インタビュー

LINEとAIで「当たり前」を仕組みにする。映画青年だった私が、日本の中小企業の生産性改革に挑むまで

PROFILE
株式会社スーツ 代表取締役社長CEO
小松 裕介

映画をつくりたかった学生時代

自主制作に明け暮れた4年間

もともと私は、映画の仕事がやりたかったんですよね。中央大学の法学部に入ったんですけど、正直なところ法律の勉強があまり面白くなくて。それで八王子のキャンパスに通いながら、自主制作で映像を作っていました。ドラマやミュージックビデオみたいなものです。本当にそんなのばっかりやっていた4年間でした。

バイトは都内の大手法律事務所でリタイプの仕事をしていました。当時は、ご年配の弁護士の先生がタイピングができなかったので、そこでお金を稼ぎながら映像制作をやっていました。

日本経済のどん底に映画会社へ

当時、新卒で映画会社に就職するのは、ほとんど道がなかったんです。私は映画プロデューサーになりたかったのですが、独立系で映画製作をやっている会社というのがなかなかなくて。

希望どおり映画製作をやっている会社に入れたんですけど、入ってみたら大赤字でした。私が新卒だった頃は、就職活動中にりそな銀行が国有化されて、株価も本当に低迷していた時期でした。映画をやりたいと思って会社に入ったものの、業界全体がみんなヒーヒー言っているようなところに飛び込んだ、という感じでしたね。

 

映画からM&A、そして経営者へ

プロデューサーと経営者は変わらない

私が就職した会社は主に映画製作事業を行う上場企業だったのですが、映画製作だけだとどうしても投資の回収期間が長いんです。制作して、映画館で上映して、ビデオグラムになって、テレビで放映されて、と投資回収にすごく時間がかかる。だから、映画事業だけでなく、事業ポートフォリオを組み替えていかないといけない、という局面でした。新卒で入って、いきなりM&Aや投資の仕事をやることになったんです。

そこからM&A後の対応、買った会社のバリューアップも私の仕事になっていきました。学生時代や就職活動の話では映画の話ばかりになるんですけど、図らずも社会人になってからは大半はM&Aやバリューアップでキャリアを築くことになりました。

ただ、私は映画でも監督ではなくプロデューサーになりたかったので、途中からは、扱う商品が映像作品なのか事業なのかという違いだけで、ビジネスとしてはプロデューサーも経営者もあまり変わらないなと思っていました。それで気が付いたら経営者になっていた、という流れですね。

伊豆シャボテン公園の買収

私が就職した上場企業は、途中で、「カピバラの露天風呂」で有名になった伊豆シャボテン公園をM&Aしたんです。今では、その上場企業は、私がその会社の社長を務めていた時に事業ポートフォリオの組み換えをして、伊豆シャボテン公園の運営が主力の事業となったため、社名も伊豆シャボテンリゾートという名前になっています。なぜ買ったかというと、事業ドメインを映画から広くエンターテインメントに拡張したのです。そこで映画業界以外にもCM制作の会社を買うなどもして、レジャー施設も近接した事業領域だと考えたからなんですね。

レジャー施設はお客様から入園料が現金収入で毎日パラパラと入ってくる。映画のように投資回収が長くない。エンターテイメント業界の事業ポートフォリオを構築する中での判断でした。

遠い距離のコンサルは面白くない

経営コンサルティングの仕事についても、私は遠い距離からのコンサルティングはあまり面白くないと思っているんです。私たちは経営支援といって、どっぷり入ってハンズオンでサポートする。成功報酬をいただきながらやる。そういうスタイルでやらせてもらってきました。

例えば、当時赤字だった大手YouTuber事務所「VAZ」の社長に就任して、一年で黒字化させ、最終的に上場企業にEXITして子会社化してもらう、というところまでやらせていただいたこともあります。自分が当事者として深く入り込んで、企業価値を上げていく。そういう仕事を積み重ねてきた感じですね。

 

LINEとAIで「当たり前」を仕組みにする

勝ちパターンは「チームのタスク管理」

会社経営に20年くらい携わってきて、自分が当事者として経営をやる場合もあれば、サポートする場合もある、というのをずっとやってきました。その中で、明確な勝ちパターンがあったんです。それが「誰が、何の仕事を、いつまでに」を簡単に管理する、ということなんですね。

複雑なツールはたくさんあるんですけど、続かないんです。大事なのは、チームで「誰が、何の仕事を、いつまでにやるのか」を簡単に管理する。これをやると物事が前に進む。当たり前なんですけど、いろいろな業種業態の経営をやってきて、抽象度を高めると、結局やっているのはこの「チームのタスク管理」の繰り返しなんです。

「チームのタスク管理」が簡単にできたら、日本の中小企業はもっとよくなるのに。もっと働きやすくなるのに。それをシステムでできないかなと思ったのが、40歳の元旦でした。後半の人生はこれをやろうと思って経営支援クラウド「スーツアップ」の企画書を書きました。今までプロダクト開発を4年半にわたり続けています。

「難しいとやらない」が答え

「スーツアップ」のサービスサイトには「LINEとAIで簡単」と書いているんですけど、結局「難しいとやらない」が答えなんです。

さっき言った3つの項目、「誰が、何の仕事を、いつまでに」。これを管理するのすら、みんな面倒くさくてやらなくなってしまう。そこをどうすればいいかを考えたときに、AIでタスクの設定が簡単にできて、LINEに「3日前ですけど大丈夫ですか」とリマインドが自動で飛んでくる。これが簡単にできることが、現時点のベストな答えだと考えています。やることが決まっていて、担当がちゃんと期日までにやりきれさえすれば、絶対にいい会社になるわけですから。

インターフェースも、表計算ソフトの入力画面を真似して作っています。例えば「記事メディアの運営方針の策定」と入力すると、競合調査やペルソナ設計、編集方針の策定、KPI設定などのタスク案がたった20〜30秒で生成されます。精度は経営コンサルタントが作成する案と比較しても7〜8割程度で、それをもとにタスクを担当者に割り振るだけです。これくらい簡単であれば続くんですよね。GoogleカレンダーやTeamsカレンダーにも同期できるので、転記する必要もありません。

未だにビジネスの現場のメインはエクセル

AIを使いこなせているかどうかで、すごく差が出ると思っているんです。私自身もバイブコーディングをするんですけど、先日も日本の中小企業の6割がまだAIを入れていない、という記事が出ていました。大企業でもAI利用のアクティブ率が低いのが問題になっているくらいです。

もはや若い方からするとエクセルですら少し遠い存在なのかもしれませんが、統計データでいうと、表計算ソフトのシェアのうちエクセルが8割くらいなんですよね。大企業だと40〜50代の意思決定者がみんなエクセルを使っているから新しいツールが入らない、とみんな言うんです。だからこそ弊社は、あえてエクセルやスプレッドシートを真似たインターフェースにしています。

なお、スーツアップの料金はスタータープランで1アカウント月額500円。安く始められるツールにしているのも、続けてもらうための工夫のひとつです。

 

当たり前のことを、当たり前に

凡事徹底という経営の要諦

経営で大事なのは「凡事徹底(ぼんじてってい)」だと思っているんです。当たり前のことを当たり前に。弊社の「スーツアップ」は、やるべきことをちゃんと決めてやりましょう、というのをサポートするツールです。

メールを丁寧に返すとか、資料をしっかり作るとか、一つひとつをちゃんとやることが大事です。経営全般すべてにおいて言えることだと思っています。スタートアップだと雑な対応でもいいんだ、と言う人もいますけど、そんなことはないですね。社内においても、「凡事徹底」を大事にしています。

集合知で日本の生産性を上げる

弊社には榊剛史(さかき たけし)先生という技術顧問がいます。東京大学で研究を重ねてきたAI研究者で、2020年に中国・清華大学が選んだ「世界的AI研究者2000人」に、日本人の研究者は8名が選出されたのですが、そのうちの一人として選ばれた研究者です

「スーツアップ」では、日本の中小企業のタスクのデータをためて、それぞれの業種業態・職種の人たちに、最適なタスクの分解・設定をAIで提案する、ということを実現したいと考えています。少し長い目線になりますが、業務の標準化を通じて、日本の中小企業の生産性を上げていきたいと思っています。

一緒に働きたいのは長い思考ができる人

弊社は、今は業務委託のエンジニアも含めて10名ちょっとの規模で、中途社員もインターンも募集しています。一緒に働きたいのは、時間軸を長めに考えられる人ですね。

専門性の獲得は小手先ではできないので、長く考えてどっしり構えないといけない。弊社がやりたい「日本の中小企業の生産性を上げる」「業務を標準化する」というのは、AIが発展したとしてもパッと解決できることではないんです。だからこそ、長い視点で考えられる人と一緒にやりたい。最近は若い方がAIの流行り廃りに振り回されてしまっているように見えますけど、弊社は流行りでAIを追いかけているわけではないので、弊社の実現したい未来を面白いと思える人に来てもらいたいなと思っています。

 

学生のみなさんへ

手段に振り回されないでほしい

学生のみなさんに伝えたいのは、手段に振り回されないでほしい、ということですね。困りごとがあって、それを解決したいという気持ちがある。そのうえで自分の進路ややりたい仕事を探していくといいんだろうなと思います。

AIはすごいし、これからもどんどん広がっていくとは思うんですけど、あくまで道具なんですよね。その部分に振り回されていたら、「結局あなたは何の仕事がしたいんですか」という話になってしまう。AIをキャッチアップするのはした方がいいと思いますけど、それに振り回されるのは、ちょっと違うのかなと思っています。

切り口が「若い」は短期的な道具

学生起業をしている若手経営者ともよく話すんですけど、若者向けや学生をフックにした商売は、小さくまとまりがちなんですよね。最初は同年代の若者を集められるから、人材系や広告、イベントといった商売をやるんですけど、年を重ねると、その切り口が取れなくなってくる。仮に経営者が30歳、50歳になっても大学生を相手にするのか、という話になりかねない。

若さはいつかなくなるし、若者の友達もいなくなる。その中でも運営できるか、を考えないといけないと思っています。「学生だから時間を取りますよ」という人はたくさんいるけれど、実際にお金が流れるかというとまた別ですから。「若さ」を切り口にするという考えは、あくまで短期的な道具だと思った方がいい。視点を変えて、自分の周りから少しずつ離れたところで商売をしていく方がいいですよ、という話をよくしていますね。

 

編集後記

映画青年がプロ経営者になり、今は中小企業の生産性改革に挑んでいる。一見バラバラに見えるキャリアが「プロデューサーも経営者も変わらない」という一本の軸で貫かれていることに、お話を伺いながら何度もうなずいてしまいました。なかでも胸に刺さったのは、学生起業の「「若さ」を切り口にするのは短期的な道具」という言葉です。同じく学生で事業をやっている身として、つい目の前の追い風に頼ってしまう自分を見透かされたようで、背筋が伸びました。「当たり前のことを当たり前に」という凡事徹底の姿勢は、派手さこそないものの、長く戦える人の強さそのものだと感じます。小松社長の著書もさっそく拝読し、これからの事業づくりに生かしていきたいです。