インタビュー

お茶は「売るもの」じゃなく、「変えるもの」だった。元アパレル人が日本茶で仕掛けるゲームチェンジ

PROFILE
株式会社Third Bay 代表
三浦 健

アパレルから日本茶へ——「好き」が「使命」に変わる日

静岡出身のスポーツ少年

地元は静岡で、高校までは陸上とサッカーに明け暮れていました。スポーツ選手になりたいと思いながらも、洋服も大好きで。「いつか古着屋をやりたい、自分でブランドを作りたい」という夢を漠然と抱えたまま、卒業と同時に上京して文化服装学院に進みました。

サザビー、そして TOKYO BASE へ

専門学校を卒業して最初に入社したのが株式会社サザビーリーグ。当時からロンハーマンやスターバックスを展開していた会社で、自分が好きなブランドと関われる環境でした。そこから株式会社 TOKYO BASE(トウキョウベース)に声をかけていただいて、創業の立ち上げから携わることに。今の社名になる前は STUDIOUS(ステュディオス)というブランドでした。結果的にそこで 10 年弱、東証一部上場まで関わることになります。

職人と出会い、使命が変わった

TOKYO BASE のコンセプトは「メイドインジャパン」。日本発のものを世界に発信するという理念のもと、デニムやニットをつくる職人さんと接する機会が増えました。生産の現場を見ると、本当に大変な思いをしながら作っている方々がいる。後継ぎもいない、儲からない、労働も過酷——そういう現実がそこにありました。

気づけば洋服が「目的」から「手段」に変わっていて。生産者や産業を元気づけたい、その思いで動くようになっていました。

お茶を選んだ理由

日本の伝統産業をいろいろと見ていく中で、日本茶に可能性を感じました。理由はシンプルで、ネガティブをポジティブに変えられると思ったからです。

「お茶屋さんに行く?」って聞いたら、ほとんどの若い人は「行かない」と答える。敷居が高いとか、知るきっかけがないとか。そのデメリットを逆から見れば、まだ誰もそこに刺さっていないということ。しかも出身が静岡なのに、日本茶のことをほとんど知らなかった。その「知らなかった」という感覚こそが、ビジネスチャンスだと思いました。

「記録」じゃなく「記憶」に残る店をつくる

プロダクトアウトの発想

弊社の考え方は、マーケットインではなくプロダクトアウトです。ターゲットは 20〜30 代のトレンド感度・ビジネス感度が高い若い世代。「ファッション」と「エンタメ」をキーワードに、世の中にありそうでないものを作り続けています。

その象徴がドラフトティーです。ビールサーバーからお茶を注ぐ、という体験型の看板メニュー。「日本茶のゲームチェンジャーになれる」という確信を持って生み出したキラーコンテンツです。

SNS の使い方

インスタグラムからのお客さまが約 7 割を占めていて、海外のお客さまはほぼそこ経由です。ただ、「映え」を狙っているわけじゃない。弊社がお茶を通じて何をしているか、その本質を届けることに集中しています。「映えコンテンツ」を意識するより、実際にやっていることをちゃんと発信する——それだけで興味を持ってくれる人が増えるし、リピーターも生まれます。

アパレル流の接客術

接客のスタイルは、ほぼ洋服屋さんと同じです。「どんな香りが好きですか?」と聞くコスメショップのように、「どんなシーンで飲みたいですか?」「お茶に何を求めていますか?」と、まず傾聴するところから始まります。

鎌倉や熱海には美味しいお店、素敵なお店がたくさんある。でも「記録」に残るだけで「記憶」に残らないお店は、印象が薄い。せっかく来てくれたお客さまの限られた時間の中で、「来てよかった」と思ってもらうためには、購入後のアフターケアまで一気通貫でやり切る必要があります。SNS の紹介、オンラインストアの案内、ポイントカードの手渡しまで。リピーターをつくるための接客、と言い換えてもいいかもしれません。

他にそこまでやっているお店は少ない。だからこそブルーオーシャンです。

「負けない戦い」で、産業を変えていく

進化するブランドラインナップ

弊社の事業は日本茶だけにとどまりません。サウナとお茶を掛け合わせた「SAUNA+TEA(サウナプラスティー)」では、全国 150 以上の温浴施設・サウナ施設に弊社のお茶を使ったロウリュ(水風呂に入れるお湯をアロマ水に替える入浴法)を提供しています。どちらも日本の伝統的な文化。その掛け合わせは自然な流れでした。

さらに 2026 年 4 月には 8 周年のアニバーサリーに合わせて、緑茶クラフトジンをリリースしました。国内の蒸留所と組んで、ボタニカルの配合から度数まですべてゼロから設計。緑茶・ゆず・コリアンダー・トンカビーンズ・ジュニパーベリーの 5 つを組み合わせたフレッシュな味わいです。ジンの世界でも「お茶は脇役」が多い中、弊社は緑茶を主役にしています。

経営の芯にある「負けない戦い」

事業を続けていく上で一番大切にしていることは、「負けない戦い」をすることです。

大きく勝ちにいくより、まず負けないための準備をする。リスクヘッジ、綿密な計画、PDCA のサイクル、在庫管理、仕入れコストの最適化——細かいところまで一つひとつ意識を向けることで、負けない体制ができる。負けなければ、ずっと続けられます。続けてこそ、産業を変えられる。

そういう思いで、鎌倉と熱海の 2 店舗から着実に次のエリアへの展開を考えています。

理念の先に描く未来

弊社の理念は「日本の斜陽産業と言われる伝統産業で新しい価値を見出し、業界も生産者も消費者もみんなにハッピーになってほしい」というものです。今は日本茶でそれを体現しているけれど、将来的には日本酒や焼酎、あるいはまったく別の伝統産業で展開していくことも視野に入れています。

「CHABAKKAに行ったら、おしゃれでエンタメ性があって、珍しいものがある」——そう言ってもらえるポジションを、日本茶業界の中で確立したい。それが今一番燃えているところです。

編集後記

三浦さんと話して一番印象に残ったのは、「ネガティブをポジティブに変える」という視点の鋭さでした。日本茶の敷居の高さや高齢層への偏りを「課題」ではなく「まだ誰も手をつけていないチャンス」として捉え、ファッションとエンタメの文脈で若い世代に届けていく。その発想は、就活でよく言われる「差別化」とは次元が違うと感じました。また、「負けない戦い」という言葉も深く刺さりました。勝ちにいくより、続けられる体制をつくることが産業を変える原動力になる。スタートアップや新規事業に興味がある学生にとって、三浦さんの経営観はとても実践的なヒントになると思います。ぜひ一度、鎌倉か熱海のお店に足を運んでみてください。