インタビュー

その対話が、企業の価値になる。AI×SaaSソリューションで、次世代のCXスタンダードを創る

PROFILE
モビルス株式会社 代表取締役社長
石井智宏

経歴

1998年 早稲田大学卒、2009年 ペンシルベニア大学ウォートンMBA取得。ソニー株式会社にて11年ラテンアメリカ市場におけるセールスマーケティングに従事。MBA取得後、国内投資ファンドにて執行役員。その後クオンタムリープ株式会社のエグゼクティブパートナーとして多数の日本企業の海外進出を実行支援。2014年モビルスに参画。

転校と海外生活が育てた、サバイバル力

市川生まれ、ドイツ育ち

生まれたのは市川近辺なんですが、父親の仕事の関係で2歳から中学2年生ごろまで、ドイツで過ごしていました。いわゆる帰国子女ですね。

転校が鍛えた処世術

転校の回数がとにかく多くて。ドイツで小学校に入学して、小学2年生で日本に戻って転校して、6年生でまた海外に行くんですけど、その間にも引っ越しで一度転校して、もともと入学した小学校にまた戻って。中学は中2の終わりに帰国したので、また日本の中学校に転校する、という繰り返しでした。

転校ってストレスなんですよね。ゼロから友達を作り直さなきゃいけないし、最悪、海外から帰ってきた「外国人」として扱われていじめられることもある。そういう状況をどうくぐり抜けるか、いかにナメられないようにするか、というのを小さいころから身につけてきた感じです。

早稲田からソニーへ、全力で迂回したキャリア

ダイビングに奉公した大学時代

早稲田大学に入ってからは、正直、勉強はほぼしていなくて(笑)。サークルはいろいろ入ったんですが、途中からスキューバダイビングのサークル一本に絞りました。見た目はチャラチャラしたサークルなんですけど、実態は結構ハードで。三宅島のダイビングサービスにほとんど出仕奉公みたいに入って、お客さんに学生の私たちがダイビングのガイドをするという、インストラクター資格ぐらいまで取ってやろうという、真面目な面もあって。

めちゃくちゃ厳しい責任者のもと、一人の若者として「理不尽」という言葉をそこで学びました。そういう極限状態を一緒に経験した仲間って結束が固くて、当時のメンバーとはいまだにしょっちゅう会っています。

譲れなかった就活軸「海外勤務」をテーマにソニーを選ぶ

就職活動は最初から商社を狙っていました。内定もいただいて、OBの先輩方にご飯に連れていってもらっていたんですが、その先輩が全員、食品部門の方で。商社って背番号制で、食品に入るとずっと食品なんです。将来のキャリアを考えたとき、ふと「もしかすると自分は、一生タコやイカといった特定の商材だけを扱い続ける“タコイカ部長”のようになるのかな」という将来像が浮かんだんです。でも、自分が行きたい方向性はそっちではないな、と漠然と感じていました。。

ちょうどそのタイミングでソニーの内定も出ていて、人事の方に「迷っています」と伝えたら、「じゃあ商社に行けば」とバッサリ切られたんです。ちょっとショックでしたけど、その後にこう言われました。「あなたの経歴なら、海外マーケティング部門で即戦力として海外に出てもらいます」と。ずっと海外で仕事することをテーマにしてきた私には、その言葉が響いて。急遽、商社からメーカーに方向転換しました。

ウォートン校 MBA は「休職」で

ソニーに入ってからはパナマなど海外勤務が続きました。もともと MBA に行くことを条件に会社を探していたんですが、いざ行こうとしたら「みんな MBA 留学のあと、辞めてしまうので制度をなくしました」と言われてしまって(笑)。

ただ、面接のときにそういう話をしていた記録が残っていたようで、1年もののヨーロッパのプログラムなら出しますと特例を提示してもらえました。でも私はどうしてもアメリカで2年間やりたかったので、「では休職で行かせてください」という形でペンシルベニア大学(University of Pennsylvania)の MBA を取得しました。

モビルスとの出会い、「マネジメント」という軸

大企業への帰還より、小さな戦場を選んだ

MBA 留学のあとソニーに戻るという選択肢もあったんですが、日本に帰ると何万人もいる会社の中の一社員になる。海外にいる間は Sony Comercio de México, S.A. de C.V.(ソニーメキシコ)という数百人規模の会社でマネジメントとして動いていたのに、日本に戻ると課長にもなっていないわけです。あと5〜6年それを耐えられるかなと思って、踏み切れなかった。

そこで70人規模の投資ファンドにご縁があって入りました。神様のようなカリスマ性を持つ創業者のいる会社の中でどうバリューを出すか、叩き込まれましたね。2年ほど経ってやり切ったかなという感覚があって、次は5人くらいの、ソニーの社長を務められた出井さんがやっていた会社へ。そこで日本の中堅企業のベトナム・インドネシアへの海外展開を、ハンズオンで支援する仕事をしていました。

Mobilus(モビルス)との出会い

ベトナムのパートナーから紹介を受けたのが、Mobilus(モビルス)の創業者でした。「一緒に事業を作ろうよ」という話になって、当時すでにあった会社を使ってどういうことができるかやっていこう、ということで引き受けることになり、今の事業につながっています。

キャリアアドバイザーの方々からは「あなたはキャリアをめちゃくちゃにしましたね」とよく言われました(笑)。確かに王道からは外れていたかもしれないけれど、やりたいことに一番近い道を選んだ結果で、めちゃくちゃ楽しかった。計画性がなかったというのが正直なところですが、「マネジメントを追求したい」という軸は一貫してありました。

CX という巨大なブルーオーシャン

日本における CX の誤解

CX(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験)という言葉、聞いたことありますか? ビジネス領域で重要だと言われ始めてもう10年以上経つんですが、日本ではまだ「お客さま相談窓口」「コールセンター(コンタクトセンター)」でいかに丁寧に対応するか、という極めて限定的な捉え方をされています。

でも特にアメリカでは、CX はトップマネジメントの最重要事項のナンバーワン・ツーに入ってくる話なんですよ。

「ブランド」は広告ではなく体験が作る

私たちって、テレビ CM の内容をそのまま信じないですよね。見たらウェブで調べて、他に似た製品がないか確認して、企業が言っていることの裏取りをする。Amazon で何かを買うときも、企業の宣伝文句より、実際に使った人のレビューの3つ星コメントをじっくり読んで決める。

つまり、企業のブランドって広告宣伝で作るものじゃなくて、既存のお客さんの満足・不満足の積み上げで築かれていくんです。いくら広告に投資しても、ちゃんとしたお客さんの満足が得られていない会社はブランドを維持できない。これは全社レベルの取り組みで、だからこそトップマネジメントの最重要事項になっているんですよ。

変わらない日本、だからこそチャンスがある

一方で日本はこの認識がかなり遅れていて、コンタクトセンターに電話しても出ない、ウェブサイトを調べても意味がわからない、という不満度の高い状況が続いています。この領域って、クレームをたくさん受けながら安い給料で働かなければいけないというイメージが染みついていて、誰もやりたがらない。

そこを解決していきたいんです。CX という概念そのものの市場への啓発活動から、ユーザーが満足できるシステムの提供、企業へのコンサルテーション。CX を一気通貫で提供できる会社を目指して活動しています。

弊社では現在、オペレーション支援生成 AI サービス「MooA®(ムーア)」や、有人チャット・ボイスボットなどの SaaS(Software as a Service) ソリューション群「モビシリーズ」を開発・提供しており、コンタクトセンターのデジタル化・ノンボイス化を推進しています。

生成 AI が変革を加速する

今、生成 AI のテクノロジーがすごい勢いで進化していて、これを徹底的に活用することで、今まで人の力だけでやらなければいけなかったことが、夢じゃなく実現できるようになってきている。AI を活用したシステムソリューションの開発・提供を主軸に、それをちゃんとお客さんに届けられるコンサルティング部門を作ったり、AI の運用体制を整えたりというのが、これから中期で建てている目標です。

「マネジメントは太陽であれ」

熱量が、組織を動かす

モビルスのWantedly(ウォンテッドリー)には「マネジメントは太陽であれ」と書いているんですが、これはソニー時代にめちゃくちゃ厳しかった上司から受け売りした言葉なんです。

太陽って、明るいというイメージもあるんですが、相当じりじりと暑いですよね。下手すると火傷する。マネジメントは太陽と聞くと、いつも楽しそうに輝いてという風に思うかもしれないけれど、「なんでかわからないけど、私はこれがやりたいんだ」というのを熱量高く、明確に出す。その方向さえ示せば、道はみんなで考えながら作っていける。そのビジョンをできるだけ明確に持って伝えていくのが、マネジメントとしての大事な要件かなと思ってやっています。暑苦しいくらいがちょうどいい。

学生へのメッセージ

最初の5年が、一生を作る

うちの会社にも毎年何人か新卒が来てくれるんですが、よく言っていることがあります。最初に入った会社・部門・上司、これによって身につくものが決まってしまう。自分への仕事の許容レベルが低くなるか高くなるか、上下や同僚とのコミュニケーションの取り方。これって、残酷なんですけど、最初の環境で染みついてしまうんです。

だから学生のうちに、自分はどういう社会人になりたいのか、どういうスタイルのプロフェッショナルになりたいのか、ということを一生懸命考えてほしい。業界や会社のカルチャーについて調べれば、それなりの情報は得られます。理想としているものと合っている可能性があるのかどうか、そこは少なくともチェックできると思うので。

ベンチャー企業が与えられるもの

弊社のようなベンチャーの場合、入った瞬間から即戦力としてバリューを出してほしいという期待があります。もちろん新卒の方に無茶な要求はしないですが、大企業だと数年かけてやるようなことを1年でできる環境はある。去年入った新卒メンバーは、全社会で表彰されていて、入社1年とは思えないほど活躍しています。 

決められた役割を粛々とこなしたいという方より、どんどん成長して自分でステップを取りに行ける方にフィットする会社だと思っています。

 

編集後記

石井社長のキャリアは、教科書通りの「王道」とはかけ離れていました。メーカーからMBA、投資ファンド、そしてベンチャーへ。一見バラバラに見える道筋も、よく聞けば「マネジメントを追求したい」という一本の軸が貫いていました。

私が特に印象に残ったのは、CX に関するお話です。「企業のブランドは広告ではなく、お客さんの体験の積み上げで作られる」という指摘は、就職先を選ぶ際の視点にもつながると感じました。名前が知られている会社かどうかより、その会社がお客さんにどう向き合っているか——就活生として、そういった軸で会社を見てみようと思うきっかけをいただきました。