インタビュー

「どうせやるなら、世の中を変えよう」——奨学金という社会課題に挑む、組織人事のプロが描く未来

PROFILE
株式会社アクティブ アンド カンパニー 代表取締役社⻑ 
⼤野順也

運送会社からガソリンスタンドまで、アルバイト漬けの学生時代

サラリーマン志望から経営者へ

大学時代は、バイトばかりしていました。運送会社やガソリンスタンドなど、いろいろな現場を経験しましたね。当時は正直、起業したいとか経営者になりたいとかは全然思っていなくて、「一番になりたい」という気持ちはあったけれど、普通にサラリーマンとして活躍できればいいなという感覚でした。

人材業界を選んだ理由

そんな私が最初に選んだのが、株式会社パソナ(現・パソナグループ)です。会社説明会が終わって、オフィスビルから外を眺めたとき、ビル群がずらっと見えたんですよ。「このビル全部に会社が入っていて、全部に人がいるんだな」と思ったら、人材に関わるビジネスには非常に大きな可能性があると感じました。

現場から経営へ。創業までの軌跡

6年間のパソナで掴んだ「組織の本質」

パソナには約6年間在籍し、営業から営業推進・営業企画、グループ会社の立ち上げまで幅広く経験しました。現場で働き続けて気づいたのは、人材を送り出した後——定着や戦力化という、紹介後の課題がいかに多いかということ。「人材派遣そのものより、企業へのコンサルティングを通じて人材の戦力化に取り組みたい」という思いが強くなっていきました。

「次の次」を見据えた転職

コンサルティングで起業するなら、まず外資系コンサルティングファームでの経験が必要だと感じ、転職活動を経てトーマツコンサルティング株式会社(現・デロイト トーマツ コンサルティング株式会社)へ入社。約1年間、組織・人事戦略のコンサルティングに従事したのち、2006年に株式会社アクティブ アンド カンパニーを立ち上げました。

経営者と社員の「ギャップ」を埋めたかった

創業の動機はシンプルです。ずっと現場で働いていて感じてきたことがあって。経営者と社員の間に認識やコミュニケーションのギャップが生まれ、組織全体の力を十分に発揮できない要因になっていると感じていました。そのギャップを埋めるような仕事がしたいと思って、この事業に行き着きました。

「人を通じて経営をよくする」——弊社の事業と強み

組織コンサルから人事システムまで

現在の主な事業は、組織・人事コンサルティングです。評価制度の構築や教育研修といった人事制度の設計から、戦略立案・業務効率化のワンストップ支援まで行っています。グループ会社では給与計算のアウトソーシング事業も展開しており、自社開発のクラウド型人事管理システム「sai*reco(サイレコ)」の提供も9年前から続けています。

仕組みづくりではなく、経営をよくすること

他の人事コンサルとの違いを聞かれることがよくあるのですが、私たちは「仕組みを作ること」が目的ではないんですよ。その仕組みを通して、その会社自身の経営をよくしていくことを実現するサービスとして取り組んでいます。目標設定のところからこだわりを持ってかかわっていく——そこが弊社の特徴だと思っています。

お客さまは「人事制度を設計したい」わけじゃなくて、「人事課題を解決したい」んですよね。だから、コンサルティングだけじゃなく実行面も含めて取り組む。「sai*reco(サイレコ)」も奨学金バンクも、その延長線上にあります。

35歳でまだ返している——衝撃から生まれた「奨学金バンク」

知らなかった現実

奨学金バンクを始めたきっかけは、7年ほど前、35歳の方と話していたことでした。「まだ奨学金を返しているんですよ」と言うから、「早く返さなきゃダメなんじゃないですか?」と返したら、「いやいや、みんな40歳くらいまで返しますよ」と言われて。そんな状況になっているのか と衝撃を受けました。

調べてみると、大学生の約2人に1人が平均300万円ほど借りて、卒業後15年ほどかけて返している。奨学金を借りながら働いている人は、日本に約490万人いるんです。奨学金返還を抱える若い人同士が家庭を築く場合、世帯で600万円の借金を抱えることになるんです。晩婚化も少子化も当然だし、これは重大な社会課題だと思いました。

「新入社員研修の限界」から見えてきた本質

弊社は新入社員研修も数多く手がけています。そこで「モチベーションを上げていきましょう」と伝えても、借金300万円を背負って社会に出た若者に「頑張って成果を出しましょう」と呼びかけるだけでは、本当の意味では刺さらない。組織活性化のプロとして、若手社員の経済的・心理的負担を軽減しなければ、本質的な組織活性化は実現できないと確信しました。これは個人の問題ではなく、社会全体で解決すべき構造的な課題だと思ったんです。

日本初の奨学金返還支援プラットフォーム

2年間考え続けて、「奨学金バンク」を正式にスタートしました。文部科学省、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)、三井住友信託銀行との連携によって実現した、前例のない取り組みです。

仕組みはシンプルで、奨学金を抱える求職者を企業に紹介し、人材紹介手数料の一部を本人の奨学金返還に充てます。ポイントは、支援金を本人に渡すのではなく、日本学生支援機構をはじめとした奨学金団体に直接支払う点。これにより本人の所得にならないので所得税がかかりません。社会保険料の算定基礎に影響しないので、税金も社会保険料も一切増えない。企業にとっては人材定着につながり、支援を受ける側にとっては経済的負担の軽減につながる。さらに、行政にとっても奨学金返還の促進につながる、三方よしのモデルです。

現在、登録者は40,000人ほどいて、実際に返還支援を受けているのは300人ほど。1〜2年でこの数字まで来たことは手ごたえを感じていますが、490万人の返還者がいることを思えば、まだまだこれからです。

奨学金バンクは今、社会インフラになってもおかしくないと思っています。これが当たり前の世の中を作っていけるかどうか——そこに今、全力で集中しています。

「どうせやるなら、世の中を変える規模でやれ」

インパクトにこだわる理由

よく「なぜそこまで社会的インパクトにこだわるんですか?」と聞かれます。答えは単純で、どうせやるんだったら、お金儲け以上に世の中に残っていくものを提供したいという気持ちがあるからです。当たり前に存在し、長く価値を生み続けるものをつくれた方が、より意味があると思っています。

新入社員に毎年伝える「4つのこと」

内定式と入社式には、毎年必ず同じ話をしています。社長として多くの経営者と会う中で、成長している会社の経営者に共通していることが4つあると気づきました。

1つ目は「常に能動的であること」。2つ目は「常に当事者意識をもつこと」。3つ目は「常に素直で謙虚であること」。4つ目は「常に可能性を信じること」。

新入社員でも社長になっても、いつになっても絶対に必要なことだと思っています。だからもう何年もずっと、同じ話をし続けています。

学生へのメッセージ——「やる前に結論を出すな」

飛び込み営業で差がついた、あの頃の経験

若い子たちに一番伝えたいのは、「やってもいないのに結論を出すな」ということです。

私が新入社員だった30年ほど前、飛び込み営業が当たり前の時代でした。ただ、当時は敬遠する人も少なくありませんでした。。一方で、目の前の仕事に徹底して向き合い、やり切った人ほど、その後も大きく成長していく姿を数多く見てきました。

これは昭和の古い話ではありません。私が新入社員のころ、10〜20年上の先輩も全く同じことを言っていましたし、おそらく30年後には今の若い子たちが同じことを言っているのではないかと思います。しっかりやりきった人たちが勝っている——これは多分、未来も変わらないと思います。

与えられたことを徹底的にやる。自分自身に対してもっと貪欲になってほしい。やったことがある人だけが、それに対して文句を言う権利を持っているんです。

奨学金で悩んでいるあなたへ

奨学金を借りているのはあなただけじゃありません。2人に1人が同じ状況にあります。ネガティブな情報が多いと思うけれど、一緒に返していこうとポジティブに支援してくれる企業は今どんどん増えています。知らないだけなんですよ。

使うかどうかは後で決めればいいと思っています。まずは知ることが大切です。知ることで、社会に出てからの選択肢が広がっていきます。奨学金を利用していることは決して特別なことではありません。だからこそ、一人で抱え込まず、自分にどんな選択肢があるのかをまず知っていただけたらと思います。

奨学金を返還してくれる企業に特化した就職ガイド「奨学金バンクガイド」も用意しています。全国の大学にも配布していますし、ダウンロードもできるので、ぜひあわせてチェックしてみてください。

 →奨学金バンクガイドのダウンロードはこちら
https://shogakukinbank.jp/bankguide_form/)

編集後記

今回の取材で最も印象に残ったのは、大野社長の「世の中に残っていくものを」という言葉でした。組織人事という地道な領域を20年近くかけて積み上げてきた経験が、「奨学金バンク」という社会インフラになり得る事業に結実している。その一貫した姿勢に、経営者としての本物の覚悟を感じました。「やる前に結論を出すな」というメッセージは、就活や将来に悩む私自身にも刺さるものがありました。課題を見つけたら答えを出し続ける——シンプルだけど本質的なその姿勢を見習って、まず動いてみようと背中を押してもらった気がします。