インタビュー

「働きがい日本一」は社員たちが取ってくれた賞。奈良の4人会社から世界を目指すまでの話

PROFILE
株式会社イベント21 代表取締役社長
中野愛一郎

旅と事業承継

大学は2年・8単位で中退

半径数キロが自分の人生の舞台っていうのが嫌で、「もっと外に面白いことがあるはずだ」と思って動き始めました。まず歳歳(としどし)でヒッチハイクで日本一周。一回行ったらもう一回行きたくなって、また行ったんですよね。一度お世話になった人に会いに行きたいとか、もっと行きたい場所が増えたりして。

当時は「日本はダメだ、欧米がかっこいい」みたいな声が多かったけれど、自分の目で日本を見てみたらめちゃめちゃかっこよかったんです。「じゃあ日本でこんなにすごいなら、世界はどんなにおもしろいんだろう」と思って、今度は世界30カ国を放浪することにしました。大学は2年で8単位のまま中退という、なかなかの好成績です(笑)。

旅先で感じた「力のなさ」

インドのカースト制度は社会の授業で知ってる。でも実際にリアルで見た時の衝撃は全然違いました。「知ってる」と「わかってる」って全然違うなと。世界中でそういう体験が続いて、「なんでこんなことになってるんだ、変えたい」と思った。でも同時に、変える力を一ミリも持っていない自分が一番最悪だとも気づいたんです。

そんな思いを胸に日本に帰ってきた時、父親がやっていたイベント会社が危機を迎えていました。

「継ぎたくない」会社を継いだ理由

父親が突然、余命1ヶ月半という癌の宣告を受けたんです。当時の株式会社イベント21は奈良の小さな会社で、社員4人。16年連続で債務超過、潰れかけの状態でした。正直、絶対継ぎたくないとずっと思っていた。

でも病室で父を見た時に、「この会社って、親父の人生そのものだ」と気づいたんです。それを否定したくないと思った。同時に、自分はニューヨークに住みたいと思ってお金を貯めていた時期だったから、「二つの選択肢、どちらかを諦めるんじゃなくて重ねよう」と決意して。病室にいる父のところに行って、「俺がこの会社をでっかくして、ニューヨーク支店を作ったる」と宣言したんです。

組織をつくるということ

社員に半年間無視された1年目

継いだ当初はピンチの連続でした。先代は365日朝から晩まで働き続けて、16年連続債務超過を取り続けていたところに、前職が旅人の息子が来るわけです。当時の社員4人には半年間ずっと無視されました。気に食わなかったんでしょうね。

それでも私は身体が悲鳴を上げるほど働きました。会社を立て直すにはそうするしかなかったから。結果、1年目で過去最高の利益を出すことができました。父親が職人肌で経営をほとんどやっていなかったので、経営にフォーカスしたことが効いたんだと思います。

「お金の問題」をクリアした先にあったもの

最初の利益で、社員たちが文句を言っていた給料を上げて、休みも倍にしました。そこから少しずつ話を聞いてもらえるようになって、好循環が始まりました。売上が5億円を超えるまでは本当にお金との戦いでしたが、やがて日本中・世界中から毎日何百件も問い合わせが来るようになって、銀行残高のお金の心配もなくなってきた。

でも全然ハッピーじゃなかったんですよ。社員が辞めたり、会社の文句を言ったり。「こんな気持ちであと何十年もやるのか」と思った時に、「そのために会社を継いだわけじゃない」と気づいて。そこから「社員がこの会社で働けて本当に嬉しいと思ってもらえる会社作り」にシフトしていきました。

オレンジ→グリーン→ティール

売上が16億円になった頃にコロナが来て、毎日200件来ていた問い合わせが1日15件に激減。売上が9割減という、見たことのない状態になりました。

それまでグリーン型組織(カルチャーやコミュニケーションを大切にしてみんなで力を合わせる組織)でやってきたけれど、コロナの危機には対応できなかった。一時的にオレンジ型組織(トップダウンの管理型)に戻して、私が最速・最短で意思決定することで難局を乗り越えました。

でもそこで考えたんです。「10年に一回こんなコロナみたいなことが来るなら、その都度こんなことをやってられない」と。イベント業界で世界的な危機が来ても吹き飛ばない組織を作りたい。そこでティール組織(自律型組織)への進化を決意しました。上司がいなくても、一人ひとりが自分ごととして自律し、ビジョンとミッションを合わせてやっていける組織です。今はこのかたちで社員213名まで育ってきています。売上は25億4000万円まで来ました。

年18回の合宿と350万円のコミュニケーション予算

私自身、会社を継ぐ時に「ニューヨークに住みたい」というビジョンと「父親の人生を肯定する」というミッションを重ねたことで、パワーを最大化できたと感じました。社員にも同じ状態になってもらいたくて、一人ひとりのなりたい人物像ややりたいことを最初の段階から明文化してもらっています。

そのために合宿を年18回やっています。新卒研修合宿は1回で700万円かかるけれど、それでもやる。本気・本音のコミュニケーションで、みんなの奥底にある本当の力を理解して、引き出し合うために。

それと「コミュニケーション予算」を350万円設定しています。たとえば熊本支店の社員が北海道支店に飛行機で行って、そこで飯を食って翌日帰ってくる。旅費・交通費・給料を全部会社が持つ、飲み会だけのための制度です。支店を超えたお互いの理解があってこそ、力を合わせることができるので。

イベント21が選ばれる理由

マイナビ・リクナビを一切使わずに年間1400エントリー

新卒採用は12年連続で定期採用を続けていて、学生エントリーが年間1400件来ます。マイナビやリクナビは一切使っていません。あれは情報を全部持っていかれるし、彼らはリクルートビジネスだから人が辞めてまた就職したら儲かる仕組みで、私たちの理念とは合わない。だから自分たちで採用できるようになろうと取り組んできました。

今は新卒入社が社員の9割を占めていて、平均年齢は25.5歳。みんな辞めないのに若い子が大量に入ってくるから、組織の平均年齢が全然上がらないんですよね。

「めっちゃ辛いラーメン屋」でいい

うちはカルチャーが尖っている会社なので、ラーメン屋で言えば「めっちゃ辛いラーメン店」みたいな感じです。合わない人には全然合わない。でも合う人にはめちゃくちゃ合う。一日三食このラーメンでいいという熱狂的なファンになってくれる子が入ってきやすい。入口が明確だと、そういう子を集めやすいんですよね。

面接や内定期間に全部さらけ出して見せて、それでも「この会社が自分に合っている」と思う子たちが入ってきています。

ホームページを自分で作って業界日本一へ

会社を継いだ当初、まだネットでイベントを注文するような時代じゃなかった。でも「インターネットを使ってイベント会社を探した方がみんな便利だ」と思って、自分でウェブを勉強してホームページを作りました。

「誰もが簡単にイベント主催者になれる世の中を作りたい」という思いで情報を発信し続けた結果、イベント業界で日本一の人気サイトになりました。ネットの世界の戦いは、このパソコンの画面の中の情報で勝負です。ホームページ制作会社に頼んだら、制作会社はネットのプロだけどイベントは素人。でも私がウェブのプロになれば、イベントのプロとしての100%のパッションと情報を発信できる。それが大企業への対抗手段だと気づいたんです。

夢と希望で世界を鼓舞する

希望がある人は人生を切り開ける

株式会社イベント21の理念は「You happy, We happy」。三方よしで、物心両面のハッピーを今と未来に生み出していく、という意味です。

10年ビジョンは「圧倒的に面白くて強くていい会社を作って、夢と希望でこの世界を鼓舞する」こと。夢と希望の違いって、わかりますか?夢は「宇宙飛行士になりたい」と描くもの。希望は「頑張ったら自分も宇宙飛行士になれる」と思える気持ちのことです。

日本人は先進国の中で希望がめちゃめちゃ低い国民性なんです。何か嫌なことや理不尽なことがあったら、逃げるか黙るか文句を言うかしかない。でも私は、目の前の変えたいことを全部変えに行って、実際に変えてきた。なぜできたかというと、希望を持っていたからです。奈良の小さな会社でも世界中でビジネスできると信じていたから、頑張れた。

イベントは「思い出を世界に送り出す」仕事

今の学生は働くことをネガティブに捉えているかもしれない。「できれば会社に行きたくない」「仕事で頑張るのは社畜」みたいな。でも全然そんなことなくて、働くってめちゃめちゃ面白いし、自己実現できます。

地域が過疎化して盛り上げたいからと盆踊りを主催したい人、ずっと好きだったアーティストのイベントを企画する人、みんな思いを持ってイベントに取り組んでいる。その先には確実にいくつもの笑顔があって。物はすぐ手元から離れてしまうけれど、思い出や大切な感情は死ぬ瞬間まで心の中にしまっておける。そういう瞬間を世界中に送り出し続けることで、もっと世界をハッピーにしていけると信じています。

就活は「ヒッチハイク」

最後に就活中の学生に伝えたいのは、就活はヒッチハイクだということです。日本には360万社の会社が走っています。誰もが知っている安心安全のベンツもあれば、速くてかっこいいスポーツカーもあれば、小回りの利く軽自動車もあれば、キャンピングカーもある。大事なのは、みんながベンツに乗れと言うからベンツに乗るのではなく、自分に合った車に乗ることです。

多様性を大事にと言われて育ってきたのに、就活だけなぜか「大企業に入りなさい、公務員になりなさい」になってしまっている。自分がどんな人間になりたいのか、どんなことがしたいのかを、表面的にじゃなくて深く考えてみてください。それが実現できる会社に乗れたら、必ず目的地まで行けます。

 

編集後記

今回の取材を通じて、「働きがい日本一」という言葉の重みが変わりました。それが作文の上手さではなく、全社員の匿名アンケートで決まるものだと知った時、正直すごいと思いました。50問以上の設問に、月曜日にワクワクしながら会社に行けているか、家族に誇りを持って紹介できるかなど、偽りようのない問いが並ぶ。それで日本一を取ったということは、社員さんたちが本当にそう感じているということです。中野社長が「ティール組織の社員たちが、自分の言葉でビジョンを語る。それが本物だし、強さの源泉だ」とおっしゃっていた場面が特に印象に残りました。「就活はヒッチハイク」というメッセージも、就職先を迷っている自分に深く刺さりました。自分に合う車を探すことが、働きがいへの第一歩なのかもしれません。