インタビュー

「偶発的なキャリアでいい」就活の常識を逆転させた起業家が語る、変化できる人間の育て方

PROFILE
株式会社i-plug 代表取締役 CEO
中野 智哉

田んぼとテニスが育てた、起業家の素地

就活せずに卒業

兵庫県揖保郡(現在のたつの市・太子町周辺)出身なんです。素麺の産地として有名なところで、もう今だにそれより田舎出身の人にはほぼ会ったことがないくらい、本当に田舎(笑)。田んぼで遊んだり、川に飛び込んだりして育ちました。父親も会社経営をしていたので、そこで自分も自然と経営に興味を持つようになったというのはあると思います。

大学は名古屋の中京大学に進みました。経営学部だったんですが……まあ、まともな学生ではなかったですね。ほとんど授業に行かずに、テニスをしていました。テニスは今も続けています。

就職活動も全くしなくて、そのままなんとかストレート卒業はできたんですが、就職せずに卒業しているんです。卒業後に実家の加古川に戻って、地元の会社に入りました。ただ、ちょっとブラック企業だったので 4 ヶ月で辞めて、そのあと 10 ヶ月ニート生活を(笑)。

営業で開眼、業界にのめり込む

ニートの後に入ったのが、人材系の会社です。後に株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア株式会社)と合併しています。そこでいわゆる求人広告の営業をやることになりました。

そこから約10 年いたんですが、その間に 4 回買収されて、最終的には在籍していた社名がインテリジェンスになっていました。だから「インテリジェンスを選んだ」わけじゃなくて、気がついたらそうなっていたというのが正直なところです。もともとこの人材業界に入ろうと思ってきたわけでもなかったんですが、やってみたらすごく楽しかったので、どんどんのめり込んでいった。そういう、偶発的なキャリアですね。

あと、入社当時は求人は雑誌の時代だったんです。それがインターネットに変わり、ガラケーのモバイルに変わり、スマホに変わっていく最中をずっと営業していたので、メディアの構造がどう変わるかというのを自分なりに解釈しながら体感できたのは大きかったと思います。

OfferBox が生まれるまで

グロービス経営大学院で経営の輪郭をつかむ

リーマンショックが起きて、それまで毎日終電まで仕事していたのができなくなって、時間が空いたんです。それでグロービス経営大学院の、本入学ではなく一科目ずつ受けられる単科講座を試しに受けてみたら、これがすごく学びがあって。偉い人たちがまだ勉強しているのを見て、そういうものなんだと思ったし、学んだことをすぐ仕事に活かしたら成果がめちゃくちゃ上がったんです。

1 年かけて経営の基礎を 4 科目受けたあたりで、なんとなく「経営ってこういう構造なんだ」とイメージできた瞬間があって、そこで元々漠然と憧れていた起業を本気でやろうと決めました。そこからあらためて大学院に入り直しMBAを取得。同期たちと在籍中、いろんな事業アイデアを試しながら準備していました。

逆転の発想で生まれたサービス

会社を設立してから最初にやったのは新卒人材紹介の事業でした。営業を始めてみたら「あ、これは売れない」と思ったので即撤退。その後OfferBoxのアイデアをひらめきました。

それまでの就職活動って、学生が企業にエントリーするのが当たり前だったんです。その流れを逆にして、学生が自分のプロフィールページを作り、企業からオファーをもらう。その発想がスタート地点です。

設立当初から意識していたのが、私たちがミッションとして掲げていることは相当大きいので、上場してからが本番だということです。ずっとギリギリの資金でやっていました。一番厳しかったときは、会社の口座と私個人の中野家の口座を合わせて数万円まで行きましたね。それでも踏ん張りながら、9期目の2021年に上場できた、という感じです。

「地味」を誇りに、変化できる人を育てる

上場は「スタート」だった

上場してからがようやく本番で、今も投資中という状況です。

会社のビジョンとして「Vision2030」を掲げていて、2030 年までに「未来を担う若い世代からもっとも選ばれるプラットフォームになる」というものです。新卒就職活動の領域だけでは、一人ひとりのキャリアを良くすることは解決しきれない。内定だけをゴールとせずに、大学生の早いうちから自分がどんな人間になりたいか、社会に貢献したいかを考える時間をつくり、最初の会社選択から、その後のキャリアに価値を出していかないといけないと思っています

会社は「黒子」でいい

よくも悪くも、地味な会社なんじゃないかなと思っています。プラットフォーム事業って、黒子をやる仕事なんですよね。主役は、そのプラットフォームの上にいる学生さんであり企業さんであって、私たちは場所というかインフラをつくる側。だから地味なことをコツコツやり続ける会社、というのが私たちのイメージです。

採用でいちばん大事にしているのは、ミッション・ビジョンへの共感です。あわせて、5Values というバリューがあるので、そこへの共感も必須です。そのうえで特に重視しているのが、「変化できる人」かどうかということ。いい方向への変化が成長なので、ミッション・ビジョンの実現に向かって変化できる人が、社内で成長できる人になっていく。そのためにはまず、自己認識ができることが大切です。周りから見た自分と、自分が思う自分の認識が近い人ほど、フィードバックを素直に受け取れて変化できる。スキルは後からついてくるし、生成AIによってスキルの意味自体も変わってきている時代ですから。

偶発的でいい。心技体の大切さ

 

学生時代を振り返って「やっておけばよかった」と思うのは、もっと大人と会っておけばよかった、ということですね。夢を持ってチャレンジしている大人と話していたら、社会に対してもっとポジティブな興味を持てたんじゃないかと。

逆にやっておいてよかったのは、自由に動いていたこと。そしてテニスをやったこと、これは声を大にして言いたいです。

心技体という言葉があるじゃないですか。スキルを身につけたいなら、まず体を鍛えて、心を鍛えないといけない。私はたまたまテニスで体と心を鍛えたんですが、おかげで体もメンタルも相当強いんです。ずっと安定してベースのパフォーマンスが出せる。

テニスって技術よりも体力とメンタルのスポーツだといわれています。だから技術はなくても、格上の相手に勝てたりする世界があります。だから学生のうちは、体と心を鍛えることを最優先にした方がいいと思います。キャリアの軸が最初からなくても大丈夫。私みたいに偶発的なキャリアでも、続けていれば面白くなっていくので。

編集後記

中野さんのお話を聞いて、「キャリアに正解はない」ということを改めて感じました。就活もせず、ニート期間を経て、たまたま始めた営業が面白くて続けていたら、いつの間にか上場企業の代表になっていた。その偶発性を否定せず、むしろ誇らしく語ってくれる姿が印象的でした。就活に不安を感じている学生にこそ、この話を聞いてほしいと思います。「変化できる人」という採用基準も、自己分析や他己分析を繰り返している私にはリアルに刺さりました。スキルより自己認識——これはキャリアを考えるうえで、今の自分が一番大切にしたい言葉かもしれません。