インタビュー

「制作して終わり」をやめたら、クリエイターの価値は変わる——GIG代表・岩上貴洋が語る、ものづくりの先にある使命

更新: 2026年7月9日
PROFILE
株式会社GIG 代表取締役
岩上貴洋

自分で事業をやることが身近だった環境

埼玉の田舎で育った

代々その地域で暮らしてきた家系で、親戚や知人にも自分で商売をしている人が多くいました。農業をやっている人もいれば、地域で事業を営んでいる人もいる。そんな環境だったので、起業が特別なものという感覚はあまりありませんでした。

むしろ、「いつか自分も何かをやるんだろうな」と自然に思っていた気がします。

子どもの頃から両親によく言われていたのは、「仲間を大事にしなさい」「周りの人を大切にしなさい」ということでした。今振り返ると、この価値観は経営をする上でも大きな土台になっていると思います。

大学よりも現場で学びたかった

学生時代はほとんど大学には行かず、インターンシップに打ち込んでいました。将来自分で事業をやるなら、実際に事業が生まれ、成長していく現場を見た方がいいと思ったからです。

そこで、アーリーステージの企業に投資する独立系の投資会社でインターンを始めました。投資先の経営者と会い、事業計画を見て、企業が成長していくプロセスを間近で見られる環境はとても刺激的でした。

インターンを約2年続けた後、そのまま新卒で入社しましたが、在籍期間は数か月ほどでした。ちょうどIT業界の市場環境が大きく変化したタイミングで、会社としての方向性も変わっていきました。それなら自分でやろう。そう思い、23歳で最初の会社を創業しました。

20代をかけてつくった会社

前職のLIGを23歳で創業

最初に創業したのが株式会社LIGです。Web制作やシステム開発を中心に事業を立ち上げ、その後はメディア事業やオフショア、クリエイタースクール、ゲストハウス、飲食店など、さまざまな挑戦をしてきました。

仕事とプライベートの境目がないくらい、20代のほとんどをその会社に注ぎ込み、最終的には100名以上の組織になりました。たくさんの仲間と出会い、一緒に会社を作り上げてきた時間は、今でも大切な経験です。

もう一度、自分の信じる道を選ぶ

LIGは気心知れた仲間たちに囲まれた私にとっては特別な環境でした。一方で、自分が本当にやりたいことは何なのかを考え続けていました。私はもともと、Webやデジタルコミュニケーションの可能性を信じていました。

企業と顧客が出会い、理解し合い、信頼関係を築く。その接点をデザインすることに大きな価値を感じていました。会社が成長するにつれて事業領域も広がっていきましたが、自分自身はもっとその領域に集中したいと思うようになりました。

もちろん葛藤はありました。子どもの頃から「仲間を大事にしなさい」と言われて育ってきましたし、自分が採用した仲間もたくさんいました。それでも、自分は自分が信じる道を進もうと思い、2017年、自分でもう一度ゼロから株式会社GIGを立ち上げました。

GIGが証明したいこと

クリエイターの価値を最大化したい

Web制作会社は日本に数多くあります。しかし、制作物の価値はまだ十分に評価されていないと感じています。優れたデザイナーやエンジニア、マーケターが時間をかけて作ったものでも、「納品したら終わり」という考え方で評価されてしまうことが少なくありません。

私はそれが本質ではないと思っています。本当に価値があるのは、そのクリエイティブが事業成長やブランド形成に貢献し続けることです。AIが発展するほど、「つくること」そのものの価値は相対的に下がっていくかもしれません。

一方で、つくったものを活用し続け、継続的に価値を生み出すことの価値はむしろ高まっていくはずです。私たちがやりたいのは、クリエイターの価値を最大化できる仕組みを作ることです。

Webサイトは企業の資産であるということ

私たちはWebサイトを制作物ではなく、企業の資産だと考えています。例えば300万円のサイト制作費を高いと感じる方もいるかもしれません。しかし、そのサイトが5年、10年と営業や採用、ブランド形成に貢献し続けるならどうでしょうか。

300万円を5年で割れば年間60万円です。私たちが提供したいのは、単なる制作ではありません。制作後も価値を生み続ける仕組みです。企業にとっての資産を作ることができれば、クリエイティブの価値も正しく評価されるようになる。私はそう考えています。

「作った後」まで考えられる人と働きたい

クラフトマンシップを大切にしているからこそ

GIGのミッションは、「いいものをつくり、価値をとどける」です。私たちはものづくりを大切にしています。ただ、作ること自体が目的ではありません。

本当に大切なのは、その先で伝えたい人に、価値がとどいていることです。どれだけ良いサイトを作っても、活用されなければ意味がありません。どれだけ良いコンテンツを作っても、成果につながらなければ意味がありません。

だからこそ、作った後まで考える。そこまで含めてクリエイターの仕事だと思っています。

関わってよかったと思われる組織や人でありたい

経営者として大切にしていることは、関わってよかったと思われる組織や人であること。それはお客様に対しても、仲間に対しても同じです。優しくすることでも、甘やかすことでもありません。

一緒に仕事をしてよかった。一緒に挑戦してよかった。そう思ってもらえる関係を作ることです。これは子どもの頃から言われ続けてきた、「仲間を大切にしなさい」という教えにつながっている気がします。

AI時代に積んでおきたい「体験」という資産

AIはこれからも進化し続けると思います。だからこそ、知識やノウハウだけでは差がつきにくくなっていくでしょう。その一方で、体験の価値は高まっていくと思っています。

例えば、将来パイロットがAIに置き換わったとしても、「自分は実際に操縦していた」と語れる経験はなくなりません。マニュアル車がなくなったとしても、「あの感覚を知っている」という経験は残ります。

何を知っているかよりも、何を経験したか。今当たり前にできることが、20年後には貴重な体験になっているかもしれません。

だから私は、できるだけ多くの体験を積むことが大切だと思っています。特に若いうちは、効率だけを追い求めるのではなく、自分の信じることや自分の中にあるWhyに向き合い、自分だけのストーリーになる体験を積みにいってほしい。その経験は、きっと将来の財産になるはずです。

編集後記

「作って終わり」という発想が Web 業界には根強く残っている、ということは薄々感じていましたが、岩上さんがそこに真正面から問題提起していることに驚きました。300万円を5年で割り戻したら年間60万円、という視点は、「コスト」と「投資」の違いをシンプルに示していて、すごく腑に落ちました。また、「LIGを手放す決断が一番つらかった」というエピソードは、仲間への誠実さと、それでも自分のやりたいことを選ぶ覚悟の両立がにじんでいて、経営者としての器の大きさを感じました。就活を控えた自分にとっても、「AI に代替されないもの」よりも「体験として積んでおく」という視点の方が、より行動に直結する言葉として刺さりました。