を見て話すので、自然と私だけにしゃべりかける形になる。

みんながメモを取り終えて顔を上げたタイミングで、今度は私がメモを取る。それを繰り返しました。うなずきのペースを変えたり、眉毛を上げたり。「聞き上手」として見てもらえるように動きました。

その説明会が終わった後に担当者から個別に声をかけてもらって、トントン拍子で内定をもらいました。

「聞き上手」は営業の基本

あの瞬間にひらめいた感じで、事前に準備していたわけじゃないんですよ。ただ、「受け手としての立ち振る舞い」って絶対に大事で、それは営業でも同じだと思っています。

お客さんと会うとき、結局それは人と人だと思っているので。相手がどんな表情でしゃべっているか、どう懐いてくれているか。そういうのをちゃんと感じ取りながら話す人は、採用する側からも、お客さんの側からも、好印象になると思います。

「置かれた状況で全力を尽くす」という考え方

自分で選んだ道を正解にする

代表に就任したのは去年の9月なんですが、正直プレッシャーはなかったです。16年間ここでやってきていたし、成果もついてきていたので。

やっている最中はいつも不安なんですよ。「大丈夫かな」って思いながらやっている。でも結果がついてきたとき、「この方向性は間違っていないな」と確認できる。その繰り返しで、成功体験を積んで、メンタルが切り替わっていった感じですね。

壁にぶつかったときに大事だと思うのは、相談相手を間違えないことです。たとえば、就職後のことを学生同士で相談しても、仕事をしたことがないから意味がない。それよりも、いろんな人に相談した内容を自分なりに解釈して、自分の身の丈に置き換えることが大事だと思います。

背伸びしてやろうとすると、必ずボロが出る。客観的に自分を見る力を身につけた方がいい、とずっと思っています。

やりたいことより、やれることから

給食会社で働きたい、なんて子どもの頃から思っている人はおそらくいないんですよ。私もそうでした。でも、とりあえず片足突っ込んでみることが大事だと思っています。

やれることとやりたいことは違う。理想の会社なんてないし、給料が低いからとか、休みが少ないからとか、人間関係が嫌だからとやめていくと、次の会社もそうなることが多いんですよ。置かれた状況で全力で取り組むことで、その先が見えてくる。まずやってみること、これがとても大事だと思います。

給食は”食のインフラ”だという誇り

電気・ガス・水道と同じポジションである

給食の仕事って、正直派手じゃないんですよ。BMWの営業とか、有名ホテルのシェフとか、そういう憧れの職業ではない。でも、給食を食べたことがない人って、日本に一人もいないと思うんですよ。

これは「食のインフラ」だと思っていて。電気・ガス・水道が止まったら困るけど、当たり前にあるから感謝しないじゃないですか。給食も同じで、止まったら本当に困る。レストランが1軒なくなっても別の店に行けばいい。でも給食はそうじゃない。

だから私は、この業界の地位がもっと上がるべきだと思っています。地味なのは理解している。でもそれを踏まえた上で、自分が前に出て発信しないと、若い人たちに「いいかもしれない」と思ってもらえない。42歳でまだ若いつもりでいるので(笑)、積極的に出ていきたいと思っています。

現場を知っているから、社員の言葉がわかる

私はずっと営業の第一線でやってきました。10年以上、一人で営業に出ていた時期もある。今も担当と一緒にお客さんのところへ伺って、弊社が何を考えているか、なぜこうしているかを経営者同士で話し合って理解してもらった上で契約する。広くはないかもしれないけど、深い関係をつくってきたと思っています。

現場の社員が「ここが壊れてきた」とか「これはまずい」と言ったとき、すっとわかるんですよね。工場に今は入っているわけではないけど、経験があるから理解できる。それがやりやすさにつながっていると思います。

65歳のときの自分から逆算して動く

今、M&Aを考えながら動いています。給食に紐付く別業界の事業を立て直すことと、中間管理職・営業職の採用を強化していくこと。大きい会社の「歯車の一部」になるよりも、弊社のような中小企業で自分の土俵でしっかり力を発揮したい、という方にぜひ来てほしいと思っています。

それと、人生の「終活」じゃないですけど、65歳になったとき自分はどうなっていたいか、今から逆算して考えています。今のうちにやっておかないと、歳をとったら体が動かなくなるので。

忙しいのは言い訳だと思っていて、時間は作ろうと思えば作れるんですよ。結局「その時間を何に使いたいか」の問題で、使いたくないから予定を入れない、というだけのことだと思います。

編集後記

四ツ井社長のお話で印象に残ったのは、「自分の正解の道を選ぶより、自分で選んだ道を正解にする」という考え方でした。やりたいことが先にあるのではなく、置かれた場所で全力を尽くすなかでやりがいや向き不向きが見えてくる。また、給食という「当たり前」の裏側に、これほど深い思いと戦略があることを知って、自分が中学生まで食べてきた給食の見え方が少し変わりました。まずやってみること。今日から実践します。